医療・宇宙開発のヒントとなった子供のおもちゃ4選

2021年7月 9日

子供のおもちゃといえば、色や形、想像力を教えてくれるシンプルで明るい遊び道具というイメージがあります。

しかし、何世紀にもわたって、子どものおもちゃは科学者や技術者にインスピレーションを与え続け、医療診断から宇宙旅行におよぶ分野まで、さまざまなイノベーションを生み出してきたのです。

今回は、子供のおもちゃからインスパイアされて生まれた驚きの医療器具や夢のような宇宙用品を4つ紹介します。

なんと、あのぶんぶんゴマプラバン医療機器の開発に、ポッピンアイ(パッチンカップ)はロボット開発に、そして、木の積み木においては宇宙開発グッズのアイデアを生み出しているのです。

これらの科学的なアイデアはどこからでも生まれることを証明しています。

医療現場を救った「ぶんぶんゴマ」のアイデア

「ぶんぶんゴマ」、「びゅんびゅんゴマ」、「松風ごま」などと呼ばれるおもちゃを見たことがありますか。

ボタンや円盤にひもを通しただけの古典的なおもちゃで、先史時代から何千年もの間、子供たちを楽しませてきました。

紐の両端を持って引っ張ると、紐に通ったボタンがクルクルとものすごい速さで回ります

実は、この古典的なおもちゃは、医療技術や診断の分野で、技術者にインスピレーションを与えました

試験官を高速で回転させる遠心分離機の問題点

医療技術や診断では、試験管を高速で回転させる必要がしばしばあります。

そのような場面では通常、遠心分離機が使われています。

試験管を機械に入れ、速度を設定して、しばらく待つ。

遠心分離機の高速回転運動によって、試験管の中身は密度によって分離され、密度の高いものが下に、軽いものが上にと層に分かれます。

例えば、患者さんにマラリアの寄生虫がいるかどうかを調べたいとします。

特別に用意した試験管に血液を入れて、遠心分離機にかけると、一番上に黄色い血漿の層、真ん中に白血球と血小板の層があり、一番下に赤血球の層ができます。

そして、寄生虫もそれぞれの密度を持っているので、種によってそれぞれの層に分かれて入る仕組みです。

しかし、問題は、これらの遠心分離機の価格がどれも高価な点にあります。

マラリアの被害が甚大な地域では、そのような機器を購入したり維持したりする余裕はありません

また、機器を動かすのに必要な電気が常にあるとも限りません

軽くて、安くて、電気を使わない遠心分離機の代替品

そこでエンジニアや科学者たちは、軽くて、安くて、電気を使わない代替品を探しました。

サラダスピナーやキッチンミキサーなどを試してみましたが、どれも遠心分離機のような高速回転はできませんでした。

そして2017年、エンジニアたちは「ぶんぶんゴマ」を見てひらめいたのです。

そして、紙で毎分2万回以上の回転数で回転させる装置を作り、マラリアの検査をはじめ、さまざまな血液検査に応用できることを実証しました。

この紙で作られた遠心分離機は、1個あたりわずか20円くらいで購入できます。

しかし、残念なことに、1回で検査できる量が20マイクロリットル程度でした。これは、米粒と同じくらいの重さです。

そこで2019年、関連グループが3Dプリントでこの簡易の遠心分離機を作る試みをしたところ、それは成功し、2ミリリットルの液体を入れることができ、毎分6,000回転を実現しました。

価格も1個100円程度におさえることができました。

寄生虫の検出には、やはり専用の顕微鏡が必要ですが、まずはこれがスタートです。

「プラバン」をヒントに医療機器の小型化が実現

「プラバン」は、プラスチックのシートに絵を描いて、それをオーブンで温めることで縮小した傑作。

ある研究者グループは、このプラバンの縮小技術機器の小型化を目指すときに役立つと考えました。

プラバンの板は、ポリスチレンでできています。

メーカーは、プラスチックを紙のように薄く伸ばすために、個々のくねくねしたプラスチックの分子を伸ばして隣り合わせにきれいに並べた後、シートを冷やして分子を固めました。

冷やされたポリスチレンの分子は、より安定した元の状態(薄く伸ばす前)を「記憶」しているため、アートが描かれたシートを再び温めると、分子は元の無秩序な状態に戻ってしまいます。

つまり、ポリスチレンのピースは、加熱によって元の状態に戻ろうと紙をクシャクシャにするよう縮むのです。このとき、2次元の面積は減りますが、高さは増え、厚みのあるで縮んだ板になります。

呼吸モニターの問題点

カリフォルニア大学の研究者たちは、このプラバンからヒントを得て、喘息や慢性肺疾患の患者のために、より優れた呼吸モニターを作ろうと考えました。

現在、病院では、人の呼吸を測定するためにかさばるモニターを使用していますが、これでは医師が必要とする情報を得ることができません。

研究者たちは、人々が病院以外で生活しているときにも使える小型で便利な装置を作りたいと考えました。

そのためには、服の下に装着して、着けたまま歩いたり走ったり移動できるような、小型で柔軟性のあるデバイスが必要でした。

軽くて邪魔にならず病院以外でも使える小型呼吸モニターの開発

そこで、ジグザグにカットされた段ボールのような波形の小さな金属センサーを作りました。

ポリスチレンの上に、このセンサーの形を大きく切り取ったステンシルを貼り、さらに金属のコーティングを施しました。

ステンシルを剥がすと、センサーの形をした薄い金属の層が残り、それを加熱すると、プラバンのように縮むポリスチレンの上に乗っている金属も縮み、自然に波形になるのです。

