アイスクリームやかき氷は、熱すると溶けます。
一方で卵はその逆で、ゆでたり、焼いたりして熱すると固まってしまいます。
おそらく、どちらも当たり前すぎて、理由なんて考えたことすらないかもしれません。
しかし、この「あたりまえ」なことを科学的な視点でみると、なぜ半熟卵や温泉卵、ピータンができるのか、茹で卵を生卵に戻せない理由などとてもおもしろいことに気づけます。
その他にも、卵のように加熱すると固まるものにセルロースと呼ばれる炭水化物があります。
このセルロースの添加物(メチルセルロース)を、アイスクリームの材料に混ぜるだけでホットアイスクリームが簡単に作れてしまいます。
熱いと固まって、冷めると溶けるホットアイスクリームのできあがりです。
このように、「あたりまえ」なことを当たり前にしないで、なぜそうなるのかを考えて、疑って、探求することに、生活をもっと楽しく便利にするヒントが隠されているのです。
それでは、さっそく卵を加熱するとなぜ固まるのかについて、科学的な理由をもとに下記に分かりやすく紹介します。
生卵とゆで卵の違いは何?
生卵の殻を割ると、白身とよばれるゲル状のもののなかに、黄色くて丸い黄身が出てきます。
それでは、ゆで卵の殻を割ると何が出てきますか?
そうです。そこにあるのは、殻を割っても形が崩れない白い固体。
加熱されて、卵の半透明な白身は真っ白になり、ゲル状から固体に変わりました。
白身を切ると、丸い白身に囲まれて、中からは黄色くてもろい固体が。
それでは、卵を茹でている間に、殻の中では何がどのように変わっていったのでしょうか。
卵は加熱すると変化する(変性)
食べ物は、熱い湯の中で加熱されて、どんどん内部の温度を上げると、奇妙なことが起こり始めます。
ニンジンはやわらかく、アイスクリームはどろどろにとける一方で、卵は固く強くなるのです。
それでは、卵だけ変化の仕方が違うのはなぜでしょうか?
卵はなぜ加熱すると固まるのか
卵は、タンパク質なります。
タンパク質は、私たちの骨をはじめ、流れる臓器として知られる血液、ホルモンなどの材料となる大切な栄養素です。
特にアスリートには、強靭な筋肉や臓器をつくり、エネルギー源にもなってくれるタンパク質はなくてはならない存在。
そして、それが「料理すると卵が固まる理由」でもあります。
もし、あなたが、超高性能な顕微鏡をもっていて、それで生卵を拡大していくと、おそらく畳んだ洗濯物にもみえる紐状のものが浮かんで見えるでしょう。
これが、卵のタンパク質を作っている細長い分子。
そして、それをじわじわ温めていくと、畳んだ洗濯物のように見えていたタンパク質が、熱によって広げられていき、お互いにくっついたまま動けなくなるのです。
そして、加熱しはじめて約12分後には、とうとうきれいに畳んだはずの洗濯物が崩れるようにして広がり、お互いにくっつき合い、ごちゃごちゃした塊になってしまいます。
それが、ゆで卵の状態です。
ゆで卵の仕組み
ゆで卵の仕組みを、少し科学的な目で考えてみましょう。
卵のタンパク質は水素結合(水素原子をなかだちとしてくっつきあう結合)によって折り畳まれた構造を保っています。
このとき、タンパク質の表面は、水に混ざりやすい性質(親水性)の部分が覆い、水と混ざりにくい性質の部分は水を避けて内側に入り込んでいるため、水分を含んで水にただよった状態で、自由に流れることができます。
しかし、加熱によって水素結合が壊されると、折り畳まれた状態が崩れて糸状に伸びてしまいます。
そうなると、分子の内側に隠されていた部分が表面にむき出しになります。
この部分は、水と混ざりにくい性質があるため、水を追い出して、仲間同士でお互いにくっついてからみあい、動けなくなってしまうのです。
ゆで卵を冷やすと生卵になるか
それなら、一度加熱したゆで卵を冷やすとどうなると思いますか?
卵は、熱が除かれた後も、タンパク質同士がくっついたままで固体の状態を保ちます。
ご存知の通り、ゆで卵を氷につっこんでも、固体のままでもう生卵には戻りませんね。
タンパク質は、水素結合が崩れてすでに固まってしまう(変性)と、尿素を加えたり、特別な機械で分子レベルの圧力をかけたりなど最新技術を用いない限り、もう元の状態には戻らないからです。
一方で、卵のタンパク質と同じように加熱で固まるセルロース(メチルセルロース)は、冷やすと液状に戻ります。
卵が固まるのはタンパク質が変性したから
タンパク質からなる食べ物が、加熱調理や条件によってさまざまに形を変えるなんておもしろいですね。
卵のタンパク質は、加熱だけでなく、酸(レモンや酢)やアルコール、アルカリ、塩を加えても固まります。
たとえば、卵をアルカリの条件下におくと、タンパク質が変性してピータンができます。
卵の加熱にしても、条件を変えるだけでさまざまなゆで卵ができます。
たとえば、ゆで卵ができる前に加熱をやめるとどうなるのでしょうか?
卵のタンパク質は、畳まれた状態から広がってくっつきあうまでに時間がかかります。
そのため、液体と固体の間のようなどろっとしたゲル状になるのです。これがいわゆる半熟卵。
卵のタンパク質は、加熱時間が長いほどお互いにくっつき合い、分子同士が動けなくなっているのです。
実は、卵白と卵黄は、それぞれのタンパク質の主成分が異なるため、固まる温度が微妙に違います。
黄身は約65度から70度くらいの低温で固まり、白身は(60度から固まるタンパク質もありますが)それよりも高い温度の約70度から80度くらいで完全に固まるタンパク質が多いので、低い温度に保つと温泉卵ができるのです。
体に必要な栄養素「タンパク質」
私たちの体は、卵をタンパク質のままでは吸収できないので、消化酵素によってアミノ酸と呼ばれる状態まで細かく分解してから体に取り込んでいます。
体を作るタンパク質は、このアミノ酸が線状に連なって再び結合したもので、その組み合わせによって、筋肉や皮膚、髪の毛などさまざまな形に構成されていきます。
タンパク質が足りなくなると、筋力が低下するだけでなく、免疫機能や思考力の低下にもつながります。
ゆで卵でもめだま焼きでも食べやすい調理方法で、三食積極的に食べるように心がけましょう。
最後に
いかがでしたか?
料理は、家で手軽に科学に触れるとてもよい体験になります。
もし次にゆで卵をつくったら、ぜひ温度の違いによる卵の固まり方や半熟卵とゆで卵の食感の違いなどを観察してみてください。
新たな発見があるかもしれません。