サメの皮がもつ細菌感染を防ぐ驚きの自己防衛構造を発見。抗菌シートに応用

2020年9月25日

サメの皮には、水の抵抗を減らす効果があることは有名ですが、細菌を寄せ付けない驚くべき防御能力の存在についてはまだあまり知られていません。

実のところ、既にサメのウロコ構造を模した抗菌シートは作られており、それが細菌やウィルスなどの病原微生物への感染予防に効果的であることも報告されています。

しかも、サメ皮の抗菌効果のすごいところは、一般的な抗菌スプレーのように菌を殺すのではなく、細菌が付着したり繁殖したりしにくい突起構造にあるといわれています。

サメの皮は、典型的な魚の鱗(ウロコ)とは少し違います。

何千もの「楯鱗(じゅんりん)」と呼ばれる突起状のウロコが、屋根の瓦のように並んでいます。

ちなみにこれが俗にいう鮫肌(サメ肌)で、歯と同じ成分と構造をもつので、皮歯(ひし)とも呼ばれています。

サメの皮の抗菌能力は、このウロコ構造が生み出す凹凸からくるもので、この体表面の形状によって、自らを細菌感染から自己防衛していると考えられています。

今回は、サメが進化の過程で得た自己防衛能力のひとつ、「細菌を寄せ付けず、繁殖させないサメのウロコ構造による抗菌効果」について体表面の仕組みをもとに、私たちが感染症拡大と闘う上で著しく役立つことを紹介します。

私個人も、抗菌剤や洗剤からくる手荒れに悩まされているため、身体や環境に害を及ぼさない抗菌素材の開発には期待を高めています。

サメの皮がもつ独特な凹凸形状と配置

サメのウロコはすべて後方に向いて突出しています。

前から後ろに向けては滑らかですが、後ろから前に向けて触ると、信じられないほど鋭くて粗い構造をしていることが分かります。

強くて粗いサメの皮は、皮だけで他の動物を傷つけることがあるほどで、わさびをすりおろすときやヤスリとしても用いられてます。

また、サメの体表に並ぶウロコの独特な形状と配置は、驚くべき方法で水に作用します。

まず、サメのウロコによる凹凸の溝が、泳ぐときに水流の乱れを少なくし、周囲の水を強制的に後方に逃がします。これは、水の抵抗を大幅に減らすだけでなく、サメの体が前方に押し進むのを助けています

しかも、サメの場合、瓦のように配列されたウロコのおかげで、クジラやマナティーのようにフジツボや藻が体につくのを防ぐこともできます

そして、これらのサメの特性のすべてがエンジニアを刺激し、ついには、人類初の抗菌模様の誕生にむすびついたのです。

サメの体表面を模した抗菌プレート

抗菌模様なんてイメージがわきにくいかもしれませんが、その言葉通り、構造(形状や配列)によって、細菌の繁殖を防ぐというものです。

初の抗菌人工模様を作成したのは、トニー・ブレナン氏。彼は、シャークレット・テクノロジーズ社の創業者であり最高技術責任者、取締役会長でもあります 。

トニーと彼のチームは、すべてのサメのウロコが持つひし形の形状を計測し、それをもとに高さ3ミクロン、幅2ミクロンの四角い棒をつくって、その長さを調節してひし形状に並べました。

1ミクロンは、人間の髪の毛一本の約70分の1です。

そして、それをフィルム板に刻み 、何百万もの四角い棒からなる細かい突起(高さ3ミクロン)と水路(2ミクロンの幅の溝)の凹凸パターンをもつ抗菌プレート「シャークレット」作り出しました。

そのプレートは、横から見ると何列もの溝(水の通り道)が見えますが、上から見ると溝はなく、ただの壁に見えます。

それが、ある重要な要素「非対称性」を提供。

それは、プレート上での水滴の動きにそのまま結びつき、板をどちらの方向にどのような角度で傾けるかによって、水の流れ方が変わります。

実は、このように非対称な線と溝(水路)が正確に並んだものは、細菌が入りにくいだけでなく、細菌が付着後にコロニー化しにくくなる仕組みをもっています。

サメ肌を模した抗菌プレート上では、なぜ細菌が成長しにくくなるのか?

