なぜ「和牛」は高いのか?

なぜ「和牛」は高いのか?人に話したくなる話

和牛は、日本だけでなく世界的にみても最も高い肉のひとつだといわれています。

和牛とは、大きくわけて、黒毛和牛種(国内の90%以上がこの種)、褐毛(あかげ)和牛種、日本短角(にほんたんかく)牛種、無角(むかく)和牛種の4種類とそれらの交雑種を指します。

これらの牛は、大柄に、そして、筋肉内脂肪を高めるために品種改良して作られた食肉専用種で、なかでも「サシ」や「霜降り」と呼ばれる白い脂肪分が多いピンク色の肉は、他品種の牛肉では得られない柔らかさをもつことから高く評価されているのです。

日本政府は、高品質な和牛の価値を維持するために、物品の流通経路が追跡できる「トレーサビリティ」を取り入れ、また、国内で出生し、飼養されたものに限り「和牛統一マーク」を使うことを許すなどして厳しく規制しています。

希少な和牛ステーキは、100グラムで3万円を超えるものもあり、和牛1頭あたりでは、500万円を超えることもあります。

そもそも、和牛はなぜこれほどまでに高いのでしょうか?ここでは、食用ブランド牛として和牛の価値が高く評価される理由について、飼育にかかるコストや時間を中心に紹介します。

実のところ、将来的に世界で販売される和牛は安価なものになるかもしれないという意見もあるようです。

和牛の格付け

和牛は、「肉に含まれる脂肪の量」と「肉質(色やツヤ、肉のしまりなど)」をもとに「A1」から「A5」まで5段階で格付けされ、等級が高いほど価格が上がります。

よく「最高級の和牛A5」といった言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これはおいしさというよりも、一頭の肉の割合や脂の入り方が基準となったものです。

霜降り牛を育てるための牛を太らせる飼育法

世界では、「和牛は飼育者がマッサージをしながらミルクを与える」と誤解されるほど和牛には生後から手間をかけて育てられているイメージがもたれる傾向があるようですが、実際にはそれはまれなケースです。

基本的に和牛の生産工程は、繁殖を担う牧場と肥育を担う牧場の2種類に役割が分かれています。

肉用に飼育される牛は、繁殖農家で生まれ、子牛(9、10か月後)になった後、セリ市場に出荷され、それを肥育農家が買って食用にするために育てて体を大きくするのが一般的です。

このセリ市場の段階で、すでに和牛の子牛の価格は、アメリカの子牛の40倍の値がつきます。

ここから肥育農家は、購入した子牛を、できるだけ高値で取引されるような細かいサシ(脂肪分)が入った「霜降り」牛に育てるために、穀物中心の高エネルギーな濃厚飼料を一日に3回与えて太らせます。

牛の育て方は地域や農家ごとに大きく異なりますが、妊娠した牛と繁殖牛は牧草地で放牧されることがあるものの、その他はほとんどが狭い牛舎内で一生を終えます。

このようにして和牛は、運動をせずに高エネルギーの濃厚飼料を与えられることで、肥育されます。

少しでも高く売れるには「太らせる」ことが重要

このようにして牛を食肉のために太らせるプロセスは、少しでも高く売れる霜降り肉をつくるために重要で、2、3年間かけて、脂肪分が体重の50%近くになった成牛は、300万円以上の値打ちがつくこともあります。

日本産の農耕な霜降り和牛は、世界で最も高価な肉のひとつです。アメリカやオーストラリアで一般的に販売されるアンガス牛(スコットランド産の黒くて角の無い品種)と比べると高値で取引されています。

2013年、日本の和牛の輸出量は50億円ほどでしたが、2019年には296億円を超えるほど輸出量が増えています。

2、3年にわたる肥育プロセスには大量の濃厚飼料が必要となります。一頭あたり2年で5トン以上の餌を必要としますが、飼料の輸入価格が高騰化するにつれてコストも増加しています。

生産者の目標は、高く格付けされた霜降り牛です。体重が同じ1頭の牛でも、内臓や骨などを取り除いた肉の割合、肉質は異なることから、生産者はさまざまなアプローチによって生産効率を上げて、霜降りの度合いが高く、きめが細かく締まったやわらかい肉質で、光沢や色のよい牛肉を目指します。

有名な和牛ブランド

和牛は、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種が中心とはいえ、それらとヘレフォード種、アンガス種、シャロレー種、ホルシュタイン種、ジャージー種などの交雑種もあわせると300種以上にもおよびますが、特に注目すべき和牛は、10の地域に絞られます。

