夜空を見上げるとき、私たちは過去を見ています。
それでは、宇宙にあるものは何でも、昔のままの姿で見えているのはなぜでしょうか?
それは、光が空間を移動する方法に関係があります。
それなら逆に、恐竜が絶滅した時期の地球を宇宙から観測できるチャンスが訪れるかもしれません。
ここでは、宇宙の誕生について、さらには、宇宙が現在も膨張し続けていることなどがどのようにして分かってきたのかを、驚くほど進化した宇宙科学の技術をもとに紹介します。
宇宙の光は、過去の星の姿
宇宙は、138億年前に誕生したと考えられています。
実際に、天文学者や宇宙学者がこれを研究しているわけですが、宇宙の誕生を知るうえで覚えておくべき最も重要なポイントがあります。
それは、光は一定の速度(秒速約30万km)で移動しているということです。
つまり光はどこに行くにも時間がかかるのです。
たとえば、北斗七星を見上げると、星は地球から79光年から125光年の距離にあります。
つまり、夜空であなたが見ているものは、実際に79年以上前に、その星から放たれた光なのです。
夜空に浮かぶ月は、1.3秒前の月の姿。地球から約1億4960万km離れた太陽においては、8分前の光が届いています。
これは惑星も同じで、逆に宇宙から地球を見た場合、私たちは過去の地球の姿を見ることができます。
約6500万光年先の銀河、たとえば、おとめ座にある渦巻銀河「NGC 4845」から高性能の望遠鏡で地球を見たなら、約6500万前、つまり恐竜が絶滅した時の地球を見れるはず。
光の速さから、物との距離が分かる
実は、光の速さについての考えは新しいものではありません。
なんと14世紀には、すでにインドで、太陽の光の速さの研究が行われていた証拠があります。
彼らは、光を風のようなものと考えました。
驚いたことに、古代の計算式は、具体的な証明にはいきつかなかったものの、現代の単位に換算すると、実際の光の速さに近い値を示していたのです。
今日では光の速度をナノ秒(10億分の1)という微小単位まで計算でき、毎秒299,792,458mという速さで表されています。
光の速度は、宇宙よりもはるかに小さな距離間で、地球でも使われています。
たとえば、1メートル離れた物を見た場合、あなたはそれをリアルタイムでそのまま見ているわけではありません。
30億分の1秒前の姿を見ているのです。
「30億分の1秒を識別するなんてできない」という声が聞こえてきそうですね。
たしかに、これはあまりにも小さいと思われるかもしれませんが、宇宙となると話は別です。
同じように見えている星の光でも実際には距離が違う
宇宙では、星と星の間の距離が非常に大きいので、光の速さによる観測時間に大きなギャップが生まれます。
たとえば、北斗七星のひしゃく形をつくっている星でいうと、6番目の星「ミザール」は78年前に放たれた光なのに、ドゥーベと呼ばれる星は124年前の光だといわれています。私たちの目に映る星の光には、年代的なギャップが生じているのです。
これは、星の観測をしている天文学者にとって何を意味しているのでしょうか?
