ドナーは、「肝臓」再生後に何度まで提供できるのか?

2020年2月23日

肝臓は、再生能力の高い臓器だといわれています。

人間には不可欠なものですが、健康であれば、たとえ半分以上を切除しても、残りの組織が再生して1年以内にはほぼ元の大きさに戻ります。

それなら、健康なドナーが、肝臓の一部を何度も繰り返し提供して再生し続けることはできるのでしょうか?もし可能なら、多くの人の命を救えるはずです。

しかし、残念ながらそう簡単にはいかないようです。

ここでは、再生する唯一の臓器といわれる「肝臓」において、一人のドナーが提供と再生を何度も繰り返すことが難しい理由を分かりやすく紹介します。

肝細胞の再生は、再生医療への明るい未来につながるとても興味深い分野でもあります。

再生できるただひとつの臓器「肝臓」

私たちヒトがもつ肝臓は、高い再生能力を秘めています。

過去に行われた27人の生体肝移植(生きた人から、肝臓の一部を切除して提供)ドナーの研究によると、手術によって一部分を切り取ったドナーの肝臓は、わずか一か月後には機能を正常に戻し、1年もたたないうちに元通りの大きさに戻ることが分かりました。

そして、興味深いことに、肝臓が再生できるのは一度きりではないとも考えられています。

少しかわいそうですが、ラットで行われた実験では、全体の3分の2を切除した肝臓が1週間で元の大きさに戻るだけでなく、同じラットの肝臓を何度も切除したところ、12回も元通りに再生されています。

しかし、私たちの肝臓は、ラットとは構造が異なるために同じようにはいきません。もし再生した肝臓の一部分を再び提供できたとしても、おそらく医師はすすめないでしょう。

なぜなら、たとえドナーが60歳までの健康なヒトでも、元通りの大きさまで「再成長」した肝臓は、厳密には「完全な再生」とはいえないからです。

完全な再生とは

トカゲは、捕食者に尾をつかまれると、尾を切って再生することができます。しかし、トカゲの場合、再生は一度だけなうえ、尾の骨までは再生できず、再生後は軟骨によって支えられます。

しかし自然界には、イモリやサンショウウオ、ヒトデのように、たとえ手足を切断しても、何度でも「完全な再生」ができる生き物がいます。扁形動物においては、身体の半分以上を失ったとしても再生できます。

それは、イモリが一本の足を切断しても、その近くの細胞が脱分化するからです。

脱分化とは、細胞が、骨や皮膚、筋肉といった特定の器官として役割分担される前の未発達な胚的なものに逆戻りし、どのような細胞にもなれる状態に変化することです。

そして、これらの脱分化細胞は、増殖して足の元となる筋繊維や骨、皮膚などにグループ分けされ、それぞれが特定の役割を担うことで傷や欠損部位を再生していきます。

つまり、細胞としての役割を取り消した(脱分化)後、もう一度胚の状態からやり直して、記憶通りに完全に再生させてしまうのです。

私たちもイモリのように身体を再生できるなら、どんなに素晴らしいでしょう。

しかし、ヒトが肝臓を欠損した場合はそうはいきません。

ヒトの肝臓でおこる再生とは

ヒトの肝臓では、「脱分化」の代わりに、すでに成熟した細胞の増殖が起こります。

既に役割分担をもった細胞が増殖して、切断した部分を修復しようとするため、再生した肝臓の大きさは元通りになったとしても、細胞の構成や形態、血管の配列などが損傷前と同じではなくなってしまい、完全な複製とはいえないのです。

つまり、再生後の肝臓は、機能的に戻ったとしても、本当の意味での「再生」ではありません。これは専門的には、代償性過形成と呼ばれる状態です。

再生した肝臓が完全な複製ではないがゆえに、再び肝臓の一部を取り出そうとすると、結果的に安全性が低くなるだけでなく、移植を受ける人へも血管の縫合が難しくなるなどリスクを伴います。

実は、ヒトも胎児のときは万能な幹細胞があった

私たちの体は、神経細胞から骨細胞、皮膚細胞まで、さまざまな種類の細胞組織からなる臓器でできています。

実のところ、まだ胎児のとき、私たちには、どのような細胞にも分化して増殖できる「幹細胞」とよばれるものがありました。

それは、まだ器官としての役割が与えられる前の未分化細胞で、肝細胞や血液細胞などに多様に変形、または、分化できる超強力な細胞です。私たちの体が必要とするあらゆる種類の細胞になれるため、胃の裏から筋肉、皮膚まで、あらゆるものを成長させるのに役立ちます。

しかし、成長するにつれて、どんな細胞にもなれる幹細胞は失われていき、身体の各部位の中にある特定の未分化細胞だけになります。骨髄の特定の幹細胞は、血液、または、免疫細胞にならなければならず、腸にある幹細胞は腸の細胞になれるだけで、必要だからといって、肝細胞や神経細胞になれるほど万能なものではありません。

そもそも、なぜ人類は、腕を再生できないのでしょうか?

科学者はそれが進化的なトレードオフだと考えています。

たとえばトカゲの身体は小さいために、尾の再成長には数週間しかかかりません。

しかし、ヒトが腕全体を再生するには、多能性幹細胞を保持するために大きなエネルギーが必要となり、多くの時間とエネルギーを消費します。

そのため、時間とエネルギーを無駄にするのではなく、傷の上に瘢痕組織を成長させて、腕なしで生きることを学んでいったのです。

最後に

身体のなかで最も大きな臓器といわれる肝臓は、胆汁やホルモンを作るだけでなく、何千もの酵素を使い分けて栄養素をつくりかえて貯蔵したり、毒物を解毒したりとさまざまな働きをします。

肝臓が完全に働かなくなった場合、おそらく数日で命を落としてしまうでしょう。

そのため、人類はそれを防ぐために進化し、肝臓の一部を失っても残りの細胞が増殖して、肝臓組織の塊を再形成する能力をつけてきました。

今の科学でもってしても人工的な肝臓の代替品をつくることはできないといわれています。

生体肝移植が、多くの命を助けることは本当にすばらしいことです。

しかし、肝臓が切り取られても再生できる唯一の臓器だからとはいえ、何度も同じドナーの肝臓を使うのは、ドナーにとっても移植を受けるヒトにとってもリスクが高く、よくないようです。