実のところ、製品のライフサイクル全体を考えると、エコバッグにも紙袋にも欠点はあり、コットン製のトートバックに至っては使い捨てレジ袋に比べて、何千回、何万回も繰り返し利用する必要があることが分かってきました。
近年、使い捨てのレジ袋は有料化となり、その代わりに、より丈夫で再利用可能なエコバッグが登場しました。
果たして、それでこれまでの問題は解決したのでしょうか?
実のところ、製品のライフサイクル全体を考えると環境への配慮は複雑になるため、見方によっては、エコバッグではなく、レジ袋が最良の選択肢ともなり得ます。
以下に、なぜエコバッグが必ずしも良いとはいえないのかについて、一般的な使い捨てレジ袋や紙袋、再生可能なバイオマスレジ袋など代表的な5つの袋と比較して紹介します。
環境への影響を比較した5つの買い物袋
ここでは、最もポピュラーな5つの袋を取り上げます。
使い捨てレジ袋、生物分解性のある(土壌や水中の微生物により分解される)再生可能なバイオマスレジ袋、茶色い紙袋、厚手で再利用可能なプラスチック製のエコバッグ、そしてコットン製トートバッグです。
このリストを見ると、どのバッグがベストかわかったような気がします。
しかし、直観と現実が一致しないこともよくあることです。
それは、「ライフサイクルアセスメント」を見るとよくわかります。
今注目すべき「ライフサイクルアセスメント」とは
ライフサイクルアセスメントとは、製品が環境に与える影響を総合的に判断するための調査です。
それは、原料調達から、製品が作られ、使用され、廃棄されるまでの各段階のライフサイクル全体を通して調査し、集計されたもの。
このような研究は既にいくつか行われており、全体的な結論は同じになる傾向があります。
なかでも世界の注目を集めた報告書が、2018年に作成されたデンマークの環境保護庁によるレポートでした。
全体を通して排出される温室効果ガスと環境への影響
気候変動に関してはとても単純で、袋のライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスをすべて合計した数値が使われます。
それを簡単に比較できるように、この調査チームはすべてのガスを二酸化炭素に相当する量に変換しました。
一方、環境への影響の全体像はもっと複雑で、このレポートでは、オゾン層破壊をはじめ、有毒性、水や資源の使用など15の影響が調べられました。
これらを数値化して合計することで、幅広い影響を比較することができましたが、専門家の中にはこれは非常に単純化しすぎているという欠点を指摘する声もあるようです。
これについては後ほど説明し、今は、この研究で何がわかったのかという大きな問題に目を向けていきましょう。
まずは、最も環境への影響が大きいとされるバッグの製造過程、つまり、バッグを作るのに何が必要について紹介します。
使い捨てレジ袋と環境にやさしいバイオマスレジ袋の実態
一般的に、使い切りタイプのレジ袋は、石油を原料としています。
今回の調査では、「低密度ポリエチレン」という種類のプラスチック製レジ袋を対象としました。
環境への影響の大部分は、石油をプラスチック素材に変える際に発生します。
一方で、環境にやさしい生分解性レジ袋では、「デンプン複合体バイオポリマー」と呼ばれる、植物のデンプンを原料としたプラスチック素材が対象とされました。
調査がすすむにつれ、このレジ袋を製造するときに出る温室効果ガスの排出量は、生分解性ではない使い捨てレジ袋の排出量と似たものであることが分かりました。
しかし、植物のでんぷんを作るための農業には、さらにいくつかの影響が加わります。
水や肥料、農薬の使用量が増えるといった影響です。
つまり、生産の観点から言えば、使い捨てのレジ袋の方が、生分解性レジ袋よりも環境に良いようです。
紙袋は環境にやさしいのか
同様に、紙袋を作るためには、まず木が必要です。
特定の森林がどのように管理されているかは、このような比較では把握できません。
いずれにしても、木材パルプを紙にする過程で、多くの温室効果ガスが排出されます。
