映画や音楽で「鳥肌が立つ」のはなぜか

映画や音楽で「鳥肌が立つ」のはなぜか人体の不思議

寒いときに鳥肌が立つのは理解できますが、感動的な音楽や映画に触れたり、恐怖でぞっとしたりしたときにも鳥肌が立つのはなぜでしょうか?

ここでは、ヒトが何かに強く感情的な反応をみせるときに毛を立たせる「鳥肌」という不思議な現象について科学的に分かりやすく紹介します。

あなたは、最近鳥肌が立った経験をしたのはどんな時ですが。

多くの場合、鳥肌は、寒いときに経験します。この場合、皮膚の毛が、肌と冷たい空気の間の暖衝剤となって、体温調節を助けてくれるのです。

それは理にかなった話ですが、私たちは、以下のように他の体験でも鳥肌を立たせることがあります。

「鳥肌が立つ」とはどんな状態?

鳥肌が立つとは、皮膚の毛穴が強く閉じられ、鳥の毛をむしり取ったように肌に粒状の突起が出た状態をいいます。

体の全ての毛の根本には、「立毛筋」と呼ばれる小さな筋細胞の集まり(筋束)があります。これらの筋肉は、収縮することで毛を引っ張ってまっすぐに立たせたり、緊張を緩めて毛を再び寝かせたりしています(立毛筋反射)。

そして、この筋肉の動きは、ヒトや動物が、危機に対して戦うか逃げるかを自らに迫る「戦うか逃げるか反応」での交感神経系の働きによって、無意識に引き起こされるもので、感情の状態と密接に関係しています。

つまり、鳥肌は、なんらかの感情の変化が引き金となって引き起こされているのです。

それがヒトの場合は、動物のように危機的状況で毛を逆立てる本来の作用にくわえて、喜びや悲しみなど強烈な感情の変化が引き起こされたときにもみられます。

恐怖心や寒さとは別に、芸術鑑賞が、鳥肌の引き金になりやすいといわれるのはそのためです。

芸術鑑賞で鳥肌が立つのはなぜ?

芸術鑑賞で鳥肌がたつ

芸術鑑賞のなかでも、最も鳥肌が立ちやすいのが映画だといわれています。

ヒトは、共同体の中で生きるにつれて、感情が豊かになり、他者の気持ち(喜怒哀楽)を理解したり、それに共感を抱いたりするようになりました。

私たちは、映画をみるときに、映画の世界の社会的な相互作用(心理や行動)をシミュレートする傾向があり、感情移入することもよくあります。

加えて、音声と映像の両方の刺激の組み合わせによって「戦うか逃げるか反応」が強く促されることが鳥肌の大きな要因となっていると考えられています。

このような感情の変化は、アドレナリンの分泌を増加させ、アドレナリンがこの小さな立毛筋の収縮を引き起こします。

しかし、これと同様に、多くの人が音楽を聴いただけでも鳥肌を立たせることがありますが、音楽に対する反応は映画によるものとは微妙に異なるようです。

音楽によって鳥肌が立つ仕組み

ある理論では、音楽自体がもつ構造や性質が、脳にある期待を生み出させるため、音楽だけで鳥肌を立たせるには十分だと示されています。

多くの場合、私たちは心理的に、音楽を聴いている間、無意識に曲の中で次にどのような音がくるのかを予測しようとして、自然に音楽にひきつけられています。

そして、その予測が正しかったり、いい意味で期待が裏切られたときに、神経伝達物質のドーパミンが放出されます。

体内にドーパミンがあふれ出すと、最終的にゾクゾク感を感じたり、鳥肌が立ったりするのです。

なかでも、サミュエル・バーバーが作曲した、「弦楽合奏のための楽曲(アダージョ)」は、ゾクゾク感や鳥肌を引き起こさせるのに最も効果的な曲であるといわれています。

楽しい歌より悲しい歌の方が鳥肌が立ちやすい

別の研究では、個人差はあるにせよ悲しい歌や懐かしい音楽の方が、幸せな歌よりも、社会的な喪失感が再現されやすいために、鳥肌を引き起こす可能性が高いことが示されています。

社会的な喪失感(家族や社会的なかかわりからの離脱感)といったネガティブな感情は、「避けるべきこと」として脳に強く印象が残る傾向があると考えられていますが、実のところ、鳥肌との関係については、まだあまり理解されてはいません。

音楽は脳の特定部位のつながりを活性化させる

また、ハーバード大学とウェスリアン大学のグループによる研究では、音楽を聴くときの脳で、「聴覚皮質(音を処理する脳の部分)」と「島皮質(とうひしつ)と呼ばれる感情の体験に重要な役割を持つ部位」の活性化がみられたことから、この脳内でのつながりが音楽に深い感情的な反応を引き起こしていることが示されました。

ここまでの話で、音楽は、感情を動かすツールとして優れた機能があることは分かりましたが、鳥肌が立ちやすい人とそうでない人がいるのはなぜでしょうか?

音楽を聴いて鳥肌が立つ人の傾向

ユタ州立大学のMitchell Colver氏によると、このような音楽への深い感情的な反応は、「経験への開放性」とよばれる性格的な特性とも関係があります。

彼の研究によると、音楽を聴くときに、次の音を予測しながらや音楽のイメージを思い浮かべながらというように、より知的に音楽とかかわっている人の方が、メロディーや音で期待以上のものを経験したときに鳥肌を引き起こしやすいことが示されました。

音楽を聴くと気分がよくなる

音楽によって背筋をゾクっとさせられたときの脳は、私たちが食べ物や薬物などによって陶酔感を感じたときと同じような反応がみられることで知られています。

脳のイメージング化に関する研究では、鳥肌が立つとき、私たちの脳は、扁桃体や前頭前野の一部のように、喜びや報酬系にかかわる部位が活性化されていることも分かりました。

つまり、芸術鑑賞による鳥肌は、私たちの気分をよくし、ポジティブな心理状態をつくることが分かったわけです。感情的な安定は、身体の健康状態や共同体での暮らしにプラスな作用を及ぼし、生存にとって有利に働くという点で、鳥肌は、ヒトにとっても生物学的に意味のあるものかもしれません。

一方で、犬や猫など、多くの動物にとって鳥肌は、防御行動として役立つものだといわれています。

動物にとっての立毛筋反射

動物は、ひどく興奮したときや恐怖を感じたときに、毛を逆立てます。この私たちと同じ立毛筋反射は、動物の体をより大きく、より恐ろしく見せて、捕食者を追い払うときに役立ちます。

分かりやすくいうと、ハリモグラをイメージしてみてください。

彼らは、驚いたり、恐怖を感じたりすると、くるっと丸まって、トゲの根本にある筋肉の束を収縮させて体を覆うトゲを逆立てる防御姿勢になります。毛を立てることは、天敵から身を守る重要な手段なのです。

最後に

実のところ、ヒトにとって、鳥肌は進化の名残だといわれています。

衣服で体を覆うようになるまでは、ヒトの表面を覆う体毛が体を暖かく保っていました。もしかすると、あなたの祖先は、ときには体毛を逆立てて、敵を怖がらせていた可能性だってあるのです。

体毛は退化してきましたが、共同体で生きるヒトにとって鳥肌は、新たな心理的意味をなすものなのかもしれません。

参照元:
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