メスがオスよりも長生きする傾向が高い理由の一つは、そもそも性別を決めるのに役立つ染色体に隠されているのかもしれません。
今回は、人間だけでなく、動物の平均寿命にも男女の差がある理由について、男性と女性(オスとメス)の染色体の違いから科学的に考えて分かりやすく紹介します。
世界では、平均して、女性は男性よりも7年ほど長生きするといわれています。
メスのライオン、げっ歯類、クモなどもオスよりも長生きすることが多いようです。
このように平均寿命に、男女の差があるのは一体なぜなのでしょうか?
女性(メス)の方が長生きしやすい動物の共通点とは
多くの種でオスはメスよりも攻撃的でより危険を冒すから、オスの方が早死にしやすいのでは?
そうともいえないの。必ずしもオスの方が攻撃的とは限らないし、攻撃的な性別が常に最初に死ぬわけでもないのよ。
近年、研究がすすむにつれて、動物界を見渡すと、性別に関係なく、メスの方が長生きしやすい動物には共通点があることが分かってきました。
性染色体には一般に大小2つのサイズがあり、その組み合わせによって個体の性別が決定されます。
人間のような哺乳類では、メスは大きな性染色体(X)を2本、オスは大きな性染色体(X)と小さな性染色体(Y)を1本ずつ受け継いでいます。
しかし、鳥類、蝶類、一部の爬虫類や両生類では、逆にオスが大きな染色体を2本、メスが大小1本ずつを受け継ぐのだそうです。
ほとんどの場合、オスかメスかに関係なく、小さい方の染色体をもつ性別が、早死にする傾向が高くなります。
なぜこのような傾向があるのでしょうか。その理由には、2つの説明が考えられます。
1つは、性染色体が大きい方が有利であり、もう1つは、性染色体が小さいと不利になるというものです。
大きな性染色体(X)をもつ方が有利である説
大きな性染色体が多い方が良いというのは、大きな性染色体(X染色体)にはたくさんの遺伝子(遺伝情報)があるからです。
人間の大きな染色体には800、あるいは1000以上の遺伝子があり、色覚から傷の治癒、筋肉機能の他、生命維持に欠かせない遺伝情報まで、性別とは無関係な多くのことをコードしています。
一方で、もう一方の染色体は、大きなX染色体に比べて小さいだけでなく、遺伝子の数も数十個くらいしかありません。
大きな染色体を2本持つ人は、これらの遺伝子をたくさんもつ染色体をそれぞれ2つずつ持っていることになります。
実際には、人間の女性の場合、大きな染色体の遺伝情報量が、男性の2倍あると影響が大きすぎるので、バランスをとるために2つのうち1本は不活性化して遺伝情報を読み取れないようにされています。
そのため、もし片方の大きな染色体に有害な突然変異があっても、もう片方の染色体がその遺伝子の役割を担って機能している可能性が高いのです。
しかし、大きな染色体が1本しかない男性は、その染色体がもつすべての遺伝子のコピーが1つしかなく、バックアップのコピーがないために遺伝子の傷を修復することができません。色盲、血友病、筋ジストロフィーが男性に多いのはそのためではないかといわれています。
これが、大きな性染色体を2本持つことは有利である説です。
次に、小さな染色体を持つことは不利である説について紹介します。
小さな染色体を持つことは不利である説
小さな染色体は、トランスポゾンと呼ばれる動く遺伝子に弱く、悪さをされることがあります。トランスポゾンは、染色体内を自由に移動して、遺伝子に多くの有害な突然変異を誘発し、有害な配列を蓄積する可能性があります。
つまり、性染色体が小さいと、生物の寿命が短くなるリスクがあるのです。
そもそも、小さな染色体は、遺伝子に傷がついたり、有害な突然変異があったりした場合に、それを補うコピーがないため、その部分を切り取った(欠失)結果、数億年かけて小さくなっていったと考えられています。
平均寿命に男女の差がある理由について
これらの2つの仮説、大きな染色体は有益である悦、小さな染色体は不利である説は、互いに矛盾するものではなく、両方が正しい可能性もあります。
そのため、科学者たちは、現在もそれぞれの染色体がどのようにかかわりあい、寿命に影響を与えているのかについて研究をすすめているのです。
もちろん、男性女性にかかわらず、食事や睡眠、ストレスなどの生活習慣や基礎代謝の違い、他の要因が寿命に影響を与えている可能性もあります。