細菌やウィルスの付着や繁殖には、下記のようにいくつかの条件が必要ですが、この抗菌プレートには、その条件を作らせない仕組みがあります。

水滴の中を好む細菌が表面に付着しにくい効果

トニーと彼のチームが作ったフィルム板の上に水滴が落ちると、まず、表面の微細な溝(水路)に水滴が入ることができないため、水は凹凸の上にとどまったまま、水路には流れません。

板を傾けると、水滴は凹凸の上を転がり落ちていくだけです。これが、サメのウロコが水を後方に逃がす仕組みで、抗菌プレート「シャークレット」の大きな秘密でもあります。

つまり、物体の表面に細菌(を含んだ水滴)が付着しにくい構造になっているのです。

互いにくっつくのを好む細菌がバイオフィルムを形成するのを防ぐ効果

細菌は、 バイオフィルム(菌膜)として知られるものを形成し、好んで互いにくっつきあい、菌膜に覆われた集合体の状態となって生存率を上げています。

バイオフィルムとは、いわば細菌の集団のことです。

この細菌の集合体は、付着した部分の表面にくっついて離れません。

彼らは、細菌を繁殖させる母体を自分達自らが作り出せるのです。排水溝のぬめりや歯垢などもバイオフィルムの一例で、細菌はバイオフィルムを生成することで、細胞の増殖を加速させています。

シャークレットの研究開発責任者であるクリストファー・ジョーンズ氏は次のようにいいます。

「バイオフィルムは、のりやセメントのようなもので、細菌を表面に定着させます。そして、他の細菌は、その最初のコロニーに張り付くことができます」

このようにして、細菌はどんどん繁殖していくのです。

シャークレットの上では、細菌で満たされた液体が、たとえ表面から転げ落ちるのに失敗して、いくつかある溝の一つに落ちたとしても、特殊な凹構造に捕らえられて、細菌同士がお互いを見つけてくっつき合うのを防ぐことができます。

仮に、この凹凸の壁が無く、表面が滑らかな平面であった場合、細菌はすぐにお互いを見つけ合うことができますが、凹凸が邪魔になるために細菌は孤立し、バイオフィルムを形成しにくくなります。

接触感染への予防効果

抗菌スプレーや抗菌シートといった一般的な抗菌製品は、通常、すでに形成されたバイオフィルムを殺すために作られています。

それに対して、シャークレットは、バイオフィルムの形成段階から作用して、細菌の繁殖を妨ぐのです。

身体や環境に有害な抗菌剤に頼らずに感染予防ができるという点は、特に医療現場で有効になります。

細菌が医療器具をはじめ、マウスパッド、ドアノブや壁、エレベーターのボタン、手すりなどの表面に付着しにくいだけでなく、院内感染拡大の主な原因の一つであるバイオフィルムの表面から表面への広がりを最小限に抑えるためです。

ジョーンズ氏は、「シャークレットがもつ独特の凹凸形状と配列パターンは、黄色ブドウ球菌や大腸菌を含む複数の種類の細菌や真菌が平面に付着した場合に比べて、接触感染の95%以上の減少する」と示しています。

カンジダ症を引き起こすカンジダ・アルビカンスに関しては、接触感染の99%以上の減少を示しました。

そして、このシャークレットの形状と配列パターンは、ウイルスにも効果を示したのです。

最近の研究では、インフルエンザB型、そして新型コロナウイルスの近縁種であるコロナウイルスの感染にも80~85%の減少効果があることが示されています。

このサメ皮の凹凸形状や配列パターンを応用したフィルムシートなら、どこにでも貼り付けるだけなので、さまざまな場面に活用できそうですね。

現段階では、ヨガマットやおしゃぶり、ボールペン、ショッピングカート、携帯カバーといった特に感染源となりやすいものへも応用できないかと探索中。

抗菌プレート「シャークレット」の技術は、表面の除菌や手洗い、マスクに代わるものではありませんが、感染拡大を予防するためのツールのひとつになるでしょう。

これから、医療分野における共有設備の細菌汚染問題をはじめ、食品産業の生産ラインでも細菌による食品汚染を防ぐ目的で、サメの皮から得た驚くべき防御能力をもつ抗菌シートへの期待が高まりつつあります。

サメの体表面構造から得た技術開発

実のところ、サメの皮は、シャークレットだけではなく、さまざまな形で技術者や科学者を魅了しています。

技術者たちは今、サメの皮をモデルとした技術で、フジツボがつかない塗料や水中ロボットの開発などに応用しています。

水の抵抗を抑えた水着だけでなく、燃費を上げるために船の底の加工に利用したり、飛行機の翼にも空気抵抗を減らすために応用されたりしています。

サメの驚くべき生態や彼らが頂点捕食者になれた興味深い理由については、
サメにはなぜ骨がないのか?サメが頂点捕食者になれた理由とはを参考ください。