SF作家のアーサー・C・クラーク氏の言葉に
「最先端の科学技術は、魔法と見分けがつかない」
とありますが、「消しゴム」もそのひとつだといえるでしょう。
彼のいう魔法の技術とは、決してコンピューターに限定したものではなく、紙に書かれた間違いを元に戻し、変えることができる小さな物質「消しゴム」は、まるで魔法そのものです。
それでは、消しゴムは、どうやって鉛筆の字を消しているのでしょうか?
ここでは、消しゴムが魔法のように字を消せる理由をはじめ、消しゴムの作り方や仕組み、歴史などを分かりやすく紹介します。
消しゴムが字を消せるのはなぜ?
消しゴムには、ゴムとプラスチックからできたものの2種類があります。
昔から使われてきたゴム製の消しゴム(ラバー消しゴム)は、紙に付着した鉛筆の粉(黒鉛)をこすり取るタイプのものでしたが、現代では、そのほとんどがプラスチック製の消しゴムに取って代わりました。
私たちがよく使うプラスチックの原料(ポリ塩化ビニール)で作られている消しゴムは、紙についた鉛筆の粉を吸い付けて取り除くことによって字を消す仕組みです。
鉛筆を使って紙の表面に黒鉛をつけると、それが紙を構成する繊維粒子と混ざり合って字や線となります。鉛筆の線は、ただ紙の上に黒い粒が付着しているだけともいえる状態です。
そして、紙の粒子よりも粘着性が高いといわるプラスチック製の消しゴムでこすられることで、黒鉛の粒子は、まるで粘着性の磁石に吸い寄せられるようにくっついてしまうのです。
その後、鉛筆の黒い粉で汚れた消しゴムの表面は、消しかすとなって、ぼろぼろと剥がれ落ちていきます。
これは、消しゴムに含まれている炭酸カルシウムの作用(鉛筆の粉を包みこんで離れていく作用)によるものです。
ゴム製とプラスチック製の消しゴムの違い
プラスチック製の消しゴムには、可塑剤(かそざい)と呼ばれる物質が混ぜられています。
可塑剤とは、プラスチックの原料をやわらかくして加工しやすくする性質があるため、そのおかげで、においや色付け、成形がしやすくなり、さまざまなタイプの消しゴムに対応できるようになりました。
また、消しゴムに含まれている炭酸カルシウムの配分を調節することで、消しかすも取り除きやすくしています。
その結果、柔軟で安定性のあるプラスチック消しゴムは、消しかすも少なく、紙の摩耗を最小限に抑えて、よりきれいに消す力に優れたものとなりました。
今でも、作る過程での材料配分や温度を調節しながら、より消しやすい消しゴムの開発はすすめられています。高温多湿などの状況下で、硬さが維持できずに変形したり、変色したりするのを防ぐために、安定剤も加えられるようになりました。
一方で、少量混ぜられた研磨剤の作用で、多少は紙の表面も削られますが、プラスチック製の消しゴムでは、ボールペンのように紙に染み込んでしまったインクまでは消すことはできません。
ボールペンのようなインクを消すためには、砂消しゴムのようなゴム製の消しゴムが使われます。
また、ゴム製の消しゴムは、丈夫で減りにくい性質から、鉛筆やシャーペンの上に取り付けられることもよくあります。
消しゴムはどうやって生まれたの?歴史について
消しゴムが発明されるまで、鉛筆を消すために使われていたのは、湿ったパンの塊でした。
ゴムが使われるようになったのは、1736年に、南アメリカの先住民たちが木の樹脂を使ってよく跳ねるゴムボールを作る様子を観察していたフランス人の探検家が、この樹脂を祖国に持ち帰ったのがきっかけでした。
ほどなく、イギリスの自然哲学者であり科学者でもあるジョセフ・プリーストリーによって、「天然ゴムは、鉛筆の粒をこすり消すのに優れた物質である」ことが発見されました。ちなみに、彼は、酸素の発見者でもあります。
そして、これは、天然ゴムでこすり消す「rub out」という動作から、現在の消しゴムを意味する「rubber」と呼ばれるようになりました。
ただ、樹脂にはひとつ問題があります。腐ってしまうことです。
この消しゴムの腐敗をアメリカの発明家チャールズ・グッドイヤー氏が解決するまでに、人類は1世紀を費やしました。
その後も、消しゴムの開発は進められ、今や丈夫だけど硬い天然ゴムよりも柔らかくて消しやすいプラスチック製の消しゴムが主流となりました。
昔ながらのゴム製の消しゴム(ラバー消しゴム)の作り方
合成ゴムから作られているラバー消しゴムは、たくさんの材料が使われています。
それらを注意深く計量した後、硬化剤や着色剤などの添加物と混ぜて作られています。研磨性を増すために、軽石(火山灰)が入れられることもよくあるようです。
作り方
- 合成ゴムを機械でよく混ぜて平らにする
- まず始めに、ちょうど動画の1分35秒に登場するシーンのように、合成ゴムの塊を機械に入れます。ここでは、製造ラインからはじかれた欠陥品の消しゴムも放り込まれ、それらと一緒に熱せられたローラーによって、繰り返し何度も混ぜて平らに引き延ばされていきます。
- 硬化剤として硫黄と植物油を入れる
- それから、硬化剤として硫黄、そして、着色剤も加えた後、安定した重たい生地になるまで約8分から10分間かけて機械で混ぜ合わせていきます。
- 硫黄とともに、ゴムの硬化を助ける植物油を入れた後、炭酸カルシウムも加えます。
- ローラーで広げて冷ます
- 生地の色や厚みが整えられたら機械から下ろして、さらにローラーで薄く広げた後、半日かけて室温で冷まします。
- プレス機で押し固める
- 163度に温めたプレス機で、20分間押し固めた後、冷水に浸します。
- 裁断して仕上げをする
- 裁断機で切られた消しゴムは、大きな樽に入れられてます。このとき、消しゴム同士がひっつかないように、タルクと呼ばれる鉱物の粉も振りかけます。
- 樽を3時間から5時間回転させると、消しゴム同士が当たり、角がすり減って丸みを帯びます。
- 印刷や包装が施されると完成です。