みなさんは、トマトが虫に襲われるときに、茎や葉に「助けて」と救難信号を送ることを知っていますか?
今まで植物が果実に多くの資源を投入すると、果実はそれに答えて成長するというような「植物から果実への一方通行な関係」だと思われていました。
しかし近年、植物の親株と果実は一方通行ではなく、互いに電気信号でコミュニケーションを取り合っていることがブラジルの研究で示されたのです。
一体植物はどのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか。
果実と植物のコミュニケーション
植物は、栄養分を葉や茎からその植物が実らせる果実へと運ぶことがわかっています。
たしかに植物は繁殖のために資源を投入するので、それは理にかなっています。
また、この栄養分を介して植物は、ホルモン物質や化学物質を送りシグナルを伝えるという複雑なネットワークによってさまざまな生態機能を調節しているのです。
一方で、「果実から植物自身に向かって何かを伝えているのか」については、ほとんど研究されていませんでした。
しかし、果実も、植物の一部で、他の部分と同じ生きた組織でできているのなら、茎や葉に向けても、シグナルを伝達できると考えるのは自然なことなのかもしれません。
そこで、ペロタス国立大学(Federal University of Pelotas)とブラジル農業研究公社の研究者たちは、果実が電気信号で植物と通信しているという仮説を立てました。
これまでの研究では、植物の他の部分が、感染や虫害などによってストレスを受けたときに、電気信号を送ることがわかっています。
そこで研究チームは、イモムシの攻撃を受ける前、受けている間、その後の24時間にわたるトマトの電気的活動を測定してみることにしました。
植物と果実の関係は一方通行ではなかった
では、研究者たちは、トマトがコミュニケーションに使う電気信号を、どのようにして計測したのでしょうか?
まず、果実とのつなぎめとなる茎の先端に一対の電極を差し込んで、それを電磁場を遮断する囲いの中に入れます。
そうすることで、果実からの電気信号だけを検出することができます。
次に、イモムシ(オオタバコガの幼虫)を果実に置き、果実からの電気信号にパターンがあるかどうかをコンピューターの機械学習を使って調べました。
その結果、トマトの果実から出ている電気信号には、イモムシにやられる「前」と「後」で明らかな違いがあることがわかりました。
さらに、果実から伝わった電気信号に対する、植物からの生物学的応答があるかどうかも調べました。
植物は果実からの救難信号に反応する
果実からの救難信号にどう反応するかを調べるために、植物による過酸化水素の生成量が測定されました。
過酸化水素は、トマトが害虫に襲われたときによく発生する防御化学物質です。
結果的に、トマトは、イモムシに食われて枯れてしまうのを防ぐために、過酸化水素の生産量を増やし、果実から遠く離れた部位でもこの防御反応が見られたのです。
この研究はまだ全体的な見解にとどまり、害虫以外へのストレス信号や細かな信号の区別を知るものではありません。
しかし、おしゃべりな果物の世界を測定する技術開発につながる可能性はあります。
もし果物が「虫に食われそうだから助けてくれ」と言うタイミングがわかれば、農家が虫の侵入を早期に発見できるかもしれないのです。
農家が害虫をより効率的に管理することができたら、品質管理や収穫した果実の保管にも役立ちます。
特に、害虫の発生がより活発になる時期には、農業にとって大きな希望の光となるでしょう。
実のところ、植物がどのように果実とコミュニケーションをとっているかについては、まだ多くのことがわかっていません。
しかし、もし、私たちがその方法を知り、果物と会話ができるようになれば、彼らを守るために、植物や果実たちが協力してくれるかもしれませんね。
参照元:
・if Tomatoes Could Talk, Here’s What They’d Say
・Fruit Herbivory Alters Plant Electrome