塩(塩化ナトリウム)の代わりが作れないのはなぜ?「減塩された塩」の秘密とは

2018年10月23日

おそらく「塩分の摂りすぎは体によくない」と分かっている人は多いでしょう。

しかし、ここでいう塩分とは塩の主な成分である「ナトリウム」を意味することは意外に知られていません。

ナトリウムは、体に不可欠な栄養素のひとつですが、摂りすぎると高血圧症や心疾患などの健康リスクを高めるために注意が促されているのです。

食塩よりはよいかもしれませんが、岩塩や海の塩のような自然塩にも、ナトリウムは含まれています。

そのため、科学者たちは、何十年もの間、塩気を感じられて体にも安全な塩(塩化ナトリウム)の代わりを作ろうと試みてきました。

なかには、ナトリウムの含有量を減らした減塩調味料(調整塩や減塩しょうゆ、減塩みそ、減塩つゆの素など)も開発されてはいますが、残念ながらそれにも問題はあり、もはや塩と同じ風味や味を作り出すのは不可能とすら考える専門家もいます。

それでは、砂糖であればアスパルテームやスクラロースと呼ばれる人工甘味料をはじめ、オリゴ糖など代替品がたくさんあるのに、食用の塩になると現代の科学をもってしても代わりが作れないのは一体なぜなのでしょうか?

それには、塩の成分や人間の味を感じる器官の仕組みが深く関係しています。

ここでは、なにが塩を唯一無二の特別な存在しているのかについて、減塩調味料の開発への取り組みもあわせて分かりやすく紹介します。

塩の代替品

世の中には、酸と塩基を反応させて人工的に作られた塩(えん)が数多くあります。

それらは陽イオン(正の電気をもった粒子)と陰イオン(負の電気をもった粒子)でできた化合物で、主に工業用に使われています。

しかし、調理用の塩(しお)となると話は別です。

私たちがポテトチップスに振りかける食用の塩(しお)は、ただひとつ(塩化ナトリウムを主な成分としたもの)しかありません。

その理由を探るために、まずはカギとなる塩の粒子の大きさについて考えてみましょう。

塩の粒子の大きさがカギ

塩分は生命維持に不可欠にもかかわらず、体内では生成できないため、私たちは食品から摂取するしかありません。

摂取された塩分は、舌で水分に溶けて、ナトリウムイオン(陽イオン)塩化物イオン(陰イオン)に分解され、塩気を感じる味覚受容体に適した大きさや形態となります。

実のところ、味覚受容体のどの部位が、塩の(負の電荷をもつ)陰イオンを認識するかまでは特定できていませんが、塩の成分である塩化物イオンの素粒子が小さいがために、塩気を感じることができると考えられています。

塩の代替品候補その1「酢酸イオン」

塩の代わりとして、塩化物イオンよりもはるかに大きな粒子をもつ「酢酸イオン」が使われることもあります。

酢酸イオンは、塩気をおさえて酢の風味(酸味)を与える特徴があり、ポテトでいうと、フレンチ風味といった酸っぱい風味を出したいときに使用されています。

舌にはナトリウムイオンだけを流入させる膜タンパク質がある

2010年の研究によって、私たちが塩気を感じるには、舌の味蕾(味を感じる器官)にあるナトリウムイオン特有の味覚受容体のひとつ「上皮性ナトリウム(イオン)チャンネル」が関わっていることが分かりました。

上皮性ナトリウム(イオン)チャンネルとは、細胞の生体膜にあるタンパク質の一種で、ナトリウムイオンを流入させて、味覚受容体に導く役割があります。

このナトリウムイオンが味覚受容体の細胞に届くと、最終的に脳に信号が自動的に送られて、塩気を感じるようになるのです。

このようにしてナトリウムイオンは、選ばれて味を感じる細胞に到達するわけですが、この選択制が、塩の代わりが作れない要因のひとつにもなっていると考えられています。

塩の代替品候補その2「減塩商品に応用されている塩化カリウム」

塩化ナトリウムと同じように塩味を感じるイオンのひとつに「塩化カリウム」があります。

カリウムイオンは、残念ながら塩気を脳に伝えるためのチャンネルを通過することができませんが、カリウムイオンによる塩気は、苦くて金属っぽい奇妙な香りを放ち、私たちの舌を鋭く刺激する特徴があります。

私たちの舌はこれに非常に敏感であるため、この仕組みを利用して、減塩を売り出したい企業は、通常の塩(塩化ナトリウム)にこの塩化カリウムを目立たない程度に混ぜて使用することがあります。

実のところ、塩化物イオン(陰イオン)を置き換えても、塩の代替品としては機能しないため、陽イオンであるナトリウムイオンを置き換える選択肢は利にかなっているといえそうです。

さらに研究がすすむにつれて、塩には、味覚細胞になんらかの影響を与えて苦みを抑える効果があることが分かってきたため、カリウムイオン独特の苦みをある程度調節することで、塩っ辛さがうまく引き出せているのかもしれません。

このような点で、塩化カリウムは、ナトリウムの摂取量を控えたい一部の人にとっては働くといえそうです。

しかし、塩化カリウムは、一部の薬と危険な相互作用を引き起こす可能性があり、腎臓病を患う人にとっては安全とはいえないため、残念ながら塩の代わりとしてパーフェクトな解決策とはいかないようです。

塩の代替品候補その3「塩化リチウム」

さて、実のところ、味に関してだけなら、塩の代わりとしての素晴らしい働きをするものがあります。

上皮性ナトリウムチャンネルを通過できるため、塩化ナトリウムとほぼ同じ塩気を感じさせるといわれる「塩化リチウム」です。

過去には実際に、高血圧症や心臓病の人のために、塩の代替品として塩化リチウムベースの塩が販売されていた時期もありました。

しかし、リチウム中毒患者が出はじめたうえ、死亡するケースもあったため、塩化リチウムの「毒性」が認められて今では塩の代替品として使われなくなりました。

まとめ

ある研究では、塩のナトリウムが、糖を味覚受容体に流入させるタンパク質の働きを助けるため、塩を加えることで甘味が増大することが示されています。

このように研究がすすむにつれて、塩には、料理に塩気を出すだけでなく、苦みを抑えて甘味を増し、素材に深い風味を足して一層おいしく感じさせるという素晴らしい働きがあることも分かってきたのです。

まさに、塩は、必要な栄養素としてだけでなく、料理界のヒーロー的な存在ともいえるでしょう。

しかし、一方で高血圧症や心臓病の人にとっては、ナトリウムの摂りすぎには注意が必要だといわれています。

そのため、さまざまな企業が減塩を掲げた商品の開発に努めてはいますが、残念ながらいまだに、安全な塩(塩化ナトリウム)の代わりは存在しません

今、科学者たちは、より創造的な塩の成分の組み合わせに取り組んでいます。

もしかしたら、いつの日か、食塩に近づく塩の代替品は生成されるかもしれません。

しかし、それまでは、料理に塩気を足したい場合は、(化学的に作られた精製塩ではなく)ミネラルを含んだ自然塩を手にしたり、薬味やスパイス、酢やレモンなどの酸味を活用しなければならないようです。

その他の参照元:
Why Does Salt Make Food Taste Better?