カメの甲羅の中はどうなってるの?裏返しの骨格をもつ唯一の生き物の正体にせまる

2019年7月16日

カメの甲羅(こうら)を取り外したら中はどうなっているのでしょうか?

おそらくこのような疑問をもつ人は少なくはないでしょう。

しかし、カメの甲羅は、私たちの胸郭(きょうかく)と同じように体の一部分なので、アニメのように簡単に取り外して中を見るわけにはいきません。

胸郭は、胸を取り囲むように胸椎(脊柱)と肋骨(ろっこつ)、胸骨からなる骨格で覆われています。しかし、カメと人間の胸郭には、大きな違いがひとつあります。

なんと、カメの胸郭は、骨格が裏返しになっているのです。

これは、他のどの脊椎動物にもない、唯一無二の骨格の持ち主だといえるでしょう。それだけではなく、お尻で呼吸できるというカメならではのユニークな呼吸法にも甲羅が役立っているようです。

ここでは、もしカメの甲羅を取り外すことができたら、その内側はどうなっているのかについて、カメの生態学を10年以上にわたって研究している生物学者マリア・ウォジャコフスキ(Maria Wojakowski, Ph.D.)さんによる解説をもとに紹介します。

カメの骨格は裏返し

私たち人間の体は、胸をぐるりと囲むように曲がった骨格からなる胸郭で、心臓や肺といった大切な臓器が守られています。

そして、胸郭の上側には逆三角形の形をした肩甲骨が、下側には骨盤があります。

しかし、カメの場合、それらの肩帯(けんたい)や腰帯(ようたい)が胸郭の中にすっぽりおさまっているのです。

つまり、これは人間の胸郭を裏返した構造になります。

このような骨格の機能をもつのはカメ以外にはおらず、地球上で唯一の陸上動物だといえるでしょう。

それだけではなく、カメは、お尻で呼吸ができる唯一の動物でもあるのです。

カメの呼吸方法

カメの甲羅の中は、非常に特殊な呼吸器系となっています。

カメは、甲羅の内部の一番上側にある肺で、人間や他の爬虫類と同じ肺呼吸を行います。

実のところ、肺を構成する何億もの肺胞(柔らかい袋)には、膨らんだりしぼんだりする筋肉がないため、肺自身で空気の出し入れはできません。

そのため、ほとんどの陸上動物は、筋肉の力を借りて肋骨をポンプのように伸縮させて、胸腔を大きく広げたりしぼませたりすることによって、空気の入れ替えを行っています。

しかし、カメの場合、硬い殻でできた胸郭が広がらないため、このような柔軟な胸郭に頼った呼吸を行えません。

代わりに彼らは、口から入った酸素を肺に送り込むために、のどの筋層(平たく広がった筋肉の層)を伸縮し、硬い甲羅についた腹筋で肺を伸縮させる呼吸方法を取ります。

ほとんどがこの呼吸法ですが、その他にも口とは違うもう一方の端、お尻でも呼吸できることが分かっています。

カメはお尻で呼吸できる

それは、科学者が「総排出腔」と呼ぶ器官。具体的には、カメが排尿し、排便し、そして、卵を産む生殖口としても使用している開口部です。

そこは、まるで魚のエラのように、吸い込んだ水から酸素を吸収することができます。

お尻から水を吸い込んで、穴の奥の特殊な器官の毛細血管でガス交換が行われているのです。

科学者たちは、カメが水中で長期間過ごすときにこの呼吸法が補助的に使われると考えています。冬眠もそのひとつで、代謝が著しく低下し、酸素消費量が少ないために、この呼吸法でも数カ月間は過ごせるといわれています。

さて、甲羅をもっとよく見てみましょう。ここには、水中で冬眠するのに役立つもうひとつの機能が隠されています。

カメの甲羅の隠された能力

カメの甲羅をどんどん拡大していくと、建築現場でよく見られる足場のような構造が見えてきますが、ここでは化学物質の貯蔵、および、放出を行うことができます。

驚いたことに、その構造は、カメが口から息つぎできない無酸素下でも、下記のように働くことで生存可能にしています。

ここに、たくさんのカメが冬眠している凍った池があります。

カメは、このような低酸素下では、生き残るために代謝を切り替えていきます。

それは、彼らが、必要なエネルギーをつくりだすために酸素を使う好気呼吸を止めて、代わりに、嫌気呼吸と呼ばれる酸素を使わないプロセスを介して、グルコースを使い始めることを意味します。

これは、人間の体内でも行われる代謝(解糖系)で、前回マラソンの記事でも紹介しましたが、副産物として乳酸(疲労物質)を出します。(詳しくは「他のどの動物にもない人間の「走る能力」- マラソンの科学」を参照ください)

理論的には、カメの体内にこの乳酸が蓄積していった場合、命を落とす可能性があります。

そこで甲羅の出番です。

カメの甲羅は、この乳酸を吸収するだけでなく、酸を中和するために重炭酸塩を放出することができます。これは、アメリカで胸やけ用に使われているタムズ薬と本質的には同じようなものです。

カメの甲羅は、穴を掘るために進化したもの

2016年9月に発表されたチューリッヒ大学の研究によると、カメの甲羅は、もともとは干ばつといった厳しい環境条件を回避して、土に穴を掘るために2億年以上も前に進化したものである可能性が出てきたのです。

