今回は、「お酒を飲むとトイレが近くなって困る」という悩みを持っている人に役立つお話。
まず、お酒の強さとトイレの近さは関係ありません。
お酒を飲むとトイレが近くなる理由は、アルコール成分による利尿作用に加えて、水分摂取量も増え、それがダブルパンチで膀胱を刺激するからです。
さらに女性は尿道が男性より短いのでトイレが近くなりやすい傾向があります。
さらに、一度トイレに行くと、すっきりするどころか、その後は爽快感を覚えた脳から排尿を促すような催促が起こるため、封を切ったように数分おきに行きたくなってしまうという異常なトイレの近さを経験することもあります。
英語では、これを「break the seal(再封印できないシール)」といい、一種の都市伝説のようにいわれているほど。
ただし、英語でbreak(壊す)と表現されるからといって、お酒を飲むと膀胱がマヒしたり、膀胱や肝臓の機能が一時的に問題を起こしたりするというわけも、お酒の強さとトイレに行く頻度が関係するわけでもありません。
どうやら、飲み会でトイレの近さをコントロールする方法は、飲む量を制限する以外にはないようです。
さっそく以下にその理由を分かりやすく解説していきましょう。
飲酒量がトイレの回数に影響を与える
人が膀胱で尿をためることができる容量には個人差があります(約400mlから約1000ml)。
そして、尿の回数は、膀胱の容量が小さければ頻繁になりやすいだけでなく、気温や飲水量の影響などによっても増えます。
実は、私たちの膀胱の機能はとても高度なのを知っていますか?
お酒を飲む場合、飲酒量が多いほど新しい尿がたくさん作られていきます。
お酒を飲み始めて最初に出されるのは古い尿ですが、飲むペースが速いほど、新しい尿がつぎつぎと作られて膀胱を短時間でパンパンに満たしていきます。
そして、膀胱が急速に充満すると、膀胱壁の一部である排尿筋に圧力がかかり、おしっこをしたくなるのです。
一般的に、膀胱の水分保有量の平均は、およそ2カップだといわれ、膀胱がどれだけ速く満タンになるかは、その人がどれだけお酒を飲んだかによります。
たとえば、ウィスキーをショットグラスで飲むよりも、ビールをグラス1杯飲む方が膀胱は早く満たされて、それだけトイレに行く回数が増えるというわけです。
これに加えて、お酒を飲むとアルコールの成分自体が抗利尿ホルモンの分泌を抑えるので、トイレが近くなるのもうなずけます。
アルコールの利尿作用がトイレの回数に影響を与える
アルコールには利尿作用があるといわれています。
利尿作用とは、通常よりも尿意を増加させ、体の水分をより多く失わせようとする働きを意味します。
私たちの脳は、バソプレシンと呼ばれるホルモンを産生しています。
これは、抗利尿ホルモン(ADH)とも呼ばれ、人が脱水状態になるときに、腎臓に働きかけて、利尿を抑え、体内に水分の吸収を促すことで知られています。
たとえば、眠っているときの体は、バソプレシンを生成することで、夜中にトイレで目が覚めるのを防いでくれます。
ところが、アルコールは、このバソプレシンの正常な分泌をブロックすることが2010年の研究によって分かりました。
分泌が減少すると、体が、実際よりも体内水分量が多いと勘違いしてしまい、通常よりももっと水分を排出しようと働くのです。
これについて、グリックマン泌尿器科および腎臓研究所の泌尿器科医であるコートニー・ムーア博士は次のようにいいます。
飲酒が始まると、アルコールは、バソプレシン(抗利尿ホルモン)を低下させ、水分を産生します。
あなたは、飲酒によって体液を増やします。これらが組み合わさると排尿への切迫感が生まれるのは当然です。
そして、膀胱が満たされると、バソプレシンはさらに抑制されるという悪循環を繰り返します。
このとき、余分に排出された尿は、摂取したアルコールだけでなく、体液の貯留から生じたものです。
これによって、貯留された体液が減少すると、アルコールによる脱水症状が引き起こされて、二日酔いの原因にもなります。
最初のトイレタイム後から、おしっこを我慢できなくなる理由
一般的に、水分を摂取するとトイレに行きたくなるのは生理的現象のひとつです。
しかし、研究によってさらに新たなことが分かってきました。
トイレに行くのを我慢してもいい?
お酒を飲んでいるにも関わらず、トイレを我慢し続けると、尿路感染症(にょうろかんせんしょう)のリスクを高めます。
さらに、膀胱から排尿のタイミングを知らせる脳への接続に影響を与えたり、尿漏れを防いでいる括約筋を損傷したりする可能性もあります。
詳しくはこちらを参照:
飲み会でトイレの近さをコントロールする方法はあるのか?
お酒を飲むと、トイレに行きたくなるのは自然の摂理で、それを防ぐために私たちができることはありません。
たしかに、なかにはトイレが近い人に比べて、尿道括約筋が発達していたり、普段からトイレを我慢する習慣があったりなど、お酒を飲んでもあまりトイレに行かない人もいるかもしれません。
しかし、何度もトイレに駆け込まないための最善策は、飲む量を制限すること以外にはないでしょう。
適度に飲むことは、飲みすぎや二日酔いを防ぐだけでなく、腎臓の機能を適切に維持し続けるためにも重要なのです。
トイレが近くなりやすい飲み物
そこで、トイレの回数をコントロールするのに役立つお酒の選び方のヒントとして、National Association for Continenceを参考に、以下に膀胱を刺激しやすいので避けた方がよいお酒や適度な摂取量の目安を紹介しておきます。
厚生労働省が示す節度ある適度な飲酒量を純アルコール量で考えると20gなので、それをもとに目安の摂取量をお酒の種類別に見ると以下となります。
- ビール(5%)で500ml 中瓶1本、ロング缶1缶
- ワイン(12%)で約200ml
- 日本酒(15度)で約1合(180ml)
- ウイスキー(40%)で約60ml(ダブル1杯)
- 焼酎(25度)で約100ml
- チューハイ(9%)で280ml、7%で350ml
「飲酒とトイレの回数の関係」まとめ
お酒を飲むと、アルコールによる利尿作用と、短時間に行われる大量の水分摂取がともに組み合わさって膀胱を刺激し、排尿に直接的な影響を与えていきます。
それによって、尿の回数が増えるかもしれませんが、実際にお酒の水分で膀胱が満タンになるのも速くなっているので、トイレは決して我慢しないでください。
特に、女性は尿道が男性より短いのでトイレが近く、我慢すると細菌が入りやすい傾向があります。接待などでトイレに行きにくい場面では適度な飲酒量を意識した方がよさそうです。
また、トイレを我慢したくないからといって、水分の摂取量まで減らしてしまうのもいけません。
飲酒量を抑え、脱水症状や二日酔いを防ぐためにも、お酒を飲むときは、定期的な水分補給を心がけてください。
参照元:
・The science behind “breaking the seal” — why alcohol makes you pee more often
・nbcnews