驚くべき生命力をもった微小動物の生態について、クマムシと顔ダニ、線虫の3つを例に紹介します。
真っ暗で冷たく、高い水圧のかかった超深海。
空気も水もなく高エネルギーの放射線が飛び交う宇宙空間。
驚くかもしれませんが、こんな想像できないほどの過酷な環境条件でも生きられる驚異的な生命力をもつ微小動物がいます。
微小動物とは、顕微鏡でしか見ることができないほど小さな生き物。私たちにはある背骨を持っていない無脊椎動物です。
以下は、ペットの犬や猫よりもはるかに小さな動物についてのお話です。
宇宙でも生きれるクマムシ
初めに紹介するのは、体はとても小さく1.7ミリ程度ですが、どことなくクマに似ている姿から「クマムシ」と呼ばれる動物。
ゆっくりと動く緩歩動物門(かんぽどうぶつ)のグループで、5億年以上も前の化石も見つかっています。
苔にたまった水たまりを泳いでいることが多く、緑藻やバクテリアなどを食べますが、多くのクマムシは、体が透明、または、透けて見えるため、藻を食べると体が緑色に変化します。
そして近年、科学者が発見したのは、クマムシがほとんどすべての場所で生きていけること。
彼らは沸騰した温泉水にも生育していて、世界で最も高い山の氷の下でも生きられます。
科学者らが、クマムシを宇宙に送った実験では、水も空気もない人工衛星の中でなんと10日以上も生きていたのです。
おそらくクマムシは、どんな過酷な条件でも生きられる世界一生命力の強い生き物でしょう。
次の微小生物はダニです。
50000種以上も存在するダニ類
ダニは昆虫のように見えるかもしれませんが、実際にはクモに近い動物で、8本のアシがあります。
一般的にダニは、土壌をはじめ死んだ植物の上、鳥や動物の巣の中など、さまざまな場所に生息しています。
動物の科学者らは、世界には約50,000種類のダニがいると考えており、そのうちのいくつかは私たちの体に住んでいます。
ヒトに依存しすぎた顔ダニの驚くべき進化
顔ダニは、大きさ0.3ミリほどの細長い動物で、まつ毛のように毛が生えている皮膚の小さな穴に住み、生命活動のすべてをヒトに依存して生きている動物です。
夜になると穴から出て皮膚の表面を這い回り、死んだ皮膚や皮脂などを食べ、交尾をして繁殖します。
顔にダニがいると聞くと少し怖いかもしれませんが、基本的に、噛んだり刺したりしないので、あまり心配する必要はないようです。
驚いたことに、英レディング大学が科学雑誌「Molecular Biology and Evolution」(2022年6月21日)に発表した研究によると、この顔ダニは人間に依存しすぎているので、絶滅を逃れるために外部寄生から(消化器官にいる寄生虫のように)内部共生へと進化をしてきているといいます。
一般的に、体内に寄生する生き物は、必要のない体の器官や細胞、遺伝子などが退化する傾向があります。
そして、この顔ダニも、それらを捨てて単純な生物へと変化しているというのです。
現在ある8本のアシはたった3つの単細胞で動かされ、生きるために必要なタンパク質も最低限しかないことも分かっています。
極限の環境条件でも生きれられる線虫
おそらくあなたは線虫なんて1度も見たことがないかもしれません。しかし、線虫は周りのどこかにいるはずです。
なかには、線虫の数が、地球のどの動物種よりも多いと考えている科学者もいます。
なぜならクマムシと同じように、これらの線虫は生命力が強い生き物で、山や砂漠、極寒、極暑でも、土壌でも水中でも、エサとなるバクテリアが存在するところならどこでも生きていけるからです。
多くの生き物が水の圧力でつぶされてしまう深海でもたくさんの線虫を見つけることができます。
今、世界中の科学者らが、クマムシや顔ダニ、線虫のような微小動物を研究し、彼らの生命力の強さのナゾについて知ろうとしています。
さらに彼らは、未だに発見されていない小さな動物がまだたくさん存在するはずだとも考えています。
参照元:Meet the Microanimals