これは、製紙工場でどのような燃料が使われているかによっても違ってくるので、実際に紙袋については、研究によって結論も異なります。
デンマークの研究者たちの計算によると、紙袋は使い捨てのレジ袋と同じような気候変動への影響があります。
再利用可能な厚手のエコバッグは環境に優しいのか
さて、それでは大本命の再利用可能な厚手のエコバッグの登場です。
しかし、皆さんの期待を裏切ることになりそうです。
プラスチック製のエコバッグも石油から作られています。
厚手の丈夫な袋を作るためには、より多くの石油が必要となり、これは環境により大きな影響を与えることを意味します。
コットン製のトートバッグは環境に優しいのか
コットン製のトートバッグは、一見、環境に優しいように見えますが、コットンの栽培には膨大な量の土地、水、肥料、農薬を必要とします。
その上、コットンの加工にはエネルギーが必要です。
つまり、袋を作るためには、使い捨てレジ袋よりも環境への負荷がはるかに高くなってしまうようです。
今回の調査では、温室効果ガスの排出量では、紙袋が使い捨てレジ袋をわずかに上回り、他の分野では、生産面では綿が最も環境への負荷が高い素材と示されました。
とはいえ、何かがどのように生産されているかだけでは、実際の生活を反映しているとは言えません。
ただバッグを作って倉庫に置いておくわけではありませんからね。
理想的にはショッピングバッグを使わないことが一番ですが、なかなかそうもいかないので、もっと問題を掘り下げて、袋がどのように使われるかを考えてみましょう。
コットン製のトートバッグは何千回、何万回再利用する必要がある
使われ方で、素材の違いを比較する簡単な方法は、毎回新しいレジ袋を使うのと比べて、何回再利用すれば生産時の影響を相殺できるかを見ることです。
作る過程での気候変動への影響だけを考えれば、紙袋と生分解性レジ袋は、使い捨てのレジ袋とほぼ同じでした。
一方で、重量のある再利用可能なエコバッグは、気候変動への影響が大きいため、それを補うためには、少なくとも6回(使い捨てのレジ袋の6倍)は再利用する必要があります。
また、コットントートバッグにおいては、最低でも149回の再利用が必要です。
これらの数字は、デンマークの報告書だけではなく、2011年に英国の環境庁が発表した調査結果も同様のものでした。
しかし、これらの数字に、毒性、オゾン層への影響、流出など、その他の15のカテゴリーを加えて、環境への影響の全体像を見るとさらに変わってきます。
その場合、使い捨てのレジ袋よりも環境に優しいものにするためには、生分解性レジ袋、紙袋、再利用可能なエコバッグは、それぞれ40回から50回程度繰り返し使う必要があります。
そして、コットンバッグにおいては7100回も再利用、つまり、週に3回買い物をしたとしても、同じコットンバッグを今後45年間使い続けなければ、7000枚以上の使い捨てレジ袋を使ったのと同じなのです。
さらに、この推定値は、オーガニックコットンではさらに高くなり、同じ袋を2万回も再利用する必要があるというのです。
オーガニックなんて環境にいいはずでは?と不思議に思いますが、オーガニックコットンは収穫量が少ないため、この推定値はさらに高くなるわけです。
このように、いくつかの素材には明らかに問題があります。
例えば、再利用可能なエコバッグにおいて、54回ならなんとか予想される寿命の範囲内かもしれませんが、生分解性のレジ袋や紙袋はすぐにボロボロになってしまうので43回も繰り返し使うのは難しく、コットンのトートバッグにおいては2万回など、それぞれの再利用の回数は個々の袋の寿命をはるかに超えてしまいます。
「使い捨てのレジ袋が最も勝っている」には見落とされた問題がある
このようなトータルでの影響を算出したのは、デンマークのレポートだけでした。
そして、このレポートだけを見ると、使い捨てのレジ袋が最も勝っているように見えるかもしれません。
