脳にある「爬虫類脳」を使って成功をつかむ!は間違いだった

2018年8月 7日

あなたは、今までに

爬虫脳を使って友達を作る方法、
爬虫類脳を克服してダイエットを成功させよう、
爬虫類脳を刺激してビジネスを成功させる方法

といった記事を読んで期待に胸を膨らませたことがあるかもしれません。

ここでいう爬虫類脳とは、脳の奥深くに存在する原始的な反応をつかさどる部位で、自らの生き残りのために本能的に安全を好み、慣れないことに闘争・逃走反応、恐怖心などを引き起こす部分。

そして、多くの記事が、この爬虫類脳をうまくコントロールすれば成功をつかめるとかかげています。

たしかにこのような「爬虫類脳」の考えは、わずかですが真実に基づいているために、半世紀もの間、多くの人の心をとらえてきました。

しかし、残念ながら研究がすすむにつれて、爬虫類脳と呼ばれる部位を持っているという考えの大部分が間違っており、今ではそれ自体が存在しないとさえいわれています。

ここでは、研究がすすむにつれて分かってきた「爬虫類脳」の誤った考え方について分かりやすく紹介します。

「爬虫類脳」のナンセンス

「爬虫類脳」のナンセンスは、1960年代に、神経科学者のポール・マクリーン博士が唱えた「脳の階層三位一体説(脳は三層から成る)」理論から始まりました。

彼は、「動物の脳はどのように進化したのか」、「人間のようにいくつかの動物には推測力があったり、計画性があったりするのに対して、それらが無い動物もいるのはなぜか」について、次のように脳の領域を3つの階層に分けて考えたのです。

マクリーン博士が唱えた「脳の階層三位一体説」とは

マクリーンは、推理や計画といった脳の複雑な機能は、原始的で本能的な脳の基盤の上に、後から追加された層によるものだと考えました。

そして、この基盤となる中核部を「原始爬虫類複合体」という少し難しい名前で呼びました。これが後に「爬虫類脳」と呼ばれるものです。

分かりやすくいうと、ジューシーな餃子の具(本能的な脳の中核)を、後から皮(複雑な機能を処理する脳の層)で包み込んだものです。

この後から外側に追加された脳の層というのが感情的反応を処理する「大脳辺縁系」です。

次いで、その外側には、言語機能や分析的な思考といった最も複雑な機能をつかさどる「大脳新皮質」が加わり、この順番で脳が三層構造に進化したと考えました。

脳の中核にある「本能的な爬虫類脳」の役割

中核の部分は、今私たちが「大脳基底核(だいのうきていかく)」と呼ぶところで、脳の中心にある神経細胞の集まり(ニューロン群)です。

名前が示すように、脳の奥深くに存在するこの領域を、マクリーンは、爬虫類の縄張り意識や逃走、防御反応、食欲、呼吸といった本能的な行動をつかさどる運動調節の神経群であると考えました。

「原始ほ乳類の脳」と呼ばれる第二の層「大脳辺縁系」

爬虫類脳の周りには、主に感情に関与する大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)があります。

「感情」とは、社会関係や子育て、他者とのつながりにおいて大切なもので、マクリーンは、このシステムが初期のほ乳類にとって特に重要だったと考えていました。

進化的に新しい脳の領域「新ほ乳類の脳」大脳新皮質

最終的に加わった最も外側の層は、マクリーンが「新ほ乳類の脳」と呼ぶ大脳新皮質です。

ここは、大脳の表面を覆った大脳皮質の大部分を占めた六層からなる薄い組織で、知覚や思考、記憶など、いわゆる「頭のよさ」に関係しているところです。

この面積は、人間や霊長類など、より高い脳機能をつかさどった哺乳動物になるほど大きく、この部位の発達によって私たちは言葉を話し、論理的思考や知覚、認識ができるようになったとマクリーンは考えました。

「脳の階層三位一体説」の問題点

マクリーンの理論によれば、これらの3層は、それぞれが「脳」に断片的に働きかけます。

たとえば、怒って競争相手にどなりつけるのは、爬虫類脳のしわざですが、世界の偉大なナゾをじっくりと考えるときは、「新ほ乳類の脳」の担当になるのです。

よく流行(はやり)の心理学的な記事が、マクリーンの爬虫類脳の支配について話題にしていますが、これらはある点では真実ですが、下記のように間違っている点も多いといわれています。

