「交通渋滞を改善する」ために国家予算を何兆円もかけて道路をつくるより効果的な解決策が、なんとアリの研究から発見。
アリは、密度が異常に高い状況でも、長い行列が詰まることなく、エサを巣穴に持ち帰るまでのスムーズな交通量を維持しつづけています。
どうやら私たちの交通渋滞は一人ひとりのある行動で緩和できるようです。
今や地球上には70億以上の人々が存在し、6人に1台の割合で車が走っているため、交通渋滞は世界のあらゆるところで見られます。
2015年のデータによると、アメリカのドライバーは、一年間で一人当たり約50時間、全体では100万年にも及ぶ時間を車の運転に浪費しました。
そして、もっと最悪なのはロンドン。
平均的なドライバーは、年間4日以上を渋滞の中で過ごしているようなもの。
しかし、地球にはもう一つの偉大な通勤者がいます。
アリです。アリの総数は2京匹にも及ぶとさえ考えられています。
ただし、アリは渋滞に巻き込まれることがありません。
そこで科学者は考えました。
一体アリと人間の違いは何なのか?
今回は、私たちの永遠のテーマともいえる「交通渋滞を解決する方法」について、アリの行列が渋滞しない理由から得たヒントをもとに紹介します。
それは、私たち一人ひとりが、自分のことばかりではなく、周りの人のことを考えるだけ。
アリには交通渋滞がない
軍隊アリの一日は私たちの日常と似ています。
朝起きると、隣人数千人と一緒に出発し、移動したら、家族のために家にきちんと戻る。
混雑、狭い道、のろまな運転者、 アリたちも私たちと同じ交通課題に直面しています。
しかし、彼らは交通渋滞には巻き込まれることはありません。
だからこそ今、科学者たちは、人間界で交通渋滞を緩和するために、アリに注目しています。
基本的に、速度と交通密度が臨界点に達する(約40%)と移動速度が遅くなり、アクセルやブレーキの踏み間違いをしただけでも、渋滞は避けられなくなります。
しかし、アリの世界では、たとえ密度が高くても、組織力によって交通渋滞を回避できるようです。
アリによる渋滞の解決策「組織の力」
一般論として、混雑しやすい道路での交通渋滞に対する最も簡単な解決策は、道路を大きくすることだと考えられています。
しかし、私たちがするように、アリは道を好きなだけ広くすることができません。
道を広くすれば、それを維持するのに時間とエネルギーがかかり、道しるべとなるフェロモンも弱くなってしまうからです。
以前、「アリはどうやってエサを見つけるのか?」で紹介したように、アリは、仲間への道しるべにフェロモンと呼ばれる匂いを出してエサや家を知らせています。
その代わりに、アリは混雑を組織化という方法で回避しているのです。
アリは、3車線を行きと帰りで使い分けている
私たちには見えませんが、実は、アリの通り道には車線があります。
食べ物を運んで巣に戻ってくるアリは中央の車線を使い、巣から出発したアリは、端の車線を通っているのです。
知らなかった!
でもどうして3車線なの?2車線ではだめなの?
確かに不思議ですよね。
実は、アリが混雑するときに3車線になるのには、ちゃんと理由があります。
たとえば、一車線の場合、行きと帰りの2匹のアリが同じ車線にいると、衝突を避けるために、最終的には1匹が道を譲らなければなりませんね。
そんなとき、荷を積んだアリはそれだけ動きが鈍くなってしまうため、ほとんどの場合、巣穴(反対方向)からやってくる手ぶらのアリが避けるという行動をとります。
その際、最初に出会ったアリが右側に避けると、次のアリは左側に避けるといったように交互に避けていくとスムーズに渋滞を避けることができますね。
このようにして自然と3車線になって、衝突も渋滞もない組織化された道ができたのです。
実は、人間も歩く時は組織化して渋滞を回避している。しかし車では?
実は、人間も混雑した道を歩くときは組織化されているといわれています。
たとえば、混雑した横断歩道では、人間も軍隊アリと似たような行動を自然ととる姿が観察されています。
花火大会の様子を思い浮かべてください。
誰が交通整理するわけでなくとも、自然と行きと帰りの人の列ができています。
しかし、車になると話は別で、なぜか渋滞を生み出してしまうのです。
渋滞に巻き込まれたときの人間の心的状況
私たちが渋滞を嫌うのには単純な理由があります。
第一に「並んで待つのが嫌い」だから。
行列に並ぶことは、私たちの脳の時間感覚に奇妙なトリックを仕掛けています。
実は、渋滞は、脳の時間感覚を変えているのです。
まず、占有されている時間(忙しい時間)は、占有されていない時間(ひまな時間)よりも短く感じること。
これが車の渋滞にはまると、ラジオを聞いたり、ゲームをしたりする理由です。
スーパーマーケットがレジの列に雑誌を並べるのも、これと同じ理由です。
大きな会議に遅刻しそうなとき、目の前に起きる全てのことが、あなたの邪魔をしているように感じたことはありませんか?
