アリそっくりに進化した生き物たち・驚くべき擬態ワールド

2019年10月 4日

私たちの周りのいたるところで見られる昆虫といえば、ほとんどの人が「アリ」を思い浮かべるでしょう。

アリは、個体数でいうと世界で最も多く、その数は推定何千兆匹ともいわれる無脊椎動物です。おそらく陸上の昆虫をはじめ、どのような動物もその数に勝る者はいません。

なかでも多女王性(1コロニーに複数の女王アリが存在)で驚異的な繁殖能力をもつのがアルゼンチンアリです。

彼らは、南米から積み荷船にのって、南極大陸をのぞくすべての大陸に渡り、地中海沿岸や米国カリフォルニア州などでは何百、何千キロにもわたって急速に拡大した巨大コロニーも発見されています。

日本も例外ではなく、西日本で繁殖が確認されており、特定外来生物にも指定されています。

実のところ、彼らは、社会性があって群れをなすだけでなく、攻撃性が強い肉食の捕食者としてのハチ類の面も持ち合わせているので、他の昆虫から恐れられる存在なのです。

そこで、こうしたアリと競合するよりも、この群れにうまく溶け込んだほうが有益だと気付いた生き物がいます。

それは、アリではないけれど、アリのように見え、アリのように行動する 「擬態」生物たちです。

ここでは、進化によって他の生き物の形態や色、行動などのマネをする能力を身に着け、生存率や繁殖率を高める戦略に成功した興味深い生き物たちについて紹介します。

生き物たちの驚異的な生存戦略「アリへの擬態」

自然界において擬態は、とてもありふれた生態学的現象です。

それは、生き物が自分の体の色や形を他の生き物に似せたり、行動をマネたりして、外敵から身を守り、ときには攻撃するときに機能します。

生き物によって、擬態の目的や方法、機能の仕方はさまざまですが、ここでは、アリをモデルにして、その姿や行動を習得した興味深い生き物たちにクローズアップして紹介します。

危険種の性質をまねて身を守るベイツ型擬態

クモといえば、ずんぐりとした丸みのある形状を思い浮かべるかもしれませんが、アリグモは、自らの体をアリの形態に似せて極端に細長く進化させました。

彼らの種のオスは、アリに似せるために口のパーツを大きく進化させすぎたために、もはや牙を介する毒はもっていません。

彼らのように、自らは毒をもたなくても、毒のある危険種と呼ばれる生物に姿を似せて捕食者から身を守る擬態のことをベイツ型擬態といいます。

それでは、アリのような姿に進化したユニークな生物、アリグモについて詳しく見ていきましょう。

アリグモがアリに擬態する理由

アリは、私たち人間には、小さくて弱い存在にみえるかもしれませんが、実のところ、噛むために発達した鋭い顎(あご)や毒針をもち、ときには、蟻酸(ぎさん)を噴射できる毒腺を装備した強い種など攻撃的でどう猛な種もたくさんいます。

アリへの擬態は、他の昆虫を恐れさせるだけでなく、そうした毒腺を好まない天敵を欺くうえでも防衛効果を発揮するのです。

加えて、彼らは不味な種も多いうえ、フェロモンを使用してより多くの仲間を集めて兵力を結集させることもできます。

一方でクモは、生態学的には捕食者側ではありますが、通常は防御のための装備が乏しく、兵力として結集できるような何百千匹という仲間もいません。

そのうえ、鳥やスズメバチをはじめ、体の大きなクモたちなど、クモを好んで食べる天敵は数多く存在します。

以上のことを考えると、アリに偽装した方が天敵に食べられにくくなり、より安全だと考えるクモがいるのも理解できます。

これらのアリに色や形が似た姿をしたクモは、さらに彼らの行動までマネることによって、擬態をより完璧に近い生存戦略にしているようです。

アリの行動を擬態

アリグモは、2本の前肢を振り上げて触覚のように見せ、アリのようにジグザグに走ります。

狩りをするときもこの策略を利用し、クモのように獲物に飛びつくのではなく、無害なアリのふりをしながら走り回って捕獲します。

このようにして、彼らは、他の捕食者から身を隠しながら、狩りも成功させるのです。

昆虫に姿を似せた植物

補足ですが、世の中には、アリに擬態する節足動物にとどまらず、昆虫をに擬態した植物も存在します。

ハチに姿が似た花をもつ「ミツバチラン」は、ミツバチをだまして花の中に引き入れて受粉させるために擬態を使います。

その他にも、イスラエルの科学者たちが、オナモミやパッションフラワーなどの植物にある斑点模様について、草食動物に対する防衛効果である可能性を示しているように、植物にもさまざまなタイプの擬態が見られます。