グループ分けの問題

まず、脳のさまざまな部分がそれぞれに異なる働きをするという点では正しいかもしれませんが、そのグループ分けに問題があります。

爬虫類脳と呼ばれる大脳基底核の領域は、私たちの基本的な機能(呼吸や食欲、性欲など)や習慣づけを助け、自主的な動きをコントロールする上で大きな役割を果たしているところです。

しかし、実際には、他の層の役割とみなされている感情や自己管理のような実行力にも関わっています。

たとえば、爬虫類脳の一部分で脳の前側にある側坐核(そくざかく)と呼ばれる神経細胞の集まりは、脳の報酬回路において大きな役割を果たしている点で第二の層に含むこともできます。

第二の層である「原始ほ乳類脳」と呼ばれる辺縁系の領域は、主に、そのなかの扁桃体と呼ばれる一時的な感情の動きを調節する神経の集まりによって、感情や他者とのつながりに深い関係があるといわれています。

そのため、いくつかの神経科学者は、意思決定に重要な役割を果たす眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)と呼ばれる外側(第三の層)にある部位も、辺縁系に含まれると考えており、もっと包括的な言い方で「傍辺縁系」と表現しするなど、「辺縁系」と呼ばれる領域自体に同意しない人もいます。

その他にも、原始ほ乳類脳も新ほ乳類脳も合わせて考え、大脳皮質全体の機能的ネットワークとまとめて考えるべきだとする人もいます。

辺縁系や大脳新皮質はほ乳類特有のものではない

進化的に新しい脳の領域だとされる(大脳の)新皮質が、私たちの推理、言語能力、および認知能力において大きな役割をになっていることは間違いありません。

しかし、それだけでは、その領域が、「知性」そのものに必要であることを証明するには不十分です。

たとえば、新皮質のかけらもないはずのタコが、複雑な迷路から出る方法を覚えているというとても巧妙な認識能力を見せることは、マクリーンの理論では説明できなくなってしまいます。

また、辺縁系は、ほ乳類特有のものではなく、魚や両生類など背骨を持つ生き物のほとんどが、基底核だけでなく辺縁系を有することも分かっています。

そして、マウスのような下等ほ乳類にも新皮質があり、ニワトリなど他の動物にも、新皮質の類があるという証拠がみつかったことから、新皮質が進化的に新しい脳の領域であるという理論も見直されつつあります。

たしかに、私たち人間の新皮質は、体の大きさを考慮してもネズミよりもはるかに大きく、霊長類の基底核、および辺縁系におけるいくつかの構造も大きくより複雑です。

しかし、彼らの脳の新皮質は、ただ六層になっていないだけで、私たちと同じタイプの神経細胞を含み、それは、言語能力をもつ鳥や爬虫類の子育てのやり方を見ても分かってきました。

脳は各部位が連携して全体で機能する臓器

とりわけ「三位一体説」の最大の問題点は、これらの異なる「脳」の層が独立して、あるいは断片的に働くという考えにあります。

私たちの脳は、実際に3つに分かれているわけではなく、全体が組織的に働く1つの大きな臓器なのです。

行動の根底にある脳活動はある特定の領域で始まるかもしれませんが、すぐに他の部分が助けて脳全体に広がります。

これは、並列分散処理(へいれつぶんさんしょり)と呼ばれるもので、複数の分散されたパーツが同時に、情報の並行処理を行っているのです。

さらに、新皮質が他のさまざまな神経に関与することも分かっています。

たとえば、魅力的な人があなたの彼氏や彼女に猛烈にアタックし始めて、あなたは怒るとします。

その怒りの感情は、辺縁系の一部である扁桃体の活動から始まるかもしれませんが、新皮質領域を含む大脳皮質の他の部分も、そういった外からの刺激に対しての反応に影響することができます。

なかでも、大脳基底核、特に側坐核は、新皮質や辺縁系からの情報を整理することによって、怒りに対してあなたが実際に何をするかを決める上で重要な役割を果たすでしょう。

そのため、あなたの嫉妬の度合いは、爬虫類脳がコントロールしているのではなく、脳の複数の箇所が一斉に働いているといえます。

まとめ

マクレーンの理論は、たしかに当時の神経科学者たちが持っていた知識を反映したものではありますが、神経画像処理技術を使った行動研究がすすむにつれて、今や時代遅れの理論となっていきました。

つまり、脳構造とそれぞれの機能の仕組みを理解するうえでの方向性は正しかったにせよ、それらの構造がどのように連携するかや動物の脳の進化という点では大きな問題点があったといえます。

上記のような研究結果は、最終的に、あなたが、爬虫類脳をコントロールすることに頭を悩ませる心配がないことを意味します。

なぜなら、爬虫類脳自体が存在しないのですから。