イメージしてみてください。足はダチョウ、お腹にはカンガルーの袋、犬の耳、そして、タコの目をした人間。これが完全進化した人間の姿。
さらに、下の写真「オーストラリアで公開されたグラハム(自動車事故に耐えうる架空の人間像)」の膝や肋骨も取り入れてみましょう。
イメージできますか。
実際に実現できるかや機能するかはさておき、完璧に近い人間像を突き詰めていくと、結局は「今の人間のままでいい」とさえ思えてしまいます。
その理由は、きっと以下の完全進化人間についての話を読むと分かるでしょう。
鳥類から人間の理想の足を考える
私たちの足は、何百年もの年月をかけて進化してきました。
初期の人類は、サルやチンパンジーが木に登るのと同じように、木に逃げ込むことで、捕食者から身を守ってたため、木から木へ飛び移るのもお手の物。
しかし、足にある26本の骨(種子骨をいれると28個)は、枝を足でつかむためのもので、歩き回るだけの割には多すぎます。
おそらく、完璧に進化した人間には、ダチョウのような足が必要となります。
鳥類といえば、人間以外で唯一、二足歩行を得意とする動物。
人間が、直立歩行をはじめたのが500万年前なのに対して、なんと鳥類は、2億5千万年もの間二本足で走り回ってきたのです。
何億年も前に恐竜とともに進化した鳥と比べると、人間の二足歩行の歴史は赤ちゃんのようなものですね。
となると、古代の鳥の二足歩行のデザインが、今の私たちの二足歩行のヒントになるのかもしれません。
ダチョウの足のように進化
私たちの足の裏には、衝撃を吸収するためのアーチがあります。
対してダチョウのつま先には2本の指しかなく、それらが、衝撃を吸収し、転ばないために足を安定さています。
人間の化石には、足首の骨が折れたものが発見されています。
つまり、今から300万年前から人間は足首の骨折のリスクがあったのです。
私たちの足首には、7つの骨があり、それを靭帯が介在する構造をとっているのがケガの理由のひとつではあるのですが、もしケガに耐えられるように進化したらと考えたときにヒントになるのがダチョウの足。
ダチョウのような足首があれば直立バランスを維持し、動きや衝突にも対応できるようになると考えられ、実際に、ダチョウの足が義足やロボットのモデルとしても使われています。
Graham(グラハム)の膝をモデルにした膝
進化生物学者の中には、私たちは10000年前に進化が止まったと主張する人もいます。
農耕プロセスを発明し、文明的に進化し始めたころから捕食者から逃げることも、食べるために狩りをする必要もなくなったためです。
人類学者のマット・カートミル氏は次のように説明しています。
進化は、完璧をもたらすために行動しない。それは、機能をもたらすために作用する
そこで、完璧なグラハムの膝を見てみてください。
グラハムとは、言葉では言い表せないほどの人間。オーストラリアのTAC(交通事故委員会)が、人間が自動車事故の衝突に耐えうることを想定して設計した人間の彫像、架空の人物像です。
本来人間の体は、自動車での事故に耐えられるようにはなっていないため、事故で生き残るために必要な体の仕組みを再現した場合、このような奇妙な姿になるようです。
私たちの膝は一方向にしか曲がらないため、衝撃や無理な力がかかると折れてしまいますが、四方八方に曲がるグラハムの膝なら、衝撃を吸収してケガを防ぐことができます。
腰まわりにはカンガルーの袋
アリス・ロバーツという解剖学者は、完全に進化した人間をデザインしようとしました。
彼女は、頭の大きな赤ちゃんを出産する女性の体へのリスクを考え、カンガルーのようなポーチをもつ方がよいと考えたのです。
それなら出産に苦労することもなく、陣痛の痛みも少なくすみます。胎児には袋の中で授乳できれば、胸も必要ありません。
そもそも男性の乳首は無意味なもの。乳首は、オス、メスすべてが同じ遺伝子の設計図からきているために存在しているだけです。
男性の精巣は、体外にぶら下がっていますが、これも安全性を考えて体内に入れた方がよさそうです。
ある科学者は、気温が低い方が精巣がよりよい機能を発揮できるから体外にあるといいますが、ゾウや無脊椎動物、クジラ、ナマケモノ、アシカなど数多くの動物の精巣は体内にあります。
