動物のヒゲが、生きていくためにどのように役立っているのかについてその驚くべき感覚の仕組みを紹介します。
たとえばネコのヒゲは、ただの長い毛のように見えますが、毛皮よりも太くて硬い特殊な構造に巧妙にデザインされています。
多くの肉食動物、特に水棲動物や夜行性動物のヒゲが長いのにも理由があります。
以下に、知れば知るほどおもしろい動物のひげについてみていきましょう。
動物のヒゲは感覚器のようなもの
ネコもネズミも、ビーバーもアザラシも、ほとんどのほ乳類には、口の周りや目の上、時には前足の指の間などにヒゲが生えています。
毛と同じように、ヒゲ自体は何も感じませんが、触れると振動して毛根の神経を刺激します。
1本のヒゲには、ネズミやネコで100から200、アザラシでは1500近くの神経細胞があるといわれています。
どうやらヒゲは、触覚のような感覚器として機能しているようです。
ところで感覚って何?
感覚とは、外から感じ取った刺激を脳に届けたときに感じる意識のことです。
音は聴覚で、光は視覚、においは嗅覚、味覚、そしてもちろん、触覚もあります。
人や動物が周囲の状況を知るには、「感じる」ことが大切です。
目、耳、指、舌、鼻といった体の部位が、さまざまなものを感じさせてくれるのです。哺乳類にとって、ヒゲは主に視覚と環境感知に役立っています。
たとえば、動物が高い背丈の草むらを通るとき、ヒゲは、草で目を突かれるのを防いでいます。
動物はヒゲを使って自分の道をみつける
ネコを思い浮かべてみてください。
ネコは、顔のヒゲを使って、周囲の状況を感じ取っています。
例えば、顔の周りにどれくらいのスペースがあるかを知り、狭いところを通れるかどうかを判断しているのです。
ヒゲは暗いところで視覚に役立つ
猫には前足にもヒゲがあります。
これは顔のヒゲと同じような働きをしていて、特に暗いところでは、近くにものがあることを察知するのに役立っているのです。
私たちは、暗闇の中では、手さぐりで周囲を感じ、「見る」ことができます。
多くの動物にとって、ヒゲはそのときの手のようなものです。
ヒゲは、とても敏感で、暗いところにいる動物たちは、ヒゲに当たる何かや、ヒゲから感じる気流の変化から壁や障害物が近くにあることを察知できるといわれています。
体重わずか2gの最も軽いネズミ「コビトジャコウネズミ」においては、ヒゲに触れただけでエサとそうでないものを区別することができ、この能力はロボット工学にも応用されています。
アザラシのヒゲを見てみましょう。
アザラシは暗い水の中で過ごすことが多いことから、目が見えにくいといわれています。
そのため体の他の部位「ヒゲ」を使って、海の中を移動したり、エサを見つけたりするのです。
ヒゲはエサの捕獲に役立つ
アザラシのヒゲはとても敏感。エサを探したり、追いかけたりするためにヒゲを前に出します。
魚が泳ぐと、周りの水が渦を巻きますね。
そのとき、もしアザラシが近くにいたら、その魚の渦はヒゲに届き、ヒゲをゆらすのです。
このヒゲのゆれからアザラシは、魚が泳いだ方向をはじめ、魚との距離や魚の大きさ、ときには質感までたくさんの情報が分かります。
それらの情報は、アザラシが夕食の魚を捕らえるのに必要なものです。
その魚がただのおやつな程度のものか、それともお腹いっぱいになるような大ごちそうなのか、そして、魚を捕まえるために、どれくらいの距離を泳がなければならないのかも分かるのです。
アザラシのヒゲのすごいところはまだあります。
寒さに強いのです。
ヒゲは寒さに強い
私たちは、冬に寒さで指先がかじかんで触覚が働かないことがあります。寒いと指先が冷えて、うまく物を感じられないのです
そのため、手袋のような暖かいものを身につけます。
実のところ、科学者たちは、アザラシのひげも寒さには弱いと考えていました。
そうなると、冷たい水の中を泳ぐアザラシは、魚を見つけるのがとても難しいはずです。
しかし、科学者たちは、それは間違いであることを発見しました。
アザラシのヒゲは、寒いところでも暖かいところと同じように働くのです。
アザラシにとってこれはとても重要なことです。
なぜなら、アザラシは泳いでいる水の温度が何度であってもエサを見つけたり、近くに脅威があるかを判断したりするために多くの情報を取り込めるからです。
多くの肉食動物、特に水棲動物や夜行性動物のヒゲは長い傾向があります。
動物のヒゲを切ってはいけない
ネコを含め、ほとんどの動物は人間ほど目がよくありません。
そのため、ヒゲを切られた動物は、不快に感じるだけでなく、環境の中で方向感覚を保ちにくくなります。ヒゲが再び生えそろうまで、目隠しをしているようなものなのです。
犬のように鼻の長い動物は、鼻が邪魔して前のものを見るのに苦労することがあるため、ヒゲで鼻先の情報を感知しています。
マナティーは、ヒゲの振動で他の動物の動き、潮の流れ、海底の輪郭の変化などを感知しています。
ヒゲの役割は他にもあります。
ネコがヒゲをピンと張って「近づくな」と警告するように、ヒゲは動物の心理状態を示すのに重要で、社会的行動における一つの役割を担っています。
このように、動物の脳は、ヒゲから多くの情報を得ているのです。
ヒゲはどうやって進化したのか?
ヒゲは、体毛が変化して特殊な触覚器官を形成したもので、専門的には「洞毛(どうもう)」と呼ばれます。
それでは、なぜこのようなヒゲが生まれたのでしょうか?
初期のほ乳類は、捕食者の恐竜が活動しない夜間に活動していたため、ヒゲが感覚的な優位性を与え、暗闇での移動や狩りに役立ったと考えられています。
そして、これはほ乳類にとって、体温を一定に保つ「温血動物」であり、赤ちゃんを出産する「胎生動物」であることと同じくらい重要なステップだったともいえます。
現在、ヒゲは、単孔類(カモシカやハリモグラ)や私たち人間を除くほとんどすべてのほ乳類の一生のうちある時期に見られます。
実のところ、私たちの上唇にもかつてヒゲに関連していた筋肉の名残が残っているようです。
さて、動物は他にどんな方法で 物事を感じると思いますか?
動物が環境を知るために持っている特別な体の部位を他にも知っていますか?
もし、あなたにヒゲがあったらどんな感じだと思いますか?
考えたり、想像したりするだけで、とてもおもしろい発見がありそうですね。