土星には「環」だけで「衛星(月)」がない理由

宇宙・航空科学

土星は美しい環で知られています。

しかし、なぜそこに環があるのでしょうか?なぜ環は集まって月にならないのでしょうか?

私たちは、重力が物体を太陽や惑星、月のような球形に変形させる傾向があることを知っています。

では、なぜリングの粒子は重力によって集まって月のような球体にならないのでしょうか?

それは潮汐(ちょうせき)のためです。

以下に、土星に環ではなく、衛星がない理由について、環と衛星が生まれる境目「ロシュ限界」をもとに分かりやすく紹介します。

天体同士の重力の影響

潮汐力②

月の重力は地球を引っ張りますが、月に近い方の地球の片側を引っ張る力は強く、反対側は弱くなります。

つまり、月に近い場所ほど大きな力で引っ張られます。

では、月のある側だけでなく、その反対側も盛り上がっているのはなぜでしょうか?

天体同士が共通の重心を公転することによる「天体の慣性力」の影響

実は、月が地球の中心を回っているわけではなく、地球も月も、互いに、共通重心(天体の質量が均衡する点)を中心に回っています。

このとき、親(地球)が子(月)の手を持って空中をぐるぐる回すときに親にも円運動の反動で遠心力が働くように、月に面していない地球の反対側には中心から外側に向かう(月とは反対の方向に働く)慣性力が働きます

このように、天体同士の重力と天体の慣性力の結果、潮汐力が発生するのです。

潮汐力の影響

潮汐力は、天体の形状や表面の海を変化させます

潮汐力の影響

地球の片側を圧縮し、もう片側を膨張させるのです。

詳しくは、軌道面と垂直な方向に圧縮され(干潮)、軌道面と水平な方向は膨張(満潮)します。

そして、地球は1日に1回転します(自転)。

月も動いていますが、それほど速くはありません。

この地球の自転に伴って、私たちは満潮、干潮、満潮、干潮とそれぞれを毎日2回ずつ経験することになります。

満潮と干潮

しかし、こうした潮汐力は地球上だけで起こるものではありません。

潮汐力は、どのような惑星とその衛星の間でも起こるもので、その力は惑星に作用するだけでなく、衛星にも影響を及ぼし、とても強力なものになります。

潮汐力の影響丸5

潮汐力は月を引き伸ばし、外に向けて引き剥がそうとしますが、それぞれの月には独自の重力があり、その重力によって月は引き剥がされません。

潮汐力の影響④

潮汐力の影響③

ただし、月を惑星に近づけると、潮汐力はますます強くなり、ある時点で潮汐力ははるかに強くなり過ぎて、月を支えている重力に打ち勝ち、潮汐力のために月は引き裂かれ、破壊されてしまいます。

ロッシュ限界

天体が潮汐力によって破壊される「ロッシュ限界」

天体が破壊されずに他の天体に接近できる限界の距離を「ロッシュ限界」と呼びます。

発見者のエドゥアール・ロシュにちなんで名付けられました。

その結果、惑星のロッシュ限界の内側には衛星(月)は存在できないため、土星の環のように粉々に破壊された粒子が回っている状態になります。

ロッシュ限界⑥

つまり、ロッシュ限界の内側ではリングができ、ロッシュ限界の外側では月(衛星)ができるのです。

ロッシュ限界7

土星の環はロッシュ限界の内側にあり、それが衛星(月)がない理由で、潮汐力の関係で月ができないのです。

そして私たちは、この現象を見てきました。1994年、シューメーカー・レヴィ第9彗星は木星に近づきすぎ、潮汐力によって引き裂かれました。

シューメーカー・レヴィ第9彗星

彗星の破片は木星に衝突し、いくつかの茶色い斑点を作りました。

シューメーカー・レヴィ第9彗星の跡

潮汐の影響は他にもあります。

木星の衛星のひとつイオは、木星に近いために、その潮汐力によって常に引き伸ばされたり圧縮されたりして発熱しており、その表面は火山で覆われています。

月が地球に近づき過ぎたらどうなるのか?

ちょっとした実験をしてみましょう。

私たちの月はロッシュ限界のはるか外側にあります。

しかし、月をもっともっと近づけるとどうなるでしょうか。こんな感じになるだろう。

月は潮汐力によって引き裂かれます。

月

月は潮汐力によって引き離され、小さな破片になり、それが地球の周りを回ってリング状になるでしょう。

悲しいことに、これは月を破壊してしまいますが、代わりに、私たちは美しい環を手に入れることができることになります。

惑星の環と衛星はどう違うのかについては、以下の動画で見ることが出来ます。

Rings vs Moons: The Roche Limit
error:Content is protected !!