バイカル湖でしか見られない生物や圧巻の氷景色

自然科学・地球科学

巨大なバイカル湖は、地球上で最も深く、水量が多く、世界最古の湖であり、その透明度の高さから「シベリアの真珠」とも「シベリアの涙」と呼ばれるほど有名です。

寒冷地にも関わらず、世界屈指の生物多様性を持ち、ガラパゴス諸島と並ぶ生物進化の博物館」とも湛えられています。

驚くべきことに湖には、1,300を超える動物種が生息し、その内の70%以上がこのバイカル湖でのみ生育する固有種です。

淡水のみに生育する世界で唯一のアザラシ「バイカルアザラシ」をはじめ、微生物(原生生物)の中にも固有種がおり、それらが水の有機物を分解し、バイカル湖の透明度を保っているとも考えられています。

以下に、圧巻の生物多様性をもつバイカル湖の不思議についてみていきましょう。

バイカル湖が透明な理由

広大な流域面積をもつバイカル湖には、何百もの小河川が絶えず流れ込んでいます。

これらの流入水量は湖に入る水量の85%を占め、残りは降水量です。

これらの水は、いったん湖に流入すると、唯一の流出口であるアンガラ川から再び流出するまでの300年以上、湖に滞留することとなります。

その間、水はシベリアの厳しい亜寒帯気候にさらされながら一年のサイクルを経ます。

夏と冬で湖の水が対流する

バイカル湖が1m以上もの固い氷の板で覆われる冬、水面の水温は氷点下、水深200m付近では摂氏3.8℃ほどになります。

春になると、表面の氷塊はゆっくりと溶け、上層の水温は急速に上昇し始めます。

6月上旬頃には、湖の温度分布は4℃前後で均一化し、その間に酸素を豊富に含む表層の水は湖底に沈み、対流が生まれることでさまざまな階層に重要な酸素を供給するのです。

本格的な夏になると、温度成層は完全に逆転し、表層は平均16℃を記録しますが、200m以下の湖水層は約3.8℃と冷え込みます。

自浄作用のある湖を作り出す生き物

表層と湖底の温度差によって、夏と冬で水交換が毎年繰り返されるこのパターンは、微小な甲殻類(橈脚類)らが、食物連鎖を通じて自然界を循環する自浄作用のある生態系を作り出し、特定の藻類だけが過剰に繁殖することのなり、しっかりとした食物網を湖に存在させているのです。

この自然の自浄作用を生み出す生き物は、湖が完全に凍結したときにプランクトンを食い荒らしているときでさえ、湖を低いレベルのリンと窒素に整えています。

実際に、バイカル湖内の総溶解固形分は、湖水1リットルあたり96mgに過ぎず、世界で最も澄んだ水が作り出されています。

参考までに、世界保健機関(WHO)は飲料水として500mg以下のレベルを推奨しており、アメリカの水道水の平均TDSレベルは350mg/l程度です。

さらに、バイカル湖底では、熱水噴出孔からミネラル豊富な熱水が噴出していることも確認されており、これらが独自の生態系を作り出しています。

極寒の地で海水より栄養分が少ない淡水であるにも関わらず、多様な動植物の生育地として1996年にユネスコの世界遺産に登録されました。

豊富な固有種

バイカル湖はかつて海の一部でした。

約3,000万年前に断層に沿った地殻変動によってできた地溝湖で、深い地溝が海から取り残されて形成されました。

もともと海で暮らす動物であったアザラシがなぜ淡水のバイカル湖に生育するのかは長い間謎でしたが、この海から孤立した際に取り残されたと考えられています。

湖には、1,300を超える動物種がいますが、ほとんどの種は、バイカルアザラシと同じように海生生物が淡水化に適応していった結果の固有種(この地域にしか生育しない種)と考えられています。

透き通った氷から見える湖の中

タタール語で「豊かな湖」を意味するバイカル湖は、1年の半分近く凍結していますが、濁度が低いため湖の景色は格別です。

典型的な氷の厚さは1~1.5mなので、冬でも安全に凍った地を車で横断できます。

急速な氷結と厳しい風の組み合わせによって、ハワイアンブルーの氷の表面には岩の台座、つららなど、魅惑的な造形物ができ、冬の観光地として脚光を浴びています。

湖の底の堆積物をバクテリアが分解するときに出す「メタンガス」が氷に閉じ込められた「メタンの気泡」の連なりはまさに一見の価値有りです。

夏の間、観光客はバイカル湖を囲む山岳地帯での時間を楽しみ、バイカル湖は時代とともに保護されるようになりました。

バルグジン自然保護区をはじめ、湖の周りには多くの自然保護区、国立公園、狩猟保護区が設置され、現在ではバイカル湖の50%以上が保護されています。

しかし、こうした努力にもかかわらず、経済的な野望は自然保護に絶えず襲い掛かります。

バイカル湖の排出口は、唯一の流出河川であるアンガラ川のみとなり、全体の0.3%弱の排水量しかないため、水の入れ替わりがほとんどなく、近隣諸国から流れる川の水や大気の汚染による影響を非常に受けやすく、回復が難しいのです。

ロシア国営の石油パイプライン企業によるバイカル湖近くの建設計画。

半世紀近くにわたって製造廃棄物や漂白剤をそのまま湖に投棄してきたパルプ・製紙工場。

実際に湖に投棄されてきた15,000トンの有毒廃棄物は、湖の膨大な水量によって希釈されていますが、この数十年の間にいくつかの変化を起こしています。

地域汚染による腐敗藻類の拡大、いくつかの固有種の魚や海綿動物種の消滅、環境の変化も、水と堆積物の複雑な調和を狂わせています。

動植物や水そのものの繊細なサイクルは、3000万年前から時の試練に耐えてきましたが、その先にある未来にどのように適応していくのか目を反らせない問題がそこにあるようです。

バイカル湖の地理的な魅力については、以下の動画で見ることができます。

The Geography of Lake Baikal explained