5万トンもの鉄の塊、タイタニック号は今、ある生物によって食べられ、二度目の死を迎えようとしています。
その生物とは、地殻活動が盛んな海底で鉄分を食べて生きている細菌たち。
専門家は、海の底であまりにも急速に姿を消しつつあるため、おそらく2050年までにはタイタニック号の姿は見られなくなるといいます。
一方で、2400年前に黒海で沈没したギリシャの商船は未だにとてもよい保存状態で海底にあります。
では、一体何が、この2つの船の運命を分けるているのでしょうか?
どうやら、船が沈んだ海域の酸素量や温度によって、そこに生育する「分解者」が異なることが大きな要因となっているようです。以下に見ていきましょう。
沈没船の保存状態を決める要素
沈没船が海底でどれくらい長持ちするかを決める要因はたくさんありますが、主なものは以下の2つ。
・沈没した海底にどれだけの酸素があるか
船が何でできているか
航海の歴史において、大半の船は水上・水中ともにそのほとんどが木造船でした。
しかし、1840年代の産業革命の時代になると、人々は金属(主に鉄と鋼鉄)で船を作るようになり、タイタニック号やルシタニア号、そして現代の豪華客船のような大きくて強い鉄船が誕生します。
このような大型の鉄船は、みなさんご存知のように、水中でも木造船より長持ちします。
酸素量
基本的に、暖かく、酸素が豊富な浅い海域には、有機物を食べようとする動物や微生物「分解者」が多くいます。
そして、このような海域に沈んだ木造船は、分解者にとっては大ごちそうとなるのです。
たとえば、木造船に穴を開ける驚異的な能力から「フナクイムシ(船喰虫)」と名がついた分解生物は、わずか2年で木造難破船を完全に分解することができます。
しかし、浅瀬に沈んだ鉄船においては、状況が異なります。
浅瀬には、鉄や鋼鉄を分解できる生物はみられないからです。
たしかに金属でできた船も、いずれはさびますが、この条件下では木造船の何十倍も長持ちします。
浅瀬と深海ではルールが逆転
冷たい深海に沈没した木造船は、よい状態のまま長く保存されやすくなります。
深海には酸素が少ないため、木材を分解する生物も含め、生存できる生物自体が限られているからです。
特に黒海は、酸素が乏しい海域で、古代ギリシャの時代までさかのぼって、少なくとも60隻の古代難破船がすばらしい保存状態で残されています。
なかには、考古学者がその板に刻まれた文字を読み取ることができるほど良好な状態のものもあるほど。
しかし、同じように冷たく深い海に沈んだとしても、鉄の船の場合は、それほど幸運ではありません。
深海には鉄を食べる細菌がいる
というのも、タイタニック号が存在する約3800mの深海のように酸素の乏しい海では、木質をターゲットにした分解生物は生き残れませんが、他の奇妙な分解生物が生存しているからです。
なんと、これらの微生物は、酸素の代わりに、鉄を使って体を動かしています。
たとえば、タイタニック号の船体から発見されたハロモナス・ティタニカエと呼ばれる細菌は、鉄を酸化させて食べ、エネルギー源としています。
彼らは通常、海底の地質噴出孔から鉄分を得ていますが、タイタニック号のような鉄の船が深海に到達すると、喜んで鉄を食べるのです。
科学者たちは、2050年までには、これらの鉄の分解者たちが、タイタニック号をほとんど全て食べ尽くしてしまうだろうと見積もっています。