このようにして小さな金属片を手に入れたエンジニアは、それをポリスチレンから出して小型の呼吸モニターに組み込むことで、これまでよりもずっと小さく邪魔にならず、より重要なデータを提供してくれる装置を作り出したのです。

木の積み木からヒントを得た宇宙開発グッズ

次のクラシックなおもちゃは、木の柱にカラフルなリングを重ねた投げ輪と積み木を合わせたようなもの。シンプルで永遠の玩具です。

でも、ちょっとイメージしてみてください。もし、それが数メートルの規模で、マッハ10以上の速さで大気中を疾走していたら?

実際に、この子供の積み木からヒントを得たNASAの科学者は、インフレ―タブル(膨らませる)技術を開発しました。

宇宙船の着陸を高温から守るシールドの開発

NASAが直面していた問題は、宇宙船が高速で着陸する際に、空気分子による摩擦で宇宙船の表面が加熱されてしまい摂氏1,400度以上もの高温になることでした。

スペースシャトルや再突入カプセルのような乗り物は、この熱に負けないように、適切な角度で大気圏に突入したり、熱シールドを使ったりして熱を逃がしています。

この熱シールドは、大気が非常に濃い地球の周りで、宇宙船の速度を落とすのに役立ちます。

しかし、大気が薄い惑星では、NASAには別の戦略が必要です。

それが「HIAD(Hypersonic Inflatable Aerodynamic Decelerator)」です。

膨らませて使うシールド「HIAD」

HIADは、リング玩具と同じように、円錐形の内部チューブを積み重ねて作られています。

膨らませた熱シールドを使うことの利点は、膨らませる前のコンパクトな状態でロケットに搭載できることです。

2012年にNASAが実施したテストでは、幅0.5m程度に縮小した後、幅3mまで展開しました。

最終的には、幅12メートルまでのHIADを作りたいと考えています。

NASAは2022年にHIADの次のテストを計画しています。

その際には、地球低軌道から地球に投下する予定です。

この実験が成功すれば、地球上であろうとなかろうと、大きな物体や非円形の物体を着陸させる際に物体を保護するツールとして利用できるかもしれません。

また、火星の軌道上に宇宙船を駐機させて、NASAが科学機器や人をより安全に火星に運ぶためにも使えるかもしれません。

「ポッピンアイ(パッチンカップ)」からヒントを得たロボット開発

最後に、さまざまな分野の科学者が実際に使ってみたいと思う技術を紹介します。

半球型ゴムを裏返して置くと、反発力で勢いよく飛んでいくポッピンアイ(パッチンカップ)。

このおもちゃからヒントを得た、ソフトなロボット部品です。

裏返しになる前のゴムポッパーは安定しています。

裏返しにすると、伸びきった内側の素材は縮んで元に戻ろうとし、圧縮された外側の素材は伸びようとします。

机の上に裏返して置くと、側面が丸くなるのは、端っこの素材がより安定した状態に戻り始めているからです。

そして、その押し引きが続き、パッと元に戻るのです。

ソフトロボティクス用のアクチュエータをゴムで作る試み

ゴムのおもちゃは柔らかい素材でできていて、大きなエネルギーで素早く動くことができるため、エンジニアたちはこれを利用してソフトロボティクス用のアクチュエータ(電気エネルギーを運動に変換する装置)の開発に利用したいと考えました。

ソフトロボットは、布や水性ジェル、ゴムなどの素材でできています。

アクチュエータは、ロボットのパーツを人間の関節と同じように前後に動かします。

従来のピストンやモーターは金属でできていて、もしそれらが素早く動くと人を傷つける可能性があります。

そこで解決策として期待されたのが、ソフトなロボット用に膨らませて使うソフトなアクチュエータ。

ゴム製のポッピンアイと同じくらいの速さで動くことができるので、薄くて柔軟な素材でできた外側のゴムと、厚いゴムでできた内側の2つのゴムを使ったからです。

2つのゴムの間を膨らませると、上の薄い層が膨らみます。

一方で、下の厚いゴムは柔軟性がないため、圧力に耐えられず、限界に達したときに裏返しになってしまうのです。

すると、予想通り、デバイスは空中に飛び出します。

このアクチュエータは、小型の医療用ロボットから、複雑な地形を横断しなければならない大型の偵察ロボットまで、あらゆるものに応用できると設計者は考えています。

発明のヒントはおもちゃ箱にある

このように巧妙な発明は、どこからインスピレーションが湧いてくるかわからないものです。

もし、あなたが画期的なアイデアを思いつかなかったら、近くのおもちゃ箱をあさってみてください。

新しい発見が見つかるかもしれません。