「アーティチョーク」と呼ばれる野菜を食べた後、水を一口飲んでみてください。きっと水が甘く感じられることに驚くでしょう。
科学者はこの奇妙な現象を「甘い水現象」と呼びます。
不思議なことに、甘味料を一切加えていないにも関わらず、舌から風味が消えた後に、甘さが残されるのです。
エール大学の心理学者リンダ・バルトシュク博士は、この甘い水効果が「飲料を甘くする新しい方法」の発見につながることに期待を示しています。
砂糖や甘味料を飲み物に加えるのではなく、口の中にある味蕾(味を感じる感覚器)を一時的に変化させて飲み物の味を甘くするというのです。
以下に、アーティチョークによる不思議な甘い水現象について1972年のScience誌に掲載された論文をもとに紹介します。
甘い水効果とは
科学者らに「甘い水現象」と呼ばれる不思議な現象を起こす「アーティチョーク」とは、一体どんな野菜なのでしょう?
実は、アーティチョークには、実際に砂糖を食べなくても、舌に甘さの知覚を生み出すといわれる特定の化合物が含まれています。
「クロロゲン酸」と「シナリン」です。
実験でも、この2つの化学物質を舌に接触させた後に水を飲むと、水が甘く感じられたことが示されています。
しかも、それは約180mlの水に小さじ2杯の砂糖を加えるのと同等で、甘い水効果は4、5分ほど続くことが分かったのです。
アーティチョークが舌をだます仕組み
このアーティチョーク効果がはじめて科学的に言及されたのは1935年。遺伝学者であり味覚の専門家でもあったアルバート・F・ブレイクスリー博士による科学報告書でした。
博士は、250人に前菜としてアーティチョークを出したところ、食後、60%の人が「水が甘くなった」と述べたことを発表。
その後、科学者らは何十年もの間、この甘い水効果について研究してきました。
Science誌の1972年の論文でバルトシュク博士は、アーティチョークに含まれる「クロロゲン酸」と特に「シナリン」という化合物が、味蕾の受容体を一時的に阻害し、甘味を感じさせることを発見。
水を飲むことでこの化合物が舌から洗い流されると、味蕾がこのコントラストを感知して、より甘い食材を味わっていると脳が錯覚してしまうようです。
それは、四角内に縞模様を描いた場合、横縞は縦長に、縦縞は横長に見える錯視(さくし)と非常によく似た現象です。
錯視は、視覚に対してですが、舌からも同様に脳をだませるなんて、クールなトリックですね。
甘い水効果を生む化学物質
その他にも、後味に有効な化学物質があります。
ある研究グループは、人工甘味料として知られるサッカリンが、高濃度では苦味を感じ始めることを発見しました。しかし、被験者が口をすすぐと、再び甘い後味を経験するといいます。
科学者らは、なぜこのような奇妙な現象が起こるのかまだ完全にはわかっていませんが、ある研究チームは、アーティチョークの化合物と同様に、過剰な量のサッカリンは、舌にある甘味受容体を阻害するからだと考えています。
「ミラクルフルーツ」という植物の赤い果実に関しては、ミラクリンというタンパク質による酸っぱいものを甘く感じさせる効果が1時間以上も続くといわれています。
アーティチョークによる食体験
このような研究以来、シェフたちは、アーティチョークの特徴を活かしたり、味の相性を考えたりしたメニューを意識することも増えています。
美食家の間では、アーティチョークが生み出す甘さが高級ワインの風味を損なうことに賛否両論が起きているようです。
次にもし甘いものが食べたくなったら、蒸したアーティチョークを噛んだ後に水を飲んでみてください。
野菜を食べているにも関わらず、脳が甘いものを食べたと錯覚するという不思議な感覚を体験できるかもしれません。
参照元:7 Ways to Spruce Up Your Cooking with Science