「サメと渡り鳥」から学ぶエネルギー効率のよい飛行機の作り方

飛行機の燃費を上げるヒント宇宙・航空科学

今回は、飛行機の燃費をよくするために、サメや渡り鳥からインスピレーションされた興味深い飛行技術について紹介します。

現代の民間旅客機は、工学の偉大な成果の一つでしょう。

考えてみてください。あなたは数百人もの人と、わずか数時間のうちに地球の裏側まで移動することができるのです。

もちろんこれだけ大きな質量を移動させるには、膨大なエネルギーが必要となります。

それは大量の燃料を意味します。

これは残念ながら、「気候変動との闘い」には適していません。

しかし、エンジニアや科学者は、より少ない燃料で目的地に到達できる飛行機の作り方について、さらに学んでいます。

なんと、エネルギー効率のよい飛行機の作り方について、自然からインスピレーションを得ているのです。

「シャークスキン」コーティングから編隊飛行まで、自然には海や空をとても上手に移動する生き物が存在することが判明し、それらが、私たちが犯したエネルギー浪費に対する過ちへの対処に役立つことがわかりました。

年間約4000万便ものフライトに使われる大量燃料の問題

まず、問題の規模を考えてみましょう。

最も一般的な民間航空機であるボーイング社の737型機は、1秒間に約1リットルのジェット燃料を消費しています。

全世界で年間約4,000万便ものフライトが行われているのですから、相当な量の化石燃料が使われていることになります。

航空機が排出する二酸化炭素の量は、全体の約2.5%ですが、航空機はCO2を大気中の高い位置から排出するため、その分地球に与える影響はかなり大きくなります。

しかし、少しでも重量を減らす空気抵抗を減らすなど、小さな効率化を積み重ねていければ、それが大きな効果につながる可能性は十分にあります。

サメの皮膚からヒントを得た空気抵抗の効率化

飛行機が受ける空気抵抗

飛行機が使う燃料を抑えるには、飛行機の周りを空気が滑るようになめらかに移動する方法を考えなければなりません。

つまり、飛行機が前に進むために受ける空気の抵抗を減らす方法です。

飛行機の設計者は、空気抵抗の効率を高める方法をさらに模索し、自然界で最もなめらかに移動する生物のひとつ「サメ」に注目しました。

サメの皮膚は、小さな鱗が重なり合ってできています。

ハンマーヘッド、マコス、ガラパゴス諸島のサメなど、高速遊泳に適した種類のサメでは、ウロコに小さな溝があり、それが鼻から尾まで続いています。

この溝によって、サメの体の周りにはなめらかに水が流れるようになり、泳ぐときに感じる水の抵抗が軽減されるのです。

溝があると水の摩擦を受ける面積が増えるから、ツルツルで滑らかな表面の方が水が滑りやすいのではないの?

ほとんどの人がそう思うかもしれませんが、流体力学は時として驚くような結果をもたらすことがあるのよ。

平らな表面より溝がある方が水の抵抗がなくなる理由

水の抵抗を減らすサメのウロコの溝

平らな表面を流体が通過するとき、体のそばでは水の乱流が起こります。水からの抵抗(摩擦)を受けると、それに勝つためより一層多くのエネルギーを消費するようになります。

サメの皮膚には、水の流れに沿って小さなV字状の溝があり、それが表面で起こる乱流による摩擦抵抗を減らす働きをしているのです。

また、私たちが泳ぐときには、後方に渦(乱流)が発生し、それが体を後方に引っ張るため、水の抵抗は大きくなりますが、サメの溝は、渦が発生しても、体から少し離れたところに押しやってくれます。

水の抵抗を減らす技術

実際に、海を高速で回遊している生物をまねて、水の抵抗を減らす技術は、船底や競技用の水着に応用されています。

ドイツの技術者たちは、サメの皮膚の微細な構造に着目し、人工的な皮膚「AeroSHARK(エアロシャーク)」を開発しました。 これはプラスチックフィルムにリブレットと呼ばれる小さな溝をつけたもので、表面から50マイクロメートル、人間の髪の毛と同じくらいの高さに突き出ています。
航空会社のルフトハンザは、10機の貨物機の底面をこのサメの皮(シャークスキン)から着想を得た素材でコーティングし、全体の燃料効率を約1%向上させる予定だそうです。一隻でみると大したことではありませんが、全体では毎年約3,700トンもの燃料を節約することになります。

渡り鳥から得た低燃費走行

雁のような渡り鳥がとるV字型にヒントを得て、別の飛行機が起こす空気の乱れを利用しようというアイデアもあります。

先頭の飛行機が空中を飛ぶとき、それは周囲に空気の渦を残します。

飛行機の周りにできる空気の渦

この渦は、サメの鱗から水が吹き出すようなもので、後方や側方を飛行する別の飛行機は、その外側を上向きに動く空気を利用して、自由に揚力を得ることができます。

エアバス社が最近行ったフランスのトゥールーズからカナダのモントリオールへのテスト飛行では、2機目の飛行機が他の飛行機の数キロ後方を飛行した場合、燃料消費量が5%少なかったという結果が出ています。

飛行時間を調節するだけで低燃費になる

この戦略の良いところは、新しい飛行機や高価な改造を必要としないことです。

飛行機同士が一緒に旅できるように飛行時間を調整することだけでいいのです。

このテスト飛行の成功をうけて、エアバスは2025年までに実際にこの飛行形態を展開し始める予定だといいます。

このような自然から着想を得た飛行技術のアップグレードは、航空効率の向上に向けた長い道のりの中では、初めの一歩にすぎません。

たしかに一つ一つを見れば小さな改善かもしれませんが、積み重ねれば大きな変化となります。

1970年以降、1kmの飛行に必要な燃料の平均量は41%減少しています。

一方で、より多くの人が空を飛ぶようになった今、効率をさらに向上させる必要があるのも事実です。

このような自然から着想を得た技術は、バイオミメティクス(生物模倣)と呼ばれ、先端技術の開発に盛んに取り入れられています。

参照元:https://youtu.be/_X-EpiT6shc

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