モンゴルの国境近く、ロシアのシベリア南部には、サヤン山脈とスタノヴォイ山脈を結ぶ全長640キロの巨大な湖があります。
世界で8番目に広いバイカル湖(31,722 km2)です。最大水深、貯水量、透明度ともに世界一で、約3000万年間の歴史を持つ世界最古の湖です。
ここでは、三日月型をした地理的な風変わりさとその特殊性から、最もユニークな湖として知られるバイカル湖の地理的特徴について、他の湖と比較して紹介します。
バイカル湖の地理的特徴
数字で見るバイカル湖は、琵琶湖の47倍、ドイツのベルリンとほぼ同じ大きさです。
世界の湖の大きさランキングでトップを飾るカスピ海や北アメリカの五大湖(スペリオル湖、ヒューロン湖、ミシガン湖)、アフリカのビクトリア湖やタンガニーカ湖には表面積で及びませんが、それを深さで補っています。
バイカル湖は、海抜455mに位置し、最深部は1,640mもあり、世界で最も深い湖なのです。
この深さ、面積、険しい峡谷のような壁の組み合わせが、膨大な量の水を集め、貯水量は世界一を誇ります。
バイカル湖に注ぐ水量が最も多いセレンガ川、これに上アンガラ川、バルグジン川が続き、全てあわせると300本以上の河川から流入しています。
バイカル湖への流入河川が豊富な一方で、流出河川はアンガラ川しか無いことも豊富な水量の要因となっています。
南と東から流れてくる川の上流には、モンゴル北部とロシアのブリヤート共和国があり、その水量はアメリカの五大湖の全水量を合わせたよりも多く、なんと地球上の全表面淡水の22%を占めています。
氷のバイカル湖
シベリアのツンドラ地帯の南端にありながら、バイカル湖周辺の気候は北極圏に劣らない極寒地です。
冬の平均気温は摂氏マイナス20度、夏の平均気温は8月でも摂氏11度を超えるのがやっとです。
このような荒涼とした気候条件と、湖を取り囲む山岳地帯のため、全長2,000キロを超える湖岸線に沿って誕生した町はわずか40に過ぎず、そのうち2万人以上の人口を擁する町は1つしかありません。
バイカル湖に浮かぶ最大の島オリホンのように、この地に定住する人々は、鉄器時代初期から定住していたようです。
バイカル湖最大の島「オリホン島」
オリホン島へは、湖が氷に覆われる冬になると、自動車で渡ることができるようになり、氷上に交通標識も立てられます。美しい氷の洞窟を見ることもできます。
島の最高地点からバイカル湖に800mの急傾斜をで落ちる土地の形状は、自然の驚異が生み出した地殻変動の過去を見事に描写しています。
バイカル湖のはじまり「地殻変動」
地表の地形は絶えず変化しています。しかし、風や水による浸食、氷河の止むことのない進退、火山の噴火、あるいは人間の活動など他のどの要素とも違う、大地の裂け目に出来た世界最大の大地溝帯として、そこにはバイカル湖誕生ならではの要素があります。
学校で学習するプレート・テクトニクスの地図は、一般的に少し単純化しすぎており、多くのマイクロプレートや地溝帯が抜け落ちています。
特に環太平洋火山帯の周辺はそうです。
しかし、これらの抜け落ち分も取り入れると、アジア内部の山脈やバイカル湖を形成してきた地殻変動をすぐに明らかにすることができます。
世界最古の古代湖
満州、朝鮮半島、西日本に位置する小規模なアムールプレートの北西境界付近では、溝帯から新しく生成されたプレートが互いに離れて遠ざかっている発散型境界運動と変形プレート運動が組み合わさって、ユーラシアプレートから年間4mmほど離れていっています。
これらの運動が組み合わさって、断層帯が横ずれするたびに、この地域で定期的に地震が発生しているのです。
同時に、プレート同士が離れていく発散運動は、この地域の主要な観光スポットの一つであるバイカル湖周辺の地熱の発生を活発にし、ロシアやモンゴル、さらには中国の一部に大地震を引き起こしています。
今日のGPSにより、バイカル湖周辺プレートの運動速度は、ほぼ正確に追跡できるようになりました。
その結果、バイカル湖にあるプレート境界線は、1年におよそ3~4ミリの速度で互いに離れていることがわかり、湖全体の形成はおよそ2500万~3000万年前まで遡ることも明らかになってきました。
これは湖底の地層を採取するボーリング調査でも確認されており、数百万年分の堆積層が発掘されています。
これらのことから、古代湖として知られるバイカル湖は、現在地表に存在する最古の湖であることが示されました。
実のところ、カザフスタン東部にあるザイサン湖も約7000万年前に誕生したと推定されており、最古の湖として候補に挙がっていましたが、科学的な証拠がないため、やはりバイカル湖に軍配が上がったようです。
バイカル湖の地理的特徴については、以下の動画で見ることができます。