ここでは、普段は気にもとめないトイレの機能が実はどれだけ優秀なのか、時代をこえて人類史上最高の発明品の一つだといわれる理由を紹介します。
便の形や色をじっくり見たり、触ったり、臭いを嗅いだりしたい人はおそらく誰もいないでしょう。
それには、正当な理由があります。自身の便で害されることはないかもしれませんが、深刻な病気のほとんどが、人間の排泄物中の微生物によって引き起こされているからです。
そして、ありがたいことに、私たちにはそれらの病気から守り、便利で清潔な生活を支えくれている英雄がいます。
それが「トイレ」です。
この小さなテクノロジーの進化は、名声や栄光が得られにくい分野かもしれませんが、実際に「水洗トイレ」の仕事は現代社会の最高傑作ともいえる素晴らしい働きをしているのです。
以下のことを知ると、今までは当たり前だと思っていたトイレを利用できる幸運に感謝せずにはいられなくなるでしょう。
トイレは人類史上最大の発明品の一つ
トイレに行きたくなったら、少し考えてみてください。
今では暗闇の中で寒い納屋に行くことも、ベッドの下に臭いチャンバーポット(中世ヨーロッパの簡易トイレ)を置く必要もありません。
あなたは自分の家の中で、快適に排泄でき、それらは魔法のように遠く離れたパイプの下の下水道や浄化槽に流れていき、そこで泡立てられます。
いまやトイレというと、暖房便座や温水洗浄便座、抗菌・防臭機能までも登場するほど発達しています。
それではまず、トイレが最大の発明の一つだといわれる理由「Sベンド(曲管)」についてふれていきます。
トイレのSベンド
もしこのSベンドが生まれなかったら、考えたくもない事態が起こります。おそらく家じゅうが厄介な下水の悪臭で満たされてしまうでしょう。
1775年にSベンドの特許を最初に取得したのは、アレクサンダー・カミング氏。彼は、水洗トイレのデザインで最初に特許を取得した人物でもあります。
「トイレになった男」の書籍で知られるトーマス・クラッパーも負けないくらい水洗トイレに貢献した素晴らしい人ではありますが、実は彼ではありません。
今日のトイレは、詰まりを防ぐためにUベンドと呼ばれる異なる形状のパイプが多く使われていますが、技術的にはSベンドと同じように機能します。
まず、トイレの水は、トラップ(水たまり)として知られるパイプの曲がり部にたまり、そこで下水からくる悪臭がパイプを上ってトイレから臭うのを防いでいます。
そして、トイレを流す時に、便器にむけて、貯水槽やタンクから大量の水が流れ込むと、その水圧によって曲がり部の上に水が押し上げられ、排泄物が吸い上げられるようにしてパイプを下っていく仕組みです。
その後、貯水槽から水が補充されます。このようにして、トラップの水が徐々に交換され、悪臭のガスはすべてあなたの家ではなく、それらがあるべき場所に保存されるのです。
しかし、パイプの巧妙な曲がり部が下水道から漂うガスの侵入を防いだとしても、排便後の臭いにはすぐには対応できません。
そこでアメリカでは、企業と科学が協力して悪臭の解決策に取り組んだ結果、使用前に便器にスプレーするだけで臭いの問題を解決するという「トイレ用スプレー」が生まれました。
排便後の臭いに即座に対応するために生まれた「トイレ用スプレー」
トイレ用スプレーは、便器の水面に小さな油膜を作るためのものです。トイレの水と空気の境目にオイルがバリアとして機能し、臭い分子を閉じ込めて、トイレを臭わなくするのです。
トイレ用スプレーには、さまざまな商用ブランドがありますが、基本的に主要成分(エッセンシャルオイル、アルコール、グリセリンまたは石鹸)は同じです。
エッセンシャルオイルは臭いのバリアを作成し、心地よい香りを提供します。
そして、グリセリンや石鹸の成分が、アルコールと同じように界面活性剤として働き、油性成分と水性成分の混合を助けます。