宇宙は膨張しているので、話は少し複雑になります。
宇宙を一個の風船で考えた場合、風船(時空)が膨らむと、風船に描いた絵も伸びていき、大きくなるほど絵と絵の間が速く広がっていきますよね。
宇宙は、そのようにして膨らんでいるのです。
これは「ドップラー効果」として知られています。
光の色から宇宙が膨張していることが分かった
身近なところでは、救急車(ソとシの音)が通るとき、近づくにつれてサイレンの音階が半音高くなり(ソのシャープとドの音)、遠ざかるにつれて低い音になるのと同じ理由です。
観測をしている人と、音源が近づいたり、遠くなったりすることで、音の高さが変わります。
詳しくは、救急車(音源)が進む方向では、(音の波に救急車が近づくことで波が圧縮されて、音波の間隔が狭まって)波長が縮み、進む音源の後ろ側では波長が伸びます。
ドップラー効果を光でいうと、星(光源)が近づくと、(光の波が圧縮されて)光のスペクトルが青い方へずれて青っぽい光になり、遠くなるにつれて光の波は(波長が伸びて)赤っぽい光になるのです。
これが赤方偏移と呼ばれるもので、はるか遠い宇宙を観測しているときに、この赤方偏移が見られたので、宇宙が膨張していることが分かりました。
さて、そのまま光の波が伸び続けた場合、ある時点でもはや肉眼で見ること(可視光)ができなくなり、赤外線の域に入り込みます。
宇宙のように、はるか遠くにある何かを見たい場合、色相の変化はごくわずかで肉眼では確認できないので、この赤方偏移をもとに考える必要があるのです。
宇宙の膨張によって生じた赤方偏移を測定
1990年に、地上約600km上空の軌道上にハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げられ、赤外線など肉眼では見えない領域の光が観測されました。
そして2016年、この望遠鏡は、320億光年離れた銀河を観測したのです。
この銀河は、現在知られている中で、最も古く最も遠い銀河として知られ、「GN-z11」と名づけられました。
そして、GN-z11から届いた光を分析すると、遥か彼方の宇宙で、光の波が最初に放たれた時から伸び続けている(光のスペクトルが赤にずれている)ことが分かったのです。
上の写真で、私たちは本当に134億年前(光行距離であり、実際の距離とは異なる)の銀河を見ているなんてすごいと思いませんか。
しかも、研究が進むにつれて、宇宙は同じ速さで膨らむのではなく、膨張スピードが加速してきていることも分かってきました。
宇宙の誕生についての観測
この銀河「GNZ-11」は、宇宙の誕生についての観測に最も近いものです。
見えるのは、ちょうど北斗七星のある大熊座のあたりですが、あなたが赤外線スーパービジョンをもっていない限り、思いっきり目を細めてもそれを見ることはできません。
そもそも地球の大気が、いくらかの赤外線をブロックしているので、地球の外側に行かなければ観測は難しいでしょう。
一方で、宇宙のはるか遠くを見るための望遠鏡は、今進化しつづけています。
もしかしたら、将来の望遠鏡で、宇宙の始まりを本当に見れるチャンスが訪れるかもしれないとさえいわれています。
宇宙は時間も空間も何もないところから始まった
私たちが知っている宇宙の始まりといえば、星や銀河のことを考えてしましますが、実際にはそれは宇宙誕生の少し後のことです。
私たちの宇宙が生まれたときには、空間はありませんでした。時間もありませんでした。真空もありませんでした。文字通り何もありませんでした。
そこに宇宙が誕生したのです。
宇宙論者(のインフレ理論)によると、宇宙が誕生して数千分の数秒の間に、宇宙は約1078倍に膨張し、かつては隣同士領域が想像を絶する距離で急速に分断され、時空の構造の中の小さな量子のゆらぎを吹き飛ばしたのです。
空間が拡大したことで、宇宙誕生からわずか数秒後には、クォークが集まって陽子や中性子を作ることができるところまで冷やされていきます。
宇宙は膨張し続けている
ビッグバンの時代に近いはるか遠くの銀河を研究している天体物理学者のテイラー・ハチソンさんは、次のようにいいます。
銀河の距離は非常に遠いため、銀河系から届く光を観測するには、常に現在の技術でできることの限界に挑戦していかなければなりません。
ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、打ち上げが予定されているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、地球の大気圏外から観測し、部分的に赤外線に特化しています。
そして今、宇宙誕生ビッグバンの約2億年後くらいに輝き始めたとされる新星の初めての観測への期待が高まっています。
初期の宇宙についての発見を待つ間、星を見るたびに過去に戻って見ていることを思い出してみてください。
北斗七星を見上げれば、地球がどのように見えているかを逆に想像することもできます。
科学は、信じられないほど進歩しているのです。
参照元:
・How Space-Time Works When You Look At The Stars
・The Beginning