肺にはある遺伝子を追加する
はるか昔の魚類は、肺を浮力のために使っていましたが、進化の枝分かれによって陸に上がった生物にとって肺は、空気のかばんとして必需品になりました。
一方で肺は、ガンの原因の代表となる臓器のひとつです。
肺の研究がすすむにつれて、ゾウは、人間に比べてガンの発生率がはるかに低く、それはP53というガンと闘う遺伝子が原因であることが分かってきました。
そして、人間がその遺伝子のコピーを1つ持っているのに対して、ゾウは20個あるといわれています。
どうやら、この遺伝子も人間の進化に足す必要がありそうです。
次に、ホッキョククジラの研究を見てみましょう。ほっきょくクジラは、長生きでガンになることがほとんどないといわれる哺乳類のひとつ。
それは、DNAの損傷を防ぐ突然変異によるもので、この作業を行うためにはCRISPR-Cas9遺伝子編集が、ガンと戦う戦術につながると考えられています。
肋骨はグラハム
肋骨は、重要な内臓を衝撃から守るための盾です。
そのため、最も衝撃エネルギーを吸収できるものが欲しいですよね。
先程のグラハムの胸は大きくて樽のようになっています。彼の胸郭は、心臓や内臓への衝撃に備えて重要な器官を守るために、鎧というよりも、空気が入るエアバックのような役割をします。
首はなくす
人間の首は、衝撃から頭を固定するほどの力はなく、ぶつかったときの頭の急な動きで背骨を傷つける原因にもなるので無い方がよいでしょう。
実際に、グラハムは首を無くし、肋骨が頭蓋骨を支えるような構造になっています。
ちなみに、今回の人間像には取り入れませんが、グラハムは他にも、車の衝突による衝撃から脳が耐え得るほど大きくて分厚い頭蓋骨をはじめ、クッション代わりになる分厚い皮膚が体を覆い、額は突き出し、鼻や耳などの凹凸の無い平らで脂肪層の厚い顔、関節が余分にある脚などとても奇妙な特徴があります。
目はタコ
私たちの目は、かなり発達していますが、完璧ではありません。
網膜が逆になるように進化したため、ビジョンの中のほとんどのものが後ろ向きになっています。視神経線維が盲点になっているんですね。
それでは、理想的な進化を実現するためにタコの目を盗みましょう。
信じられないかもしれませんが、私たちの目はタコの目ととても似ています。
しかし、タコは光に敏感な大きな目で、カメラのようにピントを合わせて視界をよくしてるので盲点がなくなります。
耳は犬
人間の耳は、50ヘルツから20,000ヘルツの周波数が聞こえるのに対して、犬は67ヘルツから45,000ヘルツの間の周波数を聞くことが出来ます。
また、彼らの耳は、頭全体を回転させなくても耳だけを音の方向にむきを変えることもできます。
神経系はシンプルに
神経細胞は、全身と意識をコントロールしています。
技術的には、あなたの人生観全体がイオンと呼ばれるものになります。
簡単にいうと、イオンは小さく、正、または負に帯電した粒子です。
神経細胞は、イオンチャンネルを開け閉めして電気信号を発生させ、細胞膜にそってニューロン間を伝達させます。
このように私たちは、驚くほど進化した神経系を維持しているのは明らかです。
もしかしたら、何かを悲しんだり、心配したりする意識を取り除けたら、もっと人生を楽しめるのかもしれません。
シンプルな感情で、痛みもなく、恐怖もなく、無意識の脳をもつ完璧に進化した人間なんて、無敵だと思いませんか。
結論:私たちは完璧でなくてもいい
しかし、本当にこのような完璧な人間は、幸せなのでしょうか。
このような思考実験が気づかせてくれたものは、「人間の体は美しい」ということ。
たとえガンや通風になっても、腰が折れ曲がっても、足首が弱くても、喉が痛くても、嫌なことばかり考える脳であっても、今の姿のままでいいのかもしれません。
動物は完全に進化したわけではありませんが、それで生きてはいけます。
木に登れるかどうかで魚を判断するのであれば、一生意味の無いことに頭を使って過ごすことになります。
私たち人間は、ある意味では食物連鎖の頂点で、ある意味ではそうではありませんが、今回の研究で、以下のことを学ぶことができました。
そして、彼らから常に恩恵を受けていることも忘れてはいけません。