実際にプラスチック業界は、このような論理や比較研究を利用して、使い捨て製品の規制に反対するロビー活動を行っています。
しかし、もうひとつ無視できない数値があります。
それは廃棄です。
使い捨てのレジ袋のゴミが生態系に与える影響を比較する方法がない
使い捨てのレジ袋は、優れた捨て方がないのです。そのため、ゴミの散乱や海洋生態系への影響を考慮すると、環境に優しいとは言えません。
一般的に、レジ袋のうち何割がリサイクルされているのか、きちんとしたデータを得るのは難しいといわれていますが、その割合は低く、1%から3%程度であることもわかっています。
多くのリサイクルプログラムでは、選別機に引っかかるという単純な理由で、使い捨てのレジ袋を受け入れていません。
また、リサイクルされなかった使い捨てのレジ袋は、埋め立て地に放置され、下水を詰まらせ、水路を汚染することもあります。
ビニール袋は、風にとばされやすく、広範囲に散らばるので特に問題です。
さらに、分解に時間がかかるため、野生動物にとっては命取りになります。生き物に巻きついたり、食べ物と間違えて食べてしまったり、さらには袋についた外来種をまき散らす問題も実際に起こっています。
この点が、ライフサイクルアセスメント研究では不十分な点です。
つまり、ゴミが生態系に与える影響を明確に比較する方法がないのです。
ゴミとしての自然への影響
そして、今、生分解性や堆肥化可能なレジ袋のような新素材が、この問題を解決するはずだと期待されています。
しかし、2019年の研究において、これらは従来のプラスチック製のレジ袋よりも優れているという結果が出ているにも関わらず、3年後にテストしたどの袋もすべての環境で分解されていませんでした。
一方で、紙袋は生分解性なので、ポイ捨ての影響は少なく、リサイクルも可能です。
しかし、埋立地で分解されないまま放置されると、紙袋からメタンガスが発生し、それは有害な温室効果ガスとなります。
再利用可能なエコバッグやコットントートバッグの場合、何度も再利用されるはずなので廃棄処分は全体の消費量に比べて少ないはずです。
しかし、コットンバッグを含む広義の繊維製品は、全体の約15%しかリサイクルされていないのが現実のようです。
最も環境に優しい袋とは
最も環境に優しい袋、それは非常に複雑な問題です。
なぜなら、最適な素材は、それぞれのバッグを何回繰り返し使うかや、どのように廃棄するかなど、個々の習慣によっても異なるからです。
全体的に見て、使い捨てのレジ袋を作ることによる環境への影響は比較的少ないと言えます。
しかし、廃棄物は大きな問題であり、今のところ良い解決策は見つかっていません。
一方で、紙や生分解性レジ袋の製造には、より大きな環境負荷がかかりますが、これらの素材はポイ捨ての問題を軽減します。
また、再利用可能なエコバッグは、十分に再利用すれば素晴らしい選択肢ともなり得ます。
コットン製のトートバッグは、環境への影響が圧倒的に大きく、気候変動の影響を相殺するためには、何百回、何千回も使用する必要があります。
とはいえ、使い捨てレジ袋が最良だと言っているわけではなく、ただ、すべての代替品にも環境への影響があることを忘ないでください。
環境負荷を減らすための最善の方法を知ろう
すでに使えるものがあるのに、わざわざ新しい製品を買う価値はありません。
今私たちが、環境への影響を最小限に抑えるためにできる最善のことは、どんな素材のバッグを使っていても、使用頻度を減らして、できるだけ多くの回数再利用することでしょう。
そして、使えなくなったときには、ゴミにならないように、できる限りの努力をしましょう。
現在エコバッグは、環境問題の一つとして注目されていますが、それは私たちが地球に与える影響のほんの一部にすぎません。
しかし、製品のライフサイクル全体に目を向けることは、私たちの生活のあらゆる側面を分析するのに有効な方法だといえます。
私たちが着る服、食べるもの、移動手段に至るまで、日々の決断がもたらす影響の全体像を考えることで、個人も企業も、環境負荷を減らすための最善の方法を知ることができるのです。