あなたの顔を這い、産卵している「顔ダニ」とは?

2019年3月20日

顕微鏡で拡大すると、あなたの顔には薄気味悪い生き物が這っている様子が見られるでしょう。

この肉眼では見えない生き物の正体は「ニキビダニ」。彼らは、今の瞬間、または、数日以内には、顔の上で居心地の良い毛穴を見つけて、卵を産みます。

ダニは、ほぼすべての成人に生息しているといわれています。スキンシップで頬をひっつけるだけで人から人へ簡単に受け渡され、どんどん繁殖の場を広げているのです。

しかし心配しないでください。彼らは通常は害を及ぼすものではありません。

ただし、顔ダニの個体数があまりにも増え過ぎると問題が生じてしまうようです。

ここでは、地球上に5万種を超えるといわれるダニ類のなかでも、人の皮膚に寄生する身近なダニ「ニキビダニ類」の興味深い生態について分かりやすく紹介します。

ニキビダニは、体の他の部位に比べて毛穴が大きく、多くの皮脂腺をもつ「顔」の皮膚上で特によく見られるため「顔ダニ」とも呼ばれています。皮脂分泌の盛んな鼻や頬、おでこでごちそうを満喫し、今この瞬間もあなたの顔で繁殖を続けているかもしれません。

顔ダニとは?

砂の粒よりも小さな8本足の節足動物「顔ダニ」は、クモガタ類(クモやサソリ、ウデムシ)の一種で、そのなかでも、特に種類が多いことで知られるダニ類に属します。

昆虫のように頭、胸、腹には分かれてはおらず、外見だけでは頭胸部と腹部が一体化したミミズのようにもみえる生き物。肛門を持たず、頭の近くには8本の短くて太った脚があります。

ダニは、人間が近代化するはるか昔の地球上にも生育していたと考えられています。その小さな体を活かして深海や高山など特殊な環境にも適応していき、地球上のありとあらゆるところにもぐりこんで生育してきました。

顔ダニも、新人類が誕生する20万年以上前から人体に寄生していたと科学者たちは考えています。私たちの祖先のすぐそばで、顔ダニの祖先たちも生育し、人類とダニは長い年月をかけて共存してきたのです。

顔ダニはほぼすべての人の顔に寄生している

1842年にはフランスで、人の耳垢にダニがいることが発見されました。

そして、2014年。ノースカロライナ州立大学の昆虫学助教授Megan Thoemmesさんらによって、地球上のほぼすべての成人の顔に、高い確率で、顔ダニが寄生していることが示されました。

顔ダ二数の推測は困難ですが、一つの皮脂腺に1匹から数匹程度、顔全体では少ない人で数百匹、多い人では数千匹、それぞれのまつ毛には、約2匹ずつ寄生していると考えられています。

顔ダニにはいつ感染するのか?顔ダニは取り除けるのか?

まず、生後数日で赤ちゃんは両親からスキンシップや授乳を通じて顔ダニを得る可能性があります。出産中、特に経膣分娩(膣を通じた出産)の場合にも母から子に直接渡されると指摘する専門家もいます。

すると、顔ダニは、赤ちゃんの毛穴から豊富にわき出る皮脂や組織の栄養分を吸いはじめ、夜になると毛穴から出てきて交尾をします。このようにして、新たなダニのコロニーが顔中のあらゆるところで生まれます。

(顔ダニが何を食べるのかについては明確にされてはいませんが、皮膚のバクテリアや死んだ皮膚細胞、皮脂などが有力説で、共食いはしないと考えられています)

その後、メスは皮膚に穴をほって、その中に体の3分の1から2分の1に相当する大きな卵を産みます。

卵を産む場所は、種に応じて2か所あり、体長が長い種(ニキビダニ)は毛穴と毛嚢に、短い種(コニキビダニ )は皮脂腺の深くに好んで産卵します。

2、3日もすると卵から赤ちゃんが孵り、それらは2週間も経たないうちに卵を産みます。

このようにして、顔の上には膨大な量のダニの死骸が置き去りにされていきます。

実のところ、顔ダニやそれらの死骸は、洗い流すことはできますが、完全に取り去るのは難しいといわれています。

なぜなら、顔ダニは、タオルや枕、シーツとの接触、愛する家族や恋人との触れ合いなどから移りやすいため、たとえ抗生物質で、顔ダニの感染を治療したとしても、6週間も経たないうちに再び感染する可能性が高いからです。

人体には、約500万の毛包が広がっており、地球上には70億人以上の人間がいることを考えただけでも、顔ダニの総生息域は計り知れないもので、顔ダニへの感染が非常に身近なものであることが分かります。

少し怖いような気もしますが、幸いにも、通常、顔ダニは無害だといわれれいます。

顔ダニによる影響とは?害を及ぼすことはあるのか

実のところ、免疫系障害のある人や酒さ(しゅさ)と呼ばれる皮膚疾患をもつ人などは、顔ダニによる発疹や炎症を生じる可能性は否定できません。

これについては、アイルランドのメイヌース大学のKevin Kavanagh氏は、ダニが死ぬときに、皮膚に炎症を引き起こす細菌や毒素がダニからたくさん放出されるからではないかと考えています。

通常は、皮膚の1平方センチメートルあたり1匹から2匹のダニがいるといわれていますが、エイズやガンといった免疫不全の人や酒さの人は、その10倍に相当するダニが顔に生育していると示した研究もあります。

一方で、信じられないかもしれませんが、場合によってはこの招かれざる客が役に立つこともあります。それらが、古い角質を取り除いたり、有害な皮膚細菌を食べてくれたりする可能性があるからです。

さらに研究がすすむにつれて、顔ダニが、私たちの祖先を知る手がかりになることへの期待が高まっています。

ダニは人類の進化の歴史を語る

ほとんどの顔ダニは、限られたコミュニティ内に生育します。そして、時代の移り変わりとともに、アジア人の顔にはアジアのダニが、ヨーロッパ人にはヨーロッパ特有のダニがというように、それらは異なる地で、それぞれが独自の系統に進化してきました。

そのため、科学者らは、それらのDNAを比較することによって、世界中の人々の祖先が、どのようにして大陸間を移動してきたかを追跡することができると考えています。

たとえば、ある研究では、ヨーロッパのダニが、4万年前に、東アジアのダニと遺伝的に分岐したことが分かりました。それは、現代ヨーロッパ系と現代東アジア系が分岐したのと同じ時期です。

また、中国人の顔ダニは、アメリカ大陸の顔ダニと遺伝的に異なることも発見されています。

これらはまだ憶測ではありますが、何万年も前から私たちの祖先と共生してきた顔ダニが、今、人類の歴史やDNAの進化、免疫システムの変化などを知る手がかりとして期待されているのです。

最後に

顔ダニが、私たちと長い年月をかけて共存してきたのであれば、彼らが人類(環境要因)に順応して遺伝的性質を変化させてきたのと同様に、私たちの祖先も彼らに対して免疫反応を起こすことで、結果として免疫システムを変化させてきた可能性があります。

顔ダニだけではありません。

私たちの体は、細胞の90%以上が、腸内細菌をはじめ、バクテリアや菌類などの微生物と共生しています。つまり、一つの身体が一つの「生態系」を維持しているのです。

歩く生態系である人間の免疫システムは、体に寄生したこれらの目には見えない微生物と相互に影響しあう、いわば切っても切れない関係なのです。

それが分かると、顔ダニに対してもこれらの微生物同様、あまり神経質にならず、うまく共生関係を築いていく方法を考えていくべきなのかもしれません。

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