アリに似たスズメバチ

オーストラリアには、スズメバチやアシナガバチなど、捕食性の大型の種に擬態したとてもユニークなクモがいます。

1969年に、オーストラリアの科学者は、砂の中を走り回っているメタリックブルー色に輝く小さなアリの群れを見ていました。

近づいて調べてみると、彼らには、2つの小さな翼か翼の痕跡のようなものがあるのに気付きました。

これは、働きアリでは珍しいことです。そして、その細腰もアリとは少し違うようでした。

なんとその生き物は、アリではなく、スズメバチの類だったのです。

スズメバチとアリは、生物学的に近縁関係にあるとはいえ、科学者にとってこのスズメバチは、ほぼ完璧にアリのように見えたといいます。

一見すると、これは、防衛のためにより有害な生物のマネをするベイツ型擬態の一例に感じるかもしれませんが、強力な針をもつハチの場合、無防備で弱い存在ではないため少し異なります。

危険な種同士が姿を似せて他を警告する「ミューラー型擬態」

攻撃的、または、有毒な2つの異なる種が、互いに類似しているように見える場合、全体的な危険信号をより強く発信することができるため、両方の種に利益をもたらします。

これを「ミューラー型擬態」と呼び、その例のひとつに、社会性をもち、攻撃性の高いスズメバチとミツバチの両方が黒と黄色(橙色)の似たような警告色をもち、他者に自分達が危険であることを色で知らせて警戒するものがあります。

オーストラリアのスズメバチの場合は、ミューラー型擬態をアリと共有して、噛むか刺すかのいずれかの脅威を相手に与えることによって近づかないように警告していると考えられています。

とはいえ、アリのミュラー擬態に関する科学的な証拠はまだ不十分な段階であるため、もっと多くの研究が必要です。

これまでのところ、クモ、昆虫、さらには植物でさえもアリへの擬態を使用して身を守る方法を見てきました。

しかし、一部の擬態者は、防衛のためにアリになりすますのでなく、自らの生存・繁殖に利用したり、逆にアリを食べたりするために擬態の能力を悪用するものもいます。

アリの巣に寄生するゴウザンゴマシジミ

ゴウザンゴマシジミは、ヨーロッパで発見されたチョウですが、他のチョウのように幼虫期に葉を食べる期間がほとんど無く、卵からかえると約2週間で木から地面に降りてしまいます。

そして、そこからは地面の上で、赤アリに見つかるのを待ちます。

すると、アリが、ゴウザンゴマシジミの幼虫をアリの幼虫と勘違いして、自分の巣に戻した後、自分達の幼虫と一緒にエサを与えて育て始めるのです。

ゴウザンゴマシジミは、幼虫期にアリの巣内にうまく侵入して、彼らの食べ物を奪って成長し、より攻撃的な種になると、巣の中でアリの幼虫や蛹を食べることさえあるといわれます。

外敵が入り込まないアリの巣は、この小さな幼虫に、食事だけでなく、安心安全な環境までも提供してくれるのです。

これは、生き物が自らの繁殖を助けるために宿主を搾取するという点で、一種の生殖擬態といえるでしょう。最も有名な例に、他の種の巣に卵を産むカッコウがいます。

姿や行動以外の擬態でアリと共生する昆虫

ゴマシジミの幼虫は、自らをアリのように見せることはしません。

それでは、姿が似てないのに、なぜアリを欺けるのでしょうか。その答えは、彼らがアリの匂いと女王アリの音を上手にまねる能力にあります。

ゴマシジミは、化学物質の識別能力に優れた触覚をもつアリの嗅覚を利用して、自らが同じ匂いを放つ能力「化学擬態」だけでなく、聴覚を利用した戦略「音響擬態」までも生きていくうえで身に着け、見事なまでにアリを欺いて生存率を高めているのです。