科学者たちは、カメの甲羅の起源について長い間困惑してきましたが、最古のカメ類と考えられている「エウノトサウルス」の化石が南アフリカで発見されたことによって、少しずつ紐解かれてきました。

2億6000万年前の原生動物エウノトサウルス・アフリカヌスは、巣穴に住み、現代のカメとはかけはなれた姿をしていますが、力強い前肢の筋肉を固定する平たく広がった肋骨をもっていました。そして、この非常に発達した肋骨は、保護機能を果たさなかったと結論を下したのです。

チューリッヒ大学の古生物学者であるTorsten Scheyer氏は次のようにいいます。

発見された15センチメートルほどの爬虫類化石は、骨格や4本すべての足を含む状態のよい標本でした。

スペードの形に大きく広がった指は、前足で掘る動物の典型です。

このことから、一種の原始殻ともいえる広がった堅い胸郭は、穴を掘る前足のサポートとして動物に役立ちました。

どうやら、カメの進化における最初の重要な変化は、厚みを増した肋骨の広がりにあるようです。

カメは、原始的な甲羅のような骨格構造の助けによって、地下に巣穴を掘ることで、洞窟の中で生き抜き、厳しい環境条件に立ち向かってきたのかもしれません。

攻撃に対する防御の役割をもつ腹甲をもつカメの祖先

エウノトサウルスの後に発生したとされるカメの祖先「オドントケリス」は、三畳紀後期(2億2千万年前)の湿地帯の地層で発見されました。背中側の甲羅は不完全ですが厚みのある肋骨をもち、さらに、お腹側に発達した腹甲があります。

この甲羅が半分(腹側)だけの原始的カメの骨格は、現在のカメの甲羅にみられる独特な進化を知るうえで、大きな手がかりとなりました。

皮膚組織が硬質の皮骨となって甲羅に進化したという説ではなく、腹甲となる神経板(中枢神経系の原基)が発達した後、甲羅となる肥厚した肋骨が発達し、最終的に結合したという説が考えられるようになったのです。

また、この化石からは、水中での生活に移ったカメが、攻撃に対して腹部を防御するために腹甲を発達させたとも考えられます。

カメの甲羅はどのように作られるのか?胚発生期から解明

カメの胚をみると、背中に甲羅の縁のような細胞がある他は、鳥やほ乳類、爬虫類のものと非常によく似ています。

この甲羅の縁となる細胞は、首と腰の間の身体周りに広がり、将来肋骨となる細胞を(脊椎から)ひきつけるようにして円盤を形成していくのです。このとき、肋骨は、私たちのように(胸郭を囲むように)曲らずに、甲羅の縁に向かって外側(横方向)に広がっていきます。

その後、肋骨周囲の細胞を骨形成細胞に変換するシグナル伝達タンパク質がひっそりと分泌され、肋骨がお互いにつなぎ合わさるまで成長して甲羅の骨格を固めていきます。

甲羅の骨格の上では、皮膚細胞の外層が硬いうろこの薄板組織を作り出します。

腹甲の骨は、神経堤(しんけいてい)と呼ばれる細胞が分化してできたものです。神経堤は、ニューロン、軟骨、骨など、さまざまな細胞型を作り出すことができる脊椎動物特有の細胞です。

これらの細胞が、甲冑(かっちゅう)のような9つのプレート状の骨になり、最終的に骨と骨の隙間を線維性の結合組織が縫い合わせるように連結させていきます。

完全な形態の甲羅を備えたカメの祖先

およそ2億千万年前プロガノケリス・クェンステドティは、現代のカメにつながる完全な形の甲羅(融合した肋骨)を備えた最初の化石データだと考えられています。

プロガノケリスは、水陸を移動できました。

現代のカメとは異なり、頭を殻の中に引き込むことはできませんでしたが、首には防御的な棘(とげ)がありました。

多様化する現代のカメ

陸生のカメは、捕食者に食べられないように、ドーム型の甲羅をもっています。この甲羅の曲線は、ひっくり返ったときに元の体勢に戻るのにも役立ちます。

一方で、水中に生息するウミガメは、平たくて軽い甲羅や角質の鱗(鱗板)で覆われています。これは、水の抵抗を減らしてエネルギー効率良く、速く泳ぐため、また、狭いところでも体を押し込んで通り抜けるためだと考えられています。

一億年以上も前から生育し、世界最大のウミガメといわれる「オサガメ」に関しては、通常のカメに見られるような甲羅の周りをぐるりと取り囲む骨はなく弾力性のある甲羅をもちます。

最後に

いかがでしたか?

カメが、他の動物とは逆転した骨や筋肉のパターンをもつ、つまり、腕と胴体をつなぐ筋や肩甲骨が肋骨の内側にあるというナゾの答えは、どうやらカメだけにある進化「肋骨の広がり方」にあるようです。

肋骨は、カメが動く間体を支え、肺呼吸に重要な役割を果たさなければなりませんが、進化の過程で、大きく外側に広がって硬く融合するにつれて、四肢の動きは制限されて歩幅も小さくなり、呼吸に影響を与えていきました。

しかし、現代のカメの甲羅は、捕食者から身を守るシェルターとしてだけでなく、冬眠時をはじめ、特定の状況下でとても便利な働きをするようにもなっていったのです。

カメは、クジラやヘビ、恐竜、人間、そして、他のほとんどすべての脊椎動物にはみられない硬くて頑丈な肋骨を進化させてきた唯一の陸上生物なのです。

参照元
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