重力が変わると脳内での感覚の処理方法も変わってしまう

重力が知覚に与える影響宇宙・航空科学

目では光を、耳では空気の振動を、そして内耳では重力を感じています。

重力というと、私たちは地球から宇宙に飛び出さないようなもの程度で思いがちです。

しかし、科学者たちは、重力が私たちの知覚に重要な役割を担っていることを発見しました。

重力は、脳が運動などを処理する仕組みに深く関係し、周囲の世界を処理する方法と驚くべき方法で相互作用しているようなのです。

今回は、私たちが外の世界を認知・処理する方法に、重力が影響を与えている可能性について紹介します。

耳で重力を感じる仕組み

まず、私たちはどのように重力を感じているのでしょうか。

これは主に、内耳にある三半規管(さんはんきかん)や液体(リンパ液)で満たされた前庭系を通じて行われています。

耳で重力を感じる仕組み

私たちが頭を傾けると、前庭器官内の小さな毛(有毛細胞)が重力の方向に曲がり、揺れ動きます。

脳はこれらの電気信号を総合して、頭蓋骨に対して重力がかかっている方向(身体の傾き)を割り出しているのです。

子供の頃、今はなき公園の「グローブジャングル」で遊んだり、高速で回転する「ぐるぐるバット」をしたりすると誰もが経験するあの感覚。

めまいがしてバランスを崩し、重力に翻弄されているように感じたのではないでしょうか。

しばらくの間、世界が目の前でぐるぐる回転しているようにさえ感じるかもしれません。

それらは、身体のバランスを感知する三半規管と前庭が、身体の傾きや回転を感知して引き起こされたものです。

しかし、重力の感じ方が私たちの知覚を狂わせるのは、それだけではありません。

地球の重力に対する理解が脳内で既に存在し、物の落下を予測する

物体がどこに、どれくらいの強さで引っ張られているかという感覚を持つことは、物体とうまく付き合うことに影響します。

研究により、私たちが物体を目で追う能力には、重力の強さが異なる場合で違いがあることが示されています。

2015年に発表された実験では、典型的な地球重力無重力地球の2倍の重力という異なる3つの重力の条件下で、被験者が映像の中の物体を「目で追う」ときの目の動きが追跡されました。

さらに、一部の実験では、物が落下する映像の途中で一部が隠されました。

そうなると、被験者の脳は、落下物が、隠されたところからいつ再び現れるかを予測しながら追跡し続けなければなりません。

そして、彼らの眼球運動を分析したところ、無重力状態や2倍の重力下で動く物体よりも、地球の重力に従って落下する物体の方が目で追跡しやすいことがわかりました。

この違いは、私たちの脳の中に重力に対する内部理解が既に存在し、それが物事の振る舞いに影響を与えていることを強く示唆していると、この分野の研究者は考えています。

この内部モデルはまた、私たちが目にするものについて既に知っていること(色眼鏡)に影響されないようです。

人間は重力に逆らうよりも引かれる(落下)する物体に対する理解がある

2020年に発表された論文で、研究者たちは、物体がどのくらいの速さで動くかを判断する能力に関して、物が重力に向かって動くときの方が、重力から遠ざかるときよりもうまく予想できることを示しました。

研究チームは、被験者に仮想の惑星の地表を見てもらって調査を行いました。

人間は重力に逆らうよりも引かれる(落下)する物体に対する理解がある

その惑星には、ラグビーボールとロケットの2つの物体が同じ大きさで表示されています。

参加者は、上下の2地点間を往復移動するこれらの物体を観察し、その後の物体の移動スピードを予測するように求められました。

当初、研究者らは、ロケットは上昇し、ボールは下降する方が参加者にとって予想しやすいと考えていました。

しかし結果は、どちらの物体も下向きに動いているときの方が、うまく速度を予測し、判断できることがわかりました。

このことから、研究チームは、私たちがすでに知っている物体に関する情報(例えば、ロケットは一般的に上に進むという事実)とは別に、重力の感覚が移動スピードの予測能力に働いていると結論づけました。

しかし、これらの実験ではまだいくつかの制約があるため、さらなる研究が必要であることは間違いありません。

幸いなことに、そのための研究分野があるのです。

重力は生物の動きを予測する能力に影響を与えている

これらの実験は、無生物の落下スピードを予測するものでした。

さらに研究では、重力の感覚は、無生物にとどまらず人の体の動きなどを処理・予測する能力にも影響を与えることが示唆されています。

実際に、European Journal of Neuroscience誌に掲載された研究で、物の動きだけではなく、身体の動きも重力感覚の対象となることが発見されています。

この研究チームは、参加者に一連の点光源運動(基本的に、研究者が身体の動きをシミュレートするためによく使う、身体の動きを光る点の集まりで表現したもの)を見せ、点滅が何を表すものかを予想してもらいました。

点光源運動

その中には、特に動きのパターンがないランダムなものもあれば、人間の動きに似せて配置されたものもありました。

参加者は、直立してリラックスした姿勢と、(台に乗せられて)斜めに傾けた姿勢の両方で、これらの映像を見て、見ている点光の動きが意味のないランダムな物か、人が動いているように見えるかを選ぶように指示されました。

重力は生物の動きを予測する能力に影響を与えている

結局のところ、ほとんどの人にとって、点滅運動が人の動きかどうかを判断するのは、難しい作業ではありませんでした。

しかし、重要なのは、身体を台で傾けて映像を見た場合、光の動きのパターンが生物学的な動きを示すか否かへの判断スピードが著しく低下したことです。

これは、生物の動きを知覚する能力が、単に動きのビジュアルに依存するだけでなく、ある瞬間に重力を感じる位置とどれだけ一致しているかを示しているのではないかと、研究者たちは考えています。

重力は私たちの感覚にも影響を与えている

これらの研究は、私たちの感覚がどのように働いているのかをよりよく理解する手助けとなります。

私たちの認知の可動部分をすべて把握することは、私たちが一般的にどのように認知しているか知るだけでなく、物事が少しうまくいかないときに治療法を考え出すのに役立ちます。

さらに科学者は、このことが宇宙へ旅する人間にとってどのような意味を持つのだろうかと考えています。

異なる重力条件のもとでは、宇宙飛行士は私たちが予想もしなかった方法で物事を知覚している可能性があるのです。

その結果、宇宙では複雑な作業を行うのが難しくなる可能性があり、科学者たちは、彼らの仕事をできるだけ簡単にするために、作業効率を軽減する方法を検討する必要があるかもしれません。

この分野の研究は、まだ始まったばかりです。

しかし、将来的には、重力が私たちの周りの世界への理解にどのような影響を与えるかを知ることで、宇宙探査をする人たちの作業を楽にする手助けができるかもしれません。

そして、それはもしかしたら、地球の重力下にいる私たちにも役立つかもしれないのです。

参照元:https://youtu.be/1w75PyWEauI