最も高価な和牛の1つに、三重県の松阪和牛があります。

なかでも処女の雌牛の柔らかさは非常に高く評価されています。

2002年には、飼養管理やきめ細かくやわらかな霜降り肉が高く評価された松阪牛が、1頭あたり史上最高値の5,000万円でセリ落とされました。

しかし、和牛のなかでも最も有名なのは神戸ビーフ(神戸牛)かもしれません。本来兵庫県で飼われていた但馬牛の純血をもち、兵庫県内で飼育された黒毛和種「但馬牛」のなかでも、去勢された雄牛、または、未経産牛(出産を経験していない牛)でかつ、格付けの高い上質な牛にのみ与えられれる名前が「神戸ビーフ(神戸牛)」です。

神戸牛という名は、米国のレストランメニューでもよく見られますが、本格的な神戸牛は柔らかくてパテにできないため、神戸バーガーなどの商品に注意する必要があります。

実際には、和牛とアンガス牛の交雑種が使われていることがほとんどであるようです。

最高位の和牛は、5年に一度開催され、「和牛のオリンピック」ともいわれる全国和牛能力共進会で2連覇を達成した宮崎牛。 ニューヨークの和風レストラン「SakaMai」は、宮崎A5を使った和風サンドイッチである85ドルのカツサンドを提供することで有名です。

和牛の魅力とは

「SakaMai」の責任者であるKen氏は次のように言います。

かつサンドは、日本ではポピュラーなスタイルのサンドイッチです。忙しい夜に、私たちはそれを25ドルのものと85ドルのメニューで提供します。

アメリカでは和牛を見つけるのは難しいので、和牛を食べてみたいがためだけに多くのお客様が訪れています。

時には日本円で1万円にも相当するサンドイッチだけを単独で注文するためにお客様はやってきます。

日本の牛肉の輸入には多くの関税がかかります。実際には生きている牛の輸入は許可されていません。ですから、海外で和牛を調達することは非常に難しいのです。

私たちは、それだけの価値があると判断し、A5宮崎和牛を試すことにしました。

A5宮崎和牛は、まるでバターでコーティングされたかのようですが、実際にはバターは使っておらず、文字通りただの塩とコショウだけであるから驚きです。本当に信じられません。

しかし、世界には、A5宮崎よりもさらに人々が欲してやまないものがあります。最も希少なステーキとして称賛されているオリーブ和牛です。

それは、オリーブオイルを搾油した後の果実を乾燥させ、それを飼料に混ぜることで、牛肉の旨みや柔らかさを生み出した和牛です。

オリーブ和牛は、日本最古のオリーブの原木がある地としても知られる日本有数のオリーブ生産地、小豆島で石井正樹という日本の牧畜家によって2006年に開発されました。

2018年に屠殺された牛は約2,200頭にすぎず、希少価値が高い和牛です。

この特別な和牛は非常に柔らかく、アメリカにおけるステーキの価格は120ドルから300ドルを超えると言われています。

世界的な和牛人気

和牛の人気は世界中で高まっていますが、日本国内では少し異なります。日本の和牛の人気は、健康志向や高齢化、ダイエットなどの影響でわずかに低下しており、2017年の時点では多くの米国産牛肉を輸入しています。

一方で、日本の和牛の輸出額は過去5年間で200%以上増加しています。

今、高齢化が進む日本では、農家は世界的な需要の増加に対応しようと必死で、さらに価格は引き上げられています。高いコストにも関わらず国際的な販売量は増加しています。

ほとんどの生産者が、イスラム圏に食品を輸出するために必要な許可証「ハラール認証」も取得しています。

和牛は将来、価格が下がる可能性がある

近い将来、日本には、高品質な和牛をつくることに関して脅威となる「外国産和牛」の競合者が増えると予想されています。

多くの人が勘違いしやすいようですが、「和牛」は産地に関係なくあくまで品種を指す名で、「国産牛」とは区別して考えます国産牛とは、生まれや品種に関係なく日本で育った期間が最も長く、国内で精肉、加工されたものを指します。

米国やオーストラリアでは、過去に輸入した和牛の受精卵と精子による牛の生産と改良がすすみ、今では中国でも外国産WAGYUの生産が出回ってきました。

たしかに米国、オーストラリア、英国などの国々は、交雑を利用して、独自の和牛の育種に取り組んでいますが、現段階ではまだ和牛の純血種は50%しかありません。

しかし、確実に変化が訪れようとしています。

たとえば英国では、和牛ブリーダー協会がDNA検証済みの全血和牛を登録し、本物の「英国和牛」を認定しています。それは、新しい方法と規制の強化により、オリジナルと同等の品質の製品が得られる可能性があることを意味します。つまり、近い将来、世界で販売される外国産和牛の価格が、大幅に低下し安く手に入ると考えられているのです。

参照元:Why Wagyu Beef Is So Expensive

error:Content is protected !!