タコやイカは特殊能力「瞬時に遺伝情報を書き換える」があるって本当?

DNAを変えずに遺伝情報を変えてしまうタコやイカの特殊能力動物・植物・生き物

タコは、祖先から受け継いだ永久的な変化に頼るのではなく、その場で遺伝子の指示をさっと書き変えてしまうことができます。

これは本当に特殊な能力ですが、代償もあるようです。

一体彼らはなぜDNAの恒久的な変化ではなく、一時的な遺伝情報の変化を選んだのでしょうか?

イカ、タコ、アンモナイト、頭足類は、とてもユニークな生き物です。

墨を吹いたり、色や形を瞬時に変えたり。

しかも、彼らのユニークさは、DNAレベルにまで及んでいます。

なんと、ゲノムの遺伝情報を、その場に応じて、臨機応変に書き換えてしまうのです。

それは、研究者らが、絶対に不可能だと思っていたことでした。そもそも、遺伝子は、長い年月をかけて少しずつ変化し、それをコピーして受け継ぐことで進化してきたと考えられてきたからです。

タコについては知れば知るほど、本当に地球の生物なのかと疑いを隠せません。

以下に、タコのDNAレベルでの驚異的な能力とその代償についてを理解するために、まずは、「細胞がどのようにして必要なタンパク質を作るのか」から分かりやすく紹介していきます。

すべての遺伝情報はDNAにあり、使うときにはコピーする

DNAのコピー タコ

細胞の核の中には、DNAが存在しています。その中には、細胞が作るすべてのタンパク質の設計図となる遺伝情報(親から子に受け継がれる情報)が含まれています。

しかし、実際にタンパク質を作るためには、その設計図にもとづいた指示を外に出さなければなりません。

そこで登場するのがメッセンジャーRNA(mRNA)です。

遺伝子から何かを作るために、細胞はまず、必要な部分の情報をmRNAにコピーします(転写)。

すると、そのmRNAは指示物質となり、核から情報を持ち出して、細胞内のタンパク質を作る工場に送ります。工場では機械がこの設計図をもとに、タンパク質を合成し、それが体中の必要とされるところへ輸送されるのです。

1つのmRNAの指示書から作れるタンパク質の数は限られているため、細胞が多くのタンパク質を必要としたり、常に供給を必要としたりする場合には、より多くのmRNAが作られます。

一般的な進化とは

さて、私たちは通常、生物が環境に適応するために、そのゲノムに恒久的な突然変異が起こると考えています。

DNAに変化が起こると、mRNAのコピーにも変化が起こり、それによってmRNAから作られるタンパク質にわずかな変化が生じます。

そして、その新しいバージョンのタンパク質がその生物の生存や繁殖に役立つのであれば、次の世代ではより多くの集団がそのタンパク質を持つことになります。

これが一般的に考えられている進化です。

タコは遺伝情報のコピーを自ら書き換える

イカ、タコは遺伝情報のコピーを自ら書き換える

しかし研究者たちは、タコ、イカ、コウイカなどの頭足類が、その場に応じてmRNAの遺伝コードを編集し、環境に適応していると考えています。

遺伝子のコードをコピーした後、自ら酵素を使って配列を書き換えたり、つなぎかえたりして編集できます。驚いたことに、遺伝子の編集を、核の外(細胞質)で行っているのです。

それが可能なら、DNAそのものを変異させるよりも、はるかに速く簡単にタンパク質を変化させることができます

しかし、ちょっと面倒なこともあります。

料理のようなものだと思ってください。

DNAはレシピで、mRNAはレシピに従うシェフです。

そして、細胞が作り出すタンパク質は、食事です。

DNAが突然変異すると、レシピは永久に変わりません。

しかし、mRNAが編集されるとは、シェフがその日の気分で「砂糖の代わりに塩を入れよう」と勝手に決めるようなものです。

ご想像のとおり、この種の編集は通常、ものごとを良くするよりも、壊すことの方が多いのです。

そのため、簡易なmRNAの編集によって、予期せぬ病気や障害が引き起こされることも多いようです。

だからこそ、多くの生物がRNAの編集を行うことができるにもかかわらず、まれにしか用いないようにしているのです。

遺伝子情報に柔軟性を加える能力

例えば、私たち人間は、mRNAの3%しか編集していません。

一方で、アメリカケンサキイカは、神経系のmRNAの60%以上を編集していることが、2015年に研究者たちによって発見されました。半分以上の遺伝子の転写に対して行っているのです。

