昆虫は、私たちや海のほ乳類のように水中で息を止めることはできないし、魚のようにエラがあるわけでもありません。
しかし、成虫の一生を水中で過ごすダイビングの達人もいます。
では、昆虫はどうやって水中で呼吸をしているのでしょうか?
その答えは、体の小ささにあります。
昆虫は、「表面張力」と呼ばれる水の性質を利用して、水中で空気を運ぶ方法を発見したのです。
以下に空気呼吸をする水生昆虫がどうやって水中で呼吸をしているのかについて見ていきましょう。
昆虫が水中での呼吸で利用する表面張力
海洋哺乳類は、肺が大きく、1度の呼吸でたくさんの空気を取り込んで、長く息を止めることができます。
ほ乳類最長の潜水記録をもつアカボウクジラにおいては、222分(3時間42分間)もの長い時間潜ることが確認されています。
彼らは、血液や筋肉の中により酸素を蓄えるヘモグロビンやミオグロビンを多くもっているからだと考えられていますが、はるかに小さな昆虫は、私たちとは違う水の感じ方を利用して水中で呼吸をします。
彼らは、水をまるで粘性のある物体のようにとらえています。
彼らの小さな体は、水の性質、いわゆる「表面張力」と呼ばれる大きな動物はほとんど気づかないほど微妙な力にかかっているのです。
水の場合、表面張力は特に強く、互いに引き寄せられられた分子が粘性をもつようなふるまいをみせたり、空気と接するところに一種の膜を形成したりするほどです。
実際、水より密度の高いペーパークリップが沈まずに浮いてしまうのもそのためです。
私たちの周りでいうと、表面張力のおかげで雨粒ができ、木々が葉に水を運び、氷が液体に浮かびます。
水生昆虫の呼吸方法
そして、ペーパークリップほどの大きさの昆虫にとって、この表面張力はとても大きな力となります。
水生昆虫の多くは、水の表面に膜のようなものができる「表面張力」を利用して、羽の隙間で空気をとらえて、エサを探す間、水面下に持ち運びます。
ゲンゴロウ類 (Predaceous diving beetles)のお尻を見てください。空気の玉がくっついているのが分かりますか?
そこに「気門」と呼ばれる呼吸の孔があります。
気泡の中の酸素を使い切ると、玉を放し、そしてまた新しいものを求めて水面に戻るのです。
昆虫のなかには、一生、空気を持ち続けるものもいます。
たとえば、ドロムシ(long toed water beetle)は、陸上で生まれ、成虫になると水中に入り、二度と陸へは戻りません。
外骨格の殻(クチクラ)の一部が細かな毛で覆われており、水の表面張力を利用してプラストロンと呼ばれる空気の層を閉じ込めているからです。
マツモムシも同様に身体に水をはじく毛があり、空気の膜で包むプラスとロン呼吸をしています。
この空気の膜は、気泡内の分圧差によって、自然と二酸化炭素は水中に溶けだし、酸素が水から気泡に溶け込むようになっているので、気泡がなくならない限り永続的に水中で呼吸ができます。
その空気のコーティングが表面に金色のきらめきを与え、まるで宇宙服を着ているかのようです。
このタイコウチ科の昆虫は、尻尾がシュノーケルのようになっており、そこから空気を吸います。
水カマキリやタガメなどもお尻にある長い管で呼吸をしながら長時間潜水することができます。
これらの昆虫はすべて、水中で空気を運ぶ方法を発見しました。
しかし、表面張力は壊れやすくもあります。温度変化や乱流、石鹸のような物質の混入が表面張力を乱し、その魔法のような性質を破壊してしまうのです。
表面張力が低下すると、昆虫の群れ全体が一瞬にして溺れてしまいます。
ある意味、私たちも昆虫も、水の微細な性質に支配された薄い境界線の上に生きているのです。
昆虫がどうやって水中で呼吸をしているのかについては、以下の動画で見ることができます。