なぜ人間は歯医者に行かなければならないのか?歯が再生しない理由とは

2019年3月29日

「人間には、歯科医師が必要」

それは事実で、私たちの歯は、乳歯から永久歯へと一生に一度しか生え変わりません。

2017年だけでも、アメリカでは歯医者に費やすお金が1290億ドルにおよび、およそ90%の人が歯に人工的な詰め物をしているといわれています。

実のところ、人間だけではなく、歯の再生ができるほ乳類は、ゾウやカンガルー、マナティーなどほんの一握りの種に限られています。

一方で、50,000種におよぶ爬虫類や魚は、一生のうちに何百、あるいは、何千ものあたらしい歯を再生することができます。彼らは、古くなったり、破損したりした歯をピカピカの白い歯に取りかえることができるのです。

もし人間にも歯の再生ができたら。それはどんなにか素晴らしいはずなのに、なぜ私たちの大人の歯(永久歯)は、虫歯になったり、破損したりしても、新しい歯に生え変わることがないのでしょうか?

その理由は、約3憶年前に、爬虫類とほ乳類が異なって進化したことに関係しているようです。

爬虫類の歯が何度も生え変わる理由

爬虫類や魚の多くは、一生のうちに何度も歯が生え変わる(多生歯性)ので、私たちのように歯医者に行く必要がありません。

ヤモリを例にみてみましょう。彼らは、3、4ヶ月ごとに100本程度の歯が生え変わります。

ヤモリが6年から10年間生きられることを考えると、一生の間で1800本から4000本もの歯が生え変わっていることになります。

それは、「幹細胞」と呼ばれる歯茎にある特殊な細胞のおかげです。

幹細胞は、自ら細胞を複製して増殖する能力をもち、必要に応じて、爪や眼、ヒゲ、皮膚など異なる形に変化することができる便利な細胞なのです。

人間の歯が再生しないのはなぜか

実のところ、私たち人間も、新しい歯を再生させる歯の幹細胞を持っていますが、それらは大人の歯が成長した後、死んで消えてしまいます。

その理由を理解するために、少し時代をさかのぼってみてみましょう。

歯の進化

約3億2000万年前、哺乳類は爬虫類とは異なる進化の道を歩みはじめました。

進化するにつれて、両者の間には、しっぽや皮膚、口、指といった多くの明白な違いに加え、食べ物の違いによって歯も異なる形状に変化していきました。

爬虫類の歯

なんでも食べる爬虫類は、動物でも食べやすいように口の中にあるどの歯も全て同じような形と大きさをしています。

このような歯は、同形歯性と呼ばれ、上下の牙状の歯が交互に重なるように並ぶことで、逃げようとする獲物をしっかりとつかまえて保持できるようになっています。これは、手のかわりに、物を口にくわえたまま落とさずに運ぶのにも適しています。

その一方で、哺乳類の食事は、草だけをたべる草食動物、肉を食べる肉食動物というように限定されてきました。

哺乳類の歯

その結果、哺乳類の歯は、食べ物をかみ切って口に入れる前歯(切歯、動物でいう門歯)、食べ物を捕らえて切り裂く犬歯(糸切り歯)、かみくだいたり、すりつぶしたりする奥歯(臼歯)など、生える場所によって形や目的がそれぞれ異なる異形歯性に進化してきました。

(ちなみに哺乳類でもイルカのように同形歯性であったり、上の前歯がないキリンや牛、歯の無いヒゲクジラのような生き物がいたり、爬虫類や魚類のなかにも昆虫や鳥類と同じように歯が無いカメのような生き物もいます)

そして、この歯の進化の違いは、なぜほ乳類が歯を再生できないのかを解き明かすヒントとなります。

人間の歯が再生することによるリスク

さて、あなたは組織の再生を担う幹細胞によって、奥歯にあたる臼歯を何度も再生できるとしましょう。

臼歯は、上下の歯の平らな表面を重ね合わせて食べ物をすりつぶす役割があるため、上下の歯がセットで一致し、噛み合っていなければなりません。

そうでなければ、効率的に食べ物をすりつぶすことができなくなってしまいます。

仮に、歯がいくらでも生え変わるとすれば、それは素晴らしいようにも思えますが、実際にはリスクを伴うのです。新しく生え変わるごとに、成長した歯の配列がずれると、かみあわせや顎の安定が無くなり、身体のねじれやうつ病の原因にもなります。

したがって、大人の歯は、何度も生え変わるよりも一組の上下セットだけを成長させた方が、生存の優位性が保たれやすいといえるでしょう。

人間の犬歯のロマンチックな存在理由

人間の口の中で最も長くて鋭い歯といえば「犬歯」。

ライオンにもカバにもありますが、実のところ人間の犬歯には、獲物の肉を引き裂くよりも、もっとロマンチックな存在理由があるようです。

現代人の犬歯は、女性よりも男性の方が10%長いといわれています。

この長さの違いは、私たちの種特有のものではなく、近縁なゴリラのオスにいたっては、メスの2倍の長さに相当する犬歯をもちます。

一夫多妻的なゴリラの社会において、オスは独占的な交配権を奪い合い、このような争いでは通常、長くて威圧的な牙のセットをもつオスが優位に立つため、ゴリラの犬歯は、進化の過程で長くなってきました。

一方で、人間の犬歯は、時の経過とともに短くなっています。

実際に、約440万年前に生息し、最古の人類とされるラミドゥス猿人(Ardipithecus ramidus)や、それに次ぐアウストラロピテクスと比較しても、現代人の犬歯は最短で、今日では男女間の長さの違いすらそれほどはっきりしなくなりました。

科学者たちは、なぜこのような人類とゴリラにみられる犬歯の違いが起こったのかについて、完全には解明できてはいませんがいくつかの説があります。

人間の犬歯が進化によって短くなった理由

ゴリラと共通の祖先から約1000万年前に分化したと考えられている人間の男性は、争いで歯の代わりに武器を使うようになりました。

また、人間の赤ちゃんは弱く、育児に手がかかるため、生殖活動のために男性同士が争うよりも、男性も育児により多くの時間をかけなければならなくなった理由も考えられます。

その結果、今日私たちの口に残っている歯はすべて、ライオンのように獲物を捕獲するには長さが足りず、カバのように捕食者を威圧するほど大きくもありません。

しかし、犬歯には、食べ物に噛むのを助けるだけではなく、素晴らしい役割もあります。

人類学者は、私たちの祖先が、いつ、どのように進化したかを追跡するために、犬歯の大きさや形を使います。ある意味で、小さく進化した犬歯は私たちの祖先を知る重要な手がかりになっているのです。

最後に

歯の再生にはリスクがあってもなおそれを望むのであれば、将来的に方法が見つかる望みはあります。

実際に科学者たちは、レーザーと薬を使って、ラットとマウスの虫歯の損傷組織を再生させる研究に成功しています。

歯の組織の再生ができるのであれば、最終的には歯全体を再生させることも可能かもしれませんが、現段階ではまだ人間における歯の再生テストは行われていないのが現実です。

どうやら、少なくとも今のところはまだ、私たちは歯磨きを続けて、歯医者に通わなければならないようです。

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