これは、他の動物で誰も見たことがないほどのスケールの大きさです。

また、頭足類は、酵素を使ってタンパク質をコードする物質を変えても、DNAに記載された古いバージョンの遺伝子の指示も保持していることも明らかになりました。

つまり、進化的に、なにか起こったときにその場でmRNAを編集する能力を身につけてきたもので、この編集技術は、頭足類が環境の変化にすばやく適応して生き残るための遺伝子戦略として役立ってきたと考えられています。

温度など環境条件の変化への適応に役立つ

このような特異な方法によるmRNAの変更は、一時的なものです。

DNAのように次の世代に引き継がれるものではなく、その遺伝子から作られるすべてのmRNAに起こる必要もありません。

つまり、動物が、DNAを変えることなく、あるタンパク質の異なるバージョンを、自分に合わせて使い分けることができるのです。

例えば、タコはRNA編集のおかげで、周囲の水の温度に応じて異なるタンパク質を作り出すことができます。

一般的に、冷たい温度ではタンパク質の動きはが鈍くなります。これは、冷たい水のタコの行動は全てがのろいことを意味します。

しかし、寒い海に住むタコと暖かい海に住むタコがほぼ同じDNAを持っていますが、寒流に住むタコは、特定の神経系タンパク質のmRNAをより多く編集して、寒くても速く動けるように調整できることを研究者たちは発見しました。

つまり、神経系に起きな改変を加えてRNAを編集することで、1つの遺伝子だけで、DNAに永続的な変化を加えることなく、暖かい海でも冷たい海でもうまくやっていけるのです。

タコは頭が良い

RNAの編集は、1つだけでなければならないというルールはありません。

編集可能な場所がたくさんあれば、動物は同じ遺伝子からDNAでコードされていないたくさんの異なるタンパク質を作ることができます。

研究者たちは、このような複雑なレベルのタンパク質を作り出す能力が 頭足類の最大の特徴である「頭の良さ」を説明できるのではないかと考えています。

タコとその近縁種は、社会的行動をとる知性的な生き物として知られています。

YouTubeで検索してみると、カメレオンのように皮膚の色を瞬時に変えたり、瓶を開けたり、水槽から脱出したり、複雑な狩りをしたり、写真を撮ったりする姿さえ見られます。

また、これらの生物は、学習と記憶に特化した脳葉を含む、非常に複雑な神経系を持っています。

さらに、彼らが行うmRNAの編集の多くは、脳内の結合を作ったり刺激したりするタンパク質に対するものであることが分かりました。

そして、そのほとんどが神経細胞の軸索(細胞間の情報伝達を担う部分)で発生しています。

これは、RNA編集が脳の働きに大きな役割を果たしている証拠だと科学者たちは考えています。

この理論は、タコのような鞘形亜綱とその遠い親戚であるオウムガイ亜綱を比較したときに成り立ちます。

オウムガイ亜綱は、タコのようにmRNAを編集しません。彼らの脳はもっと単純なのです。

タコはゲノムの進化よりも、遺伝子情報に柔軟性を与えることを優先した

しかし、RNAの編集による代償がないわけではありません。

並外れた編集能力によって、DNAの突然変異や自然淘汰といった昔ながらの自然な方法で適応する能力が制限されるかもしれないのです。

このような編集を行うためには、すべての要素を整えておく必要があるため、これらの生物の実際のゲノムの変化は非常にゆるやかになります。

そうなると、生き残りをかけた全く新しい技術開発は難しくなるでしょう。

地球上には、他の動物とは異なる生物の行動がたくさん存在しますが、その理由については、まだ多くのことがわかっていません。

しかし、1つ分かっていることは、この素晴らしく奇妙な生物を研究することで、生命の仕組みや生物にできることについての考えが広がっているということです。

もしかしたら、イカやタコの核の外で行われるRNA編集技術によって、今までは無理だと考えられていた問題への治療法も見つかるかもしれません。

これが、私たちが生物を愛する理由のひとつです。

参照元:Cephalopods Have a Totally Wild Way of Adapting

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