ここでは、赤ちゃんが人の顔をじっと見つめるのが好きな理由について、脳の発達に基づいた興味深い研究をもとに科学的に分かりやすく紹介します。
戸惑うかもしれませんが、その赤ちゃんはただあなたの顔を見るのが好きなだけのようです。
なぜなら、赤ちゃんは、人の顔から学ぶべきことがたくさんあるからです。
こんな経験はないでしょうか?お店のレジで列に並んでいると、すぐ前に赤ちゃんを抱いた親がいます。
すると、その赤ちゃんが、あなたのことをじっと見つめ始めました。それはまるで、この世の中であなたの顔が最も面白いものであるかのように。
好意をもたれているからか、それとも自分の歯に何かついているのか、あるいは、先ほど食べたチョコレートが顔についているのか。
以下に、その理由について赤ちゃんの脳の研究をもとに探っていきましょう。
赤ちゃんが人の顔を見つめる理由
一般的に、人生のごく早い時期から、赤ちゃんは人の顔を見たり、顔のような輪郭や形状をしたもの(野菜を並べて作った顔や砂に描いた顔など)を見たりするのが好きだと考えられています。
また、知らない顔よりも見覚えがある顔をより好み、いつもとは違う顔や初めて見る顔であれば、少し長い時間を費やしてじっと見つめ続けることがよくあります。
なぜなら、赤ちゃんにとって顔は、とても重要なパーツだからです。
赤ちゃんは、基本的に完全に無力で、世話をしてくれる人に頼らなければ生きてはいけません。
ミルクをもらったり、おむつを替えてもらったりするためには、面倒を見てくれる人を見つけて、意思疎通をしなければならないのです。
たとえ、コミュニケーション方法がただ泣き叫ぶだけであったとしても、世話をしてくれる人がどのように見えるかを学ぶことは、赤ちゃんが生きていくうえで重要なことなのです。
赤ちゃんが顔から学ぶこと
赤ちゃんの脳はまた、周りの世界を理解するために、膨大な量の情報を取り入れようと忙しく働いています。
なかでも顔は、彼らにたくさんのことを教えてくれる重要な情報源なのです。
気持ちの表現方法をはじめ、口が言葉を形成する方法まで、人間がコミュニケーションをとるうえで必要なことの多くが私たちの顔を通じて起こります。
赤ちゃんは、人生の最初の数ヶ月で、両親や祖父母を認識する方法を学ぶだけでなく、顔の表情の変化によって伝えられる全ての感情についても学び始めているのです。
とにかく学ぶことだらけ。
赤ちゃんがレジの列であなたを見つめているとしたら、彼女の小さな頭脳では、あなたを知っているかどうか、そして、楽しいのか悲しいのか顔の表情がどのカテゴリーに入るのかなど考えようとしているのかもしれませんね。
赤ちゃんが顔から学ぶ能力は生まれながらのものなのか
赤ちゃんは、周りの世界からさまざまなことを学ぶ準備ができて生まれてきますが、顔を見ることが生まれながらにもつ先天的な特徴なのか、あるいは経験によって影響されたものなのかついてはまだ疑問が残されています。
そして、それは古くから続く「生まれか育ちか」論と同じように、両方が関わっていると考えられます。
顔の表情をまねる能力
研究では、赤ちゃんが生まれてから数時間から数日以内に、舌を「ベー」と出すといった人の表情をモノマネできることを示した科学的な証拠があります。
すべての研究がこれらの結果と一致するわけではありませんが、顔の表情を見つけて、それをマネする能力が赤ちゃんに本来備わっている可能性は十分に考えられるでしょう。
顔を認識する能力
他の研究では、出生後数時間以内に、赤ちゃんが母親の顔と見知らぬ人の顔を区別できることを発見しました。
これは、彼らの脳が、それほどの情報なしにすでに顔を認識する準備ができていることを意味します。
いくつかの研究で、赤ちゃんは生まれたときからすでに、人の顔から情報を探す傾向があることを示す証拠もあります。
しかし、それらの能力を本当に習得するには経験が必要であることを示す研究もあります。
いずれにせよ、赤ちゃんと世話をする人がお互いを見て過ごす時間が増えるほど、赤ちゃんが顔の情報を処理して認識する能力が急速に向上すると考えられています。
人間以外の動物の顔への識別能力
生後3ヶ月頃からは、「人間対動物」、「子供対大人」のように、さまざまな分類の顔をグループ化するようになります。
特におもしろい研究の1つに、赤ちゃんと大人が、一連のサルの顔と、成人の顔をどのように認識するのかについて調べたものがあります。
その結果、生後6ヶ月の赤ちゃんは、サルの顔を識別するのが大人よりも上手であることが発見されたのです。
しかし、生後9ヶ月になると、知覚的狭窄(ちかくきょうしょうか)、俗にいう「知覚の刈り込み」と呼ばれるものが原因でその識別能力は消滅し、そこからの知覚力は経験に基づいて変化し始めます。
「知覚の刈り込み」の影響
赤ちゃんは、サルよりも人間の顔の違いに注意を払う方が生きていくうえで重要であることを知っているので、人間の顔にもっと焦点を合わせるようになっていきます。
時間の経過とともに脳が発達するにつれて、人間の顔を認識するために使用される神経回路がより効率的になり、優先順位の低いサルのために使われる経路が剪定(せんてい)されていくのです。
一方で興味深いことに、科学者が、生後6ヶ月から9ヶ月の間にたくさんのサルの顔を見せた研究では、赤ちゃんにある変化が表れました。
サルの顔にさらされる時間が増えたことで、赤ちゃんの脳に、サルの顔が注意を払うに値するほど優先度が高いことが教育されていき、サルの顔を識別する能力が本来よりもずっと長く維持できたのです。
「先天的な能力」と「経験の積み重ね」が赤ちゃんの脳を変化させる
たしかに赤ちゃんは、生まれんがらにいくらかの識別能力を持っているのかもしれません。
しかし、彼らが注意を払うべき世界は、経験が脳に与える影響によって変化する可能性があります。
つまり、先天的な能力に加えて、経験が彼らの脳の知覚と認識の発達システムを形作っていくのです。
このようにして、レジの列であなたを見つめているその大きくてかわいい目に入る情報は、最終的に頭脳で起こるすべての奇妙で素晴らしいことにつながっていくのです。