公式には、水分子と油分子はそれぞれ親水性(水に溶解する)と疎水性(不溶性)と呼ばれ、お互いに混じり合うのを好みません。
界面活性剤は、親水性と疎水性の両方の分子の性質を持っているため、それらを混合させた状態をキープする働きをします。
つまり、油と水の手をつないで物質が混ざることを可能にし、スプレーボトル内ですべてが分離するのを防ぎます。
トイレの臭いは決して恥ずべきことではありませんが、このようなトイレ用スプレーを使用すると次の利用者には感謝されるかもしれません。
そして、なんといってもトイレで重要なのが「フタ」です。
フタの役割
トイレにおいて、単純ではありながらも非常に重要な機能を果たすのが「フタ」です。
フタは、モノが便器に落ちるのを防いだり、見た目をよく見せたりするためだけでなく、衛生目的で役立ちます。
トイレの水を流す前にフタを下ろすことで、恐ろしい微粒子の分散を防ぐことができるのです。
これは本当に重要で、基本的にトイレの細菌汚染は、流した時に排泄物から微生物を含む液体の粒が吹き飛ばされて、大気中に浮遊し始めるのが問題だといわれています。
ある研究では、細菌が、トイレを流してから最大で90分間も空気中に浮遊することがわかりました。
また、他の研究では、わずか1nmほどのノロウイルス微小粒子もトイレを流すと空中に浮遊し、最終的には周囲の壁に付着することが示されています。
残念ながら、トイレメーカーによると、多くの人が接触を嫌がることや掃除の都合から公衆トイレにはフタが無いケースが多いのが現実です。
使用する公衆トイレが頻繁に掃除されていることを願い、お尻の皮膚に潜む微生物によるバリア機能に頼るとおそらく大丈夫だとは思いますが、フタがある場合はぜひ下ろしてから流すことをおすすめします。
実のところ、細菌汚染を恐れるなら、皮膚表面のバリア機能を果たす微生物たちを殺してしまうアルコール洗浄液の使用はあまりおすすめできません。代わりに、一部の専門家は、出口で徹底的に石鹸で手を洗うことを推奨しています。
次に、公共の場所にいて、周りにトイレがない場合について考えてみましょう。
屋外にある仮設トイレの液体はなぜ青色なのか?
野外イベントや公園などに設置される仮設トイレ(ポータブルトイレ)は、基本的に便を貯めるプラスチック製の容器のようなものですが、タンク内にある神秘的な青い液体のおかげで、排便の影響を最小限に抑えられています。
この液体には、悪臭を引き起こす原因となる排泄物に含まれた微生物を殺すための殺生物剤(有用な無臭性の細菌など)が含まれています。
過去には、細菌対策にホルムアルデヒドを使用した仮設トイレもありましたが、人体に悪影響を与える成分が、トイレを流したときに飛び散る危険性があったため、現在は臭気を隠すための香料や界面活性剤を含んだ青い液体が使用されることが多いようです。
ここで、仮設トイレに使われる液体の多くがなぜ「青色」なのか気になった人も多いと思います。
実のところ、それは美的感覚からくるもので、排泄物を目立ちにくくする役割があります。また、青い液体の中に排泄物がいっぱいになると尿の黄色と青色が混じって色が緑色に変化するため、それがタンク内の替え時を確認する指標にもなります。
飛行機の吸引式トイレ
飛行機には、水で満たされた水洗トイレがありません。
飛行機が開発された当初は、トイレの有効な代替手段はなく、スロップバケツが置いてあるだけだったため、実際に第二次世界大戦でパイロットはボトルに排尿しなければなりませんでした。
また、1980年代半ばまで、ほとんどの旅客機は、ポンプ駆動の便器洗浄システムを備えた仮説便所を使用していました。これは、トイレを流すと青い液体を下側にあるタンクに流し込む簡略なスタイルで、いくつかの大きな欠点がありました。