不安は待ち時間を長く感じさせます。
原因不明の渋滞に巻き込まれたら、それこそ最悪です。
そして、交通技術者たちは、シンプルな情報表示が遅延に対する私たちの考えや行動を変えられることも分かってきました。
スムーズな交互流入を邪魔する人間心理
第二に、人間は「不公平な待ち時間」が嫌いです。
たとえば、前方で車線閉鎖のサインが出ていると、時間に余裕を持って早めに車線変更をする人がほとんどでしょう。
それにもかかわらず、なかには、渋滞を横目にギリギリまで何台も追い越して、車線が閉鎖するギリギリのところで車線変更する車もあります。
こうして何台も抜かした車に対して、不公平感から腹を立てた経験はありませんか。
しかし、ここで驚きの真実があります。
なんと、交通研究者が発見したのは、後者のように、合流を遅らせた方が実際には全体の交通量がスムーズに流れることです。
両方のレーン(閉鎖車線、走行車線)を、二列(最大容量)で使用することができるうえ、誰も不公平な気持ちになることもなく一石二鳥なのです。
渋滞時に感じる不公平な感覚は勘違いだった
そもそも、「何が公平か」という人間が持って生まれた感覚は、最大の心理的錯覚につながることがよくあります。
車を運転していると、なぜいつも隣の車線の方が速いのかとイライラした経験はありませんか?
実は、それはあなたの勘違いだったのです。
通常の進んでは停止を繰り返す渋滞に二車線で車が並んでいるとしましょう。
隣の青い車があなたの車を追い越した時と追い越された時の時間を数えた場合、実はある地点までかかる時間はほぼ同じ。
なぜなら、私たちの脳は利益よりも損失に注意を払うからです。
自己中心的な「エゴ」が、実際の交通渋滞を生む原因に
交通渋滞は、ドライバーが、移動時間を最短にすることを気にし過ぎて、他のドライバーが何を望んでいるかに対する配慮がないが故に引き起こされることがよくあります。
たとえば、「急いでる人間もいるんだから、もっとスピードを出せよ」とクラクションを鳴らしたり、逆に「制限速度以下でも速度を守ってることには変わりない」と遅いスピードで道路を塞いだり。
アリは、集団のために個人が行動をコントロールしている
ハキリアリは、積み荷でなかなか速く進めないアリがいたら、どうすると思いますか?
「後ろが詰まってるんだから」とつっついてせかしたり、悪口を言ったりすると思いますか?
いいえ。
人間の場合は、交通密度に応じて衝突も増加し続けますが、アリの場合は、ある地点から衝突頻度が超えることはなく、スムーズな流れが保たれます。
アリは、それがアリの組織全体の食料確保のためにベストな方法だと知っているようです。
結論:アリから学ぶ渋滞の解消策
働きアリは、コロニー全体の利益という同じ目的を共有し、皆がつながりをもって行動すると考えられています。
それが、彼らの素晴らしい交通システムの根底にある協調的な遺伝的プログラミングだったのです。
つまり、私たち人間が、アリよりも大きくて複雑な脳を持っているという事実が、渋滞に巻き込まれる理由そのものだったようです。
残念ながら、ほとんどの人間にとって、個人の利益が、集団の利益よりも優先順位が高いため、自分たちが問題であることを認めるのではなく、交通渋滞を自分たちの身に起こった悲劇だと考えてしまうようです。
たとえると、アリは、シンプルなプログラミング機能をもつ小さな機械のようなイメージ。
いくつかのルールを持ち、個々がお互いに通信してつながりをもちながら、複雑な交通ネットワークでも最大効率で動作できるようにしています。
最後にまとめると、自分のエゴに振り回されるのをやめて、一人ひとりが集団的な利益のために行動することが、交通渋滞を緩和する近道となるのです。
参照元:
・Why Don’t Ants Get Stuck In Traffic?
・Experimental investigation of ant traffic under crowded conditions
・Study: Ants are “immune” to traffic jams