セミはなぜ一生のほとんどを土の中で過ごすのか?

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なぜ、セミには地中での長い幼虫期が必要なのかについて、数学的な考え方から解明されつつあるセミの生態から、ライフサイクルと捕食者の関係をもとに紹介します。

セミは、奇妙にも、その人生のほとんどを地下で過ごした後、地上に出て儚い一生を終えます。

実は、セミの生態はナゾだらけですが、近年、彼らの土の中でのライフサイクルは、捕食者に関係があることが分かってきました。

セミの多くは、孵化した後に地下に潜り、地中で幼虫期を2年から5年過ごした後、地上で成虫になってから飛び出します。

驚くことに、海外には、13年、または、17年といった「素数」の周期ごとに大量発生するという不思議なセミもいます。

規模の大きなものでは数兆匹にもおよぶといわれる素数ゼミも地上での命は短く、わずか1ヶ月以内で儚い一生を終えるのです。

以下に、セミが長い年月を土の中で過ごす理由について研究で分かってきたことを紹介します。

数十億匹、数兆匹が同じサイクルで羽化する周期ゼミ

あなたは、セミの種類をどれだけいえますか?

なかにはセミの鳴き声を聞いただけで、クマゼミやミンミンゼミ、ヒグラシ、アブラゼミといった種類を聞き分けられる人もいるかもしれません。

海外には、極端に地中生活が長い習性をもつ「周期ゼミ」と呼ばれるセミがいます。

たとえば、北アメリカでは、周期ゼミに属する7種のセミが13年、または、17年周期で大量発生します。

ちょっと想像してみてください。

1万平方メートル(アメリカンフットボールのフィールド2つ分に相当)あたり、数百万匹のセミの成虫が一斉に羽化するのです。

彼らは、一生の大半を未発達なまま地中で過ごた後地上に出て、わずか数週間のうちに、羽化して成虫になり、そして、交尾や産卵を終えて死を迎えます

生命体の生存目的は、繁殖によって次に命をつなぐこと

オスの成体は、パートナーをみつけるためだけ、メスは卵を産むためだけにそれぞれ体の仕組みが作られているため、セミの成虫にはそれに必要な最小限の時間しか与えられていないようです。

幼虫はなぜ10年以上も地中で過ごすのか

これらの周期ゼミは、種族のような異なる「ブルード」に分かれます。基本的に、ブルードとは、同じ時期に同じ場所で生まれてくるグループをいいます。

一体なぜ、周期ゼミには13年、または、17年間という長い幼虫期が必要なのでしょうか?

幼虫のエサは、木の根にある道管液ですが、そのほとんどが水分です。栄養分が限られているために、成長が遅いと考えられています。

しかし、それだけでは長い幼虫期の理由、特に素数の説明としては不十分。

科学者らは、約350年の歳月をかけてこの長い幼虫期のナゾを考えてきましたが、今ようやく少しずつ分かり始めてきたようです。

なぜ周期ゼミは「素数」の周期ごとに大量発生するのか

科学者のなかには、地下での幼虫同士の生存競争や、寿命の長い昆虫との相互作用によって進化したのではないかと考える人がいます。

また、セミの幼少期が長くなったのは、更新世の氷河期からだと考える科学者もいます。

セミにとって住みにくい気候であったため、成虫がほとんどいなかった氷河期に適応して、幼少期が長くなったという説です。

なかでも有力説とされるのが、セミの出現時期が短く、まれにしか出現しないことによって、強敵や捕食者の個体数の増加を抑えているのではないかという説です。

セミのライフサイクルが13年と17年という長さであることもその理由を説明しています。

この2つの数字が、「素数」だからです。

周期ゼミの絶滅を防ぐカギが「素数」にある

素数とは、1と自分以外の数では等しく割り切れない数。

それでは、さっそくこの数字が意味することについて考えてみましょう。

肉食動物は、数年ごとに数が変動する個体数サイクルを持つ傾向があり、そのサイクルは1年から10年の長さであることが多いといわれています。

そして、そのサイクルは、セミの寿命を支配する素数とは確実に一致しません

たとえば、セミの捕食者が2年ごとの個体数サイクルをもつとします。

すると、素数ゼミの羽化が13年だとすると、それぞれが羽化するときに出会うのは、26年に一度。17年のブルードにおいては、34年に一度です。

セミの周期が素数でなければどうでしょうか?

セミが10年ごとに羽化する場合、この捕食者とは10年(2と10の最小公倍数)ごとに、12年なら12年、14年なら14年と羽化するたびに出会い、狙われてしまいます。これでは、個体数を維持するのは大変です。

実際に、過去には10年以上地中で生活するセミが、素数年以外に羽化していたようですが、それらは絶滅し、素数ゼミのみが生き残ったのではないかと考えられています。

周期ゼミのライフサイクルは捕食者にも影響を与える

昆虫を食べる鳥の個体数は、セミが発生する年には減少することを示した調査もあります。

どうやらセミの羽化周期は、天敵である捕食者に悪い影響を与えている可能性がありそうです。

一方で、ほとんどの鳥の個体数は、セミの大量発生した翌年に増加します。これは、十分な栄養を得た鳥たちが、次の年を元気に活動できるからかもしれません。

ある研究では、15種の鳥類の個体数の動向を、13年と17年のセミのサイクル全体で調べたところ、その間、鳥類の個体数は減ったり増えたりを繰り返し、不思議にも、次のセミの大量発生時期に合わせて、鳥類の個体数が激減することがわかったのです。

セミの大量発生年は、捕食者の個体数が激減する

なぜこのようなことが起こるのか、その理由はまだわかっておらず、それは、鳥だけではないようです。

セミは直接捕食者を養うだけでなく、死後何年にもわたって環境に影響を与えます。

セミの死骸は栄養分となって植物や木の成長を助け、ハチやアリなどの昆虫をはじめ、猫、鳥、小型の哺乳類もその影響を受けて成長します。

研究者たちは、これらの個体群がなんらかの形でお互いに影響しあっているのではないかと考えています。

しかし、セミが大量発生する時期に、どうして鳥の個体数が激減するのでしょうか。

セミのナゾの解明に数学的な事実がヒントとなった

セミに関しては、まだ答えよりもナゾの方が多いのです。

想像できるかと思いますが、13年も17年も待たなければならない種の研究は容易ではありません。

セミは、数学的思考が生物学を理解する上での手掛かりとなったことを示す一例です。

数学的な事実がなければ、誰が、素数が捕食者を遠ざけ、絶滅を免れるためのカギとなることを想像できるでしょうか。

セミの生態を理解するうえで、数学の素数がカギを握るなんて、とてもおもしろい着眼点だと思いませんか?

まだまだ周期ゼミの生態は不明な点が多く残されています。

しかし、数学的な考え方をはじめ、さまざまな分野や新しい角度で調査が行われ、生物学の世界で新しい発見が生まれているなんておもしろいものです。

参照元:Why Are Periodical Cicadas So … Periodical?