まず、利用者全ての便器洗浄に対応するために、飛行機は数百リットルもの青い溶液を運ぶ必要があり、これにより機体重量が大きくなってしまい燃料効率が低下する問題です。
第二に、これらのトイレシステムは漏れの傾向があったことです。
地上より9000メートル上空の気温は-50度近くにもなるため、排泄物が飛行機の外部に漏れた場合、それらはまず凍結します。
その後、飛行機が空港に向かって降下し始めると、この青い排泄物は溶けて飛行機から落ち始めます。それは汚いだけでなく、実際には非常に危険です。
高いところから落下する物体には、比較的小さな塊であっても、大きな力が発生するためです。実際に降下する飛行機から落ちた青い氷が、家の屋根を破って車を壊したこともあるようです。
しかし幸いにも今日のほとんどの飛行機は、真空吸引式トイレと呼ばれる液体の不要なシステムを採用しています。
飛行機でトイレを使うと圧力弁が開き、機外と機内の圧力差を利用して排泄物を一気に吸い込んで汚物専用タンクにため込む仕組みです。
また、便器には、特殊な非粘着コーティングがされており、大量の液体を使わなくても比較的きれいな状態がキープできるようになっています。
実のところ、飛行機の真空吸引式トイレは、恐ろしい音を立てて流れますが、機体を軽くするために燃料効率を大幅に向上させました。
また、これによって空港の近くに住む人々の安心できる生活にもつながったのです。
下水処理施設のヒーロー「微生物」の働き
私たち人間は大量の排泄物を出します。
公衆衛生と私たちの鼻のためには、それらが環境に戻る前に処理する必要があります。
下水処理のプロセスにおいて、真のヒーローは「微生物」です。
ゴミやその他の固形物が下水からろ過された後、微生物が残りの有機物を分解する働きをしてくれます。言い換えると、微生物たちはあなたの排泄物をごちそうにしているのです。
下水処理場は、仮想の微生物動物園のようなもので、細菌だけでなく、菌類、原生動物、ワムシ、線虫(線形動物)を含めた数百の異なる種がいます。
これらの微生物の多くは、下水処理場に到着したときにすでに排泄物に含まれているか、周囲の環境から侵入してくる可能性があります。
処理施設の中には、パンの発酵生地過程のように、微生物をたくさん含んだ汚泥をまくところも多くあるようです。
これらの下水処理プロセスは、微生物の活動に有益な温度や通気、および酸性度など、理想的な条件を整えて、微生物が最も効率的に働ける環境を提供しています。
そして、そのすべての排泄物が環境に入る前に、働き終えた微生物は殺されます。
微生物燃料電池への期待
下水処理設備には大量の電力が必要なので、一部の研究チームは、これらの下水処理場で働く微生物を利用して電力を作り出そうと試み始めています。
これは、微生物燃料電池と呼ばれ、バクテリアを含む細胞が、食物をエネルギーに変換するときに使用する電子伝達を利用して、そこからイオンや電子を回収して燃料電池にする仕組みです。
して、これらの荷電粒子がワイヤを流れると、バッテリーに保存できる電流が生成されます。
この技術はまだ開発中で、都市における巨大規模の下水処理施設でも機能するかどうかはまだ明確ではありませんが、期待は高まっています。
最後に
科学が日々進歩する一方で、国連は、世界中の子どもの生存率を左右する要因の1つが下水処理にあると報告しています。
実際に、基本的な衛生設備の欠如が、少なくとも年間28万人の死亡に関連していると考えられています。
このことからも私たちは、近代的な衛生設備を利用できる幸運に感謝し、それを当然のことと考えるべきではないことが分かります。
排泄物から私たちを守ってくれる科学技術の結晶「トイレ」は、私たちの人生をより長く、そして楽しくしてくれているのです。