1年ほどの期間にわたって、幼虫はアリから搾取しながら巣にとどまり、大きく強力に成長しながらサナギ化し、成虫になるまでそれは続きます。

軍隊アリをヒッチハイクする甲虫

2017年に、アリのお尻に見えるように進化した特殊な新種「Nymphister kronaueri」が発見されました。

なんと、軍隊アリと呼ばれる放浪性アリ類のお尻にしがみついて、ひっそりとヒッチハイクしながら一緒に移動する共生甲虫です。

興味深いことに、この甲虫は、長い下顎をペンチのように使って、アリの胸部と腹部の間に付着し、自らをアリの体の一部「お尻」に見せているのです。

研究者らが、軍隊アリを観察すると、視覚的に上下に2つのお尻があるように見えますが、甲虫の色や形、硬い皮膚の質感などが全てにおいてアリと一致するため、仲間のアリは彼らに気付かないようです。

実際には、この甲虫がなぜアリにしがみついて移動するのか、また、アリがこの甲虫をどのように感じているのかまでは分かりません。

一般的に、アリの背中に寄生するその他の生物は、主に楽をして食料源まで安全に到達するためにアリを利用していると考えられています。

軍隊アリといえば、数十万から百万にも匹敵する巨大コロニーを形成して、他のアリや昆虫、さらには大きな脊椎動物までも獲物として捕まえるために集団で襲撃する恐ろしい生き物です。

私たち人間には、近寄りたくないと感じる存在ですが、いくつかの生物にとっては、この恐ろしい軍隊アリのコロニーは、隠れ蓑として利用価値が高いようです。

アリ(獲物)のマネで油断させて捕食するハネカクシの攻撃的擬態

ハネカクシを見つけるのは野生では難しく、軍隊アリの群れまで探しに行かなければならないかもしれません。

アリのマネでいうと、ハネカクシは最高のパフォーマンスを見せます。

彼らは、進化の過程で足は長く、腰はくびれ、外見がアリに近いものになっただけでなく、同じ匂いの化学物質を出し(化学擬態)、ときにはアリの襲撃に参加するほど行動までともにします。

しかし、彼らにとって、このようなアリとの奇妙な関係は、防衛のためではありません。

ハネカクシは、お腹がすくとアリが苦労して得た食物やアリの幼虫を食べてしまうのです。

これは「攻撃的擬態」として知られ、ハネカクシは、自らを無害なもののように偽装して獲物(アリ)をだまして油断させているのです。

このような擬態は、特にハネカクシ科によく見られる戦略のようで、2017年の分析では、彼らの系統は、異なる時期に少なくとも12回にわたって独立に進化した可能性が示されています。

しかし、カニグモのように、攻撃的な擬態者がすべて、獲物をだますために体を変えるわけではないようです。

アリをおびきよせて捕食するカニグモの擬態戦略

カニグモは、タイ、インド、中国などで見られるカニグモの成虫は、ツムギアリを捕食します。

彼らの戦略は、死にかけた、または弱ったアリのように振る舞うことで、アリの仲間をおびきよせて近づいてきたところを襲いかかることです。

攻撃型擬態の一例で、これによってクモは、より簡単に獲物(アリ)を得ることができます。

ベイツ型擬態と攻撃型擬態をあわせもつ生き物

もっとユニークな方法で擬態を利用する生き物がいます。

アフリカのビクトリア湖周辺に生息するblack-footed ant spiderと呼ばれるクモは、ベイツ型(防御的な)擬態と攻撃的擬態の両方をあわせもつ生き物だと考えられています。

彼らの好物は、アリや虫ではなく、他のハエトリグモが産む栄養価の高い卵です。

しかし、大人のクモから卵を奪うのは難しいため、彼らは、ハエトリグモを攻撃して食べることもあるアリの特性を逆に利用して、卵を奪う方法を身に着けました。

その戦略は、クモの巣にひっかかったアリのふりをすることで、アリと間違えたクモが逃げ出したすきに、すばやく卵や幼虫を食べるというものです。

つまり、捕食するために(攻撃的擬態)、獲物から発見されないで危険な種(アリ)に擬態する(ベイツ型擬態)という防御と攻撃の両面をあわせった戦略です。

最後に

生物にとっての生存戦略として擬態は、私たちが想像する以上に奥深く、おもしろいものです。

なかでも個体数でいうと地球上で最も繁栄しているアリは、さまざまな生き物にとって、寄生や共生目的などで擬態の対象となってきました。

事実、世界中のクモの1%以上がアリに擬態し、アリへの擬態だけで少なくとも70回にわたって進化したと推定されています。

次にもし、ユニークな昆虫を探しに行くなら、アリの群れを調べてみるのもいいかもしれませんね。

参照元
こちらもどうぞ