なぜ私たちの血液は骨でつくられているのか

2021年3月25日

骨は、岩でも棒きれでもなく、血管が通った生きた組織です。

たくさんの細胞からなり、カルシウムや脂肪を蓄えて必要に応じて引き出す銀行としての役割をはじめ、内臓を守るなど幅広い仕事をしています。

特に骨の中心にある骨髄と呼ばれるスポンジ状の組織では、毎日、何千億個もの血球(血液細胞)を送り出すという重要な役割があります。

「え、血液は骨でつくられているの?」

と驚いたかもしれませんが、血液をつくる場所を動物と比較すると、もっとおもしろいことが分かります。

血液をつくる場所は生き物によって異なります

たとえば、鳥類は私たちと同じ骨髄ですが、魚類は腎臓、カエルにいたっては、幼い頃は肝臓や腎臓ですが成長するにつれて骨に移る傾向があるのです。

考えてみれば、血液は体中のあらゆるものにつながっているので、どこでつくられてもおかしくはありません。

では、なぜ私たち哺乳類は、数ある候補のなかから、「骨」にたどり着いたのでしょうか?

なぜカエルは、幼少期と大人になってからでは骨をつくる場所が変わるのでしょうか?

これらの答えは100%ではありませんが、科学者たちは以下のように考えています。

ここでは、なぜ私たちの血液は骨でつくられるのかについて有力な説を紹介します。

血液をつくる細胞を守る役割

血液がなぜ生き物によって異なる場所でつくられるのかについては、まだ完全には解明されていませんが、それぞれの場所には共通点があるようです。

それは、血液をつくる細胞をダメージから守れる場所であること。

なかでも特に重要なのは、造血幹細胞です。

造血幹細胞というと少し難しく感じるかもしれませんが、赤血球や白血球、血小板などあらゆる種類の血球(血液細胞)をつくり出すすごい細胞です。

なんとこの細胞は、アメーバのように細胞分裂によって、自分と同じ細胞をつくりだすことができます(自己複製)。

そして、そのコピー細胞は、成長しながらあるものは白血球に、あるものは赤血球に、あるものは血小板にとあらゆる血球に変身「分化」できるのです。

しかし、これらの血液をつくる細胞がダメージを受けると、そのゲノム(遺伝子の1セット)に突然変異が生じてしまい、細胞を死滅させたり、生成される血液細胞に機能的な問題を引き起こしたりします。

そのため、適切な条件を整えて、突然変異を起こさせないようにする必要があるのです

骨の中の暗い空間は血液をつくるのに適している

突然変異を引き起こす要因の1つが太陽光です。

ここで骨の出番。

有害な太陽光から守るために、暗い骨の中に血液工場をつくったのです。実のところ、この説はそれほど新しい考えではありません。

今から40年以上も前、ある研究者が、脊椎動物が海から陸に移動したさいに、血液の生成場所が骨に移行したという仮説を立てました。

太陽の光は、水中ではあちらこちらに反射して広く散りばめられます。

しかし、陸上では直に光が当たるので、動物は血液をつくる細胞に紫外線のダメージを受けやすくなるためです。

当時は、科学的にこの仮説を裏付ける証拠が不十分でしたが、2018年に発表されたNatureの論文によって一変しました。

論文によって、魚が、血液をつくる細胞を、太陽の有害な光から守るために、日焼け対策をしているという証拠が示されたからです。

魚は血液をつくる場所「腎臓」に日焼け対策をしている

研究者らは、ゼブラフィッシュを調べていくうちに、「メラノサイト」という小さな傘のようなものを見つけました。

それは、メラニンと呼ばれる紫外線を吸収する色素をつくって太陽光の影響を抑える細胞です。

そして、その傘は、不透明な層を形成し、魚の血液をつくっている腎臓を覆っていたのです。

しかし、それだけでは日焼け防止目的かどうかを証明することはできません。

そこで研究チームは、傘を作ることができない魚を作り、どうなるかを調べました。

すると、その魚の血液をつくる細胞は、より多くの紫外線ダメージを受けていたのです。

魚は血液をつくる場所「腎臓」に日焼け対策をしている

この日陰を作る小さな傘は、他にもナマズや肺魚、ヤツメウナギなど、数多くの魚類で発見されました。

さらに、オタマジャクシにおいては、血液をつくる場所である肝臓や腎臓にも同様の色素パターンが見られました

実のところ、カエルの血液をつくる細胞は、私たちと同じ骨髄にあります。

つまり、オタマジャクシは足が生えて成長するにつれて、血液をつくる場所が骨に移っていき、水中から陸に上がるための準備を整えているのです。

そこから専門家たちは、大昔、最初の陸生脊椎動物が海から陸に上がったときに、このオタマジャクシと同じようなことが起こったのではないかと考えました。

彼らの血液をつくる細胞は、陸に上がる過程で体内をさまよい、偶然にも骨の中に入ってしまったようです。

それが血液をより長く健康に保つことを意味するのであれば、それは彼らに生存競争で勝利をもたらすのに十分な強みとなったのかもしれません。

その結果、骨の中に血液工場を持つ動物の系統が生まれたのです。

さい帯と胎盤の中にも血液をつくる細胞がある

私たちには、骨の他に、血液をつくる場所があります。

それは、お母さんと赤ちゃんを結ぶへその緒「さい帯」です。

そのさい帯と胎盤の中にある血液には、血液をつくる細胞がたくさん入っているため、骨髄と同じように、血液をうまくつくれない人にそれを移植して救えることがあります。