動くことができない植物は、風や水、動物や昆虫などを利用して工夫しながら種子を遠くまで運んでいます。
では、そもそもなぜ植物は、遠くまで種を運ばなければならないのでしょうか?以下に、種子拡散の理由や運ばれ方の種類を例とともに紹介します。
実は私たち人間もまた、植物が種を遠くに運び、繁殖するのを知らないうちに助けているのです。
ふわふわのタンポポの花に、息を吹きかけて遊んだ経験はありませんか?
公園から帰ると、服にたくさんのオナモミやオオバコの種がついていたなんてことも。
それらは、すべて植物の種を運ぶための生存戦略のひとつだったのです。
植物はなぜ種を遠くに運びたいのか?
タンポポをよく見ると、ふわふわの綿毛の根本に種子があることがわかります。
種は、基本的に植物の赤ちゃんです。
最初は小さな種ですが、土の中に入れて、水と空気、太陽の光を与えると、大きな植物に成長します。
風が吹いたら、または、あなたがタンポポの綿毛に息を吹きかけたら、種は吹き飛ばされて、新しい繁殖地に移動して、そこで発芽します。
こうして種をまき散らすことは、植物にとってはとても大切なこと。
種が旅をするのは、育つのに最適な土地が必要だからです。
植物の種が育つには良い土と、きれいな水、空気、そして日光が必要です。
でも、成長するための十分なスペースも必要なのです。
植物は一度にたくさんの種を作るので、親株のすぐそばですべての種を育てようとすると、十分なスペースを確保することができなくなります。
土や水も足りなくなるし、親株が日光を遮ってしまう可能性もあります。
そのため、植物は、種をできるだけ遠くに飛ばそうとするのです。
そして、植物がどのように種を移動させるのかは、その植物がもつ構造によって異なります。
風を受けやすい構造を持つ種
タンポポの種は、移動しやすいようにふわふわの綿毛で覆われています。
綿毛は、種子を飛ばすのが仕事。凧や羽のように、種が風に乗って飛んでいくのを助ける構造をしているのです。
カエデの種には、2枚の羽がついており、それが風にのってくるくる回って落ちていきます。
カエデの種子は実に巧妙な構造をしており、種と羽の重さや長さのバランスがとれていることによって、空中で小さな空気の渦が発生し、それが揚力を生み出して、できるだけ長く空中にとどまることができる仕組みです。
黒松の種についた翼も同様に、プロペラのように回転して空中に長い時間滞在できるようになっています。
水に漂って運ばれる種
驚くかもしれませんが、あの大きなココヤシの果実「ココナッツ」も種子です。
ココヤシは水の近くで育つことが多いため、ココナッツが落ちると水の中に沈んでしまうのかと心配になってしまいますね。
でも大丈夫。ココナッツは水に浮く構造になっているのです。
ときには船のように海を漂い、新しい島にたどり着いて、そこで大きなココヤシの木に成長します。
マングローブや蓮、ふきのとうもココナッツのように新しい場所で育つまで水に漂って移動する種をもつ植物です。
動物の力を借りて移動する種
オナモミを割ってみると、中に果肉と種が入っています。
そして、その外側は、先が曲がったフック状のトゲで覆われています。
この小さなフックは、衣服や毛皮、羽毛などにくっつくことがあります。
トゲが毛皮にくっついても、動物はたいてい気づかずにそのまま移動します。このようにして新しい場所に持ち運ばれた種が落ちた時、それはかなりの距離を移動していることがあります。
オオバコのように粘着液を出して動物に引っ付いて遠くまで種を運んでもらう植物もあります。
動物が種を移動させる方法はもうひとつあります。
動物に食べられることで運ばれる種子
動物が好んで食べるリンゴやメロンなどの果物の中には、たくさんの種が入っています。
実は、親木は種をおいしい果実で覆って、動物に食べられることを望んでいるのです。
でも、種は食べられてしまっても問題はないのでしょうか?
硬い種皮で覆われた種子は、消化されないため、果実を食べた動物は、種を胃袋に入れて持ち歩きます。
そして後日、その動物がフンをすると、種がフンと一緒に親株から遠く離れた地面に落とされるのです。
たくさんの動物にとっての大好物「どんぐり」も種子のひとつです。
なかにはリスのように、後で食べるために種を持ち運ぶ動物もいます。
そして、多くのリスには、どんぐりを何カ所にも分けて地中に埋める習慣があります。さらに埋めた場所を忘れることも多く、忘れ去られた種はそこで発芽して新しい植物に成長するのです。
実際に、リスが忘れていったドングリから、たくさんのオークの木が育っています。
さまざまな種子の運ばれ方
植物は、地に根をはって移動することができないため、風や水、動物を利用して種子を運ぼうとします。
種子の移動方法は実に本当にさまざまで、ホウセンカのように果実が自動的にはじけて種を飛ばす植物もあります。
身近な植物がどのように種子を移動させているのか知りたいときは、その種子にどんな構造物が付着しているか、または覆われているかをよく見てみましょう。
飛ぶための羽があるか? それとも、くっつくための小さなフックはあるか?
もしかすると、何か他のものがついているかもしれませんよ。