酔っぱらうと記憶が飛ぶ脳のメカニズムとは?

酔っぱらうと記憶が飛ぶのはなぜ?人体の不思議

週末の飲み会で、頭が痛くなり、どうやって家に帰ったのかすら覚えていない。

このように、記憶が消えるほど酔っぱらうことを「ブラックアウト」といい、アメリカでは半数以上の大学生が経験するといわれています。

記憶が飛ぶとは、意識を失うこととは違います

おそらくあなたは、泥酔中でも人と話したり、歩いて家に帰ったりすることができるでしょう。家に帰ると歯も磨いたかもしれません。

一体、それらの記憶はどこへ行ってしまったのでしょうか?

それでは、週末の夜に時間を巻き戻して、酔って記憶を失った「空白の時間」に脳では何が起きているのかについて、下記にできるだけ分かりやすく紹介していきます。

どうやら、「酔っぱらっても会話はできるのに、ただ記憶がないだけ」なのはアルコールに耐性ができない脳の領域「海馬」が関係しているようです。

飲みすぎると記憶が飛ぶ理由

通常は、会話をはじめ、どのような体験に関しても、新しい記憶は短期記憶として脳の前頭前皮質(ぜんとうぜんひしつ)と呼ばれる領域に保存されます。

そして、脳内の海馬と呼ばれる領域の助けによって、長期記憶に保存できるようになります。

しかし、ここで重要なポイントがあります。

これらの新しい記憶を長期記憶に保存するには、NMDAやGABA(ギャバ)といった特別な神経伝達物質の働きが必要なこと。

しかし、お酒は、これらの神経伝達物質の適切な働きを妨げ、不完全な記憶や空っぽのファイルのみを脳に残して、昨夜のできごとを思い出せなくしてしまうのです。

アルコールが血液を通じて脳の届くと「酔い」が生じる

一般的に、摂取したアルコールは、胃や小腸で吸収された後、(一部は尿や汗などで排泄されますが)ほとんどが肝臓で代謝されます。

そして、肝臓の許容量を超えて分解しきれなかったアルコールは、血液を通じて心臓や脳などに送られます。

血中のアルコールは、再び肝臓に戻って少量分解され、また体中を巡るといった循環を繰り返し、しばらくの間体内にとどまります。

このとき、脳に送られたアルコールが、脳機能を低下させ、理性や長期記憶などにさまざまな影響を及ぼして「酔い」の症状を生じさせているのです。

体内のアルコール濃度が記憶喪失の速度と期間の影響

一般的に、酔いによる記憶の消失の程度は、脳内のアルコール濃度によります。

アルコールは、酔っぱらっている間、新しい記憶を形成する能力を低下させますが、酔う前に形成された記憶を消すことはできません

血中アルコール濃度0.2%で部分的な記憶が飛ぶ確率が高くなる

たとえば、体重73kgの成人で、1時間で8杯のお酒を飲んだとしましょう。

彼の血中アルコール濃度はおそらく約0.2%になり、これは酒気帯び運転の基準値の2倍以上に相当します。

このとき、脳にはまだ、いくつかの記憶を保存する余力は残されていますが、所々が抜けた断片的な記憶に終わるでしょう。

このように、飲み過ぎて意識がはっきりとしないことを「短期間のブラックアウト」、または、グレーアウト、ブラウンアウトと呼びます。

このようにして部分的に失った記憶は、視覚的または言語的な手がかりによって後日思い出す可能性があります。

しかし、それでもさらにお酒を飲み続けると、完全に記憶を失い、手がかりがあっても思い出せなくなってしまいます。

血中アルコール濃度0.3%で海馬がマヒ

記憶が飛ぶ現象は、記憶の中枢である海馬との関わりが深いといわれています。

たとえば、それから30分の間にさらに4杯追加で飲んだ場合、血中アルコール濃度は約0.3%に達し、海馬の神経細胞がマヒします。

この段階になると、少し前のことや今やっていることすら記憶できなくなったり、何度も同じ話をしたりして、完全な記憶の喪失が起こる可能性があります。

ここまでくると、おそらく次の日には、その夜の記憶がぽっかりと空白となるでしょう。

それ以上に血中アルコール濃度が上がると、一時的な機能障害が脳の広範囲にわたり、それが心臓の働きや呼吸など生命維持の中枢を担う延髄(えんずい)にまで影響すると、命にかかわる危険性があります。

脳内の報酬系はアルコールに耐性ができるが、海馬は耐性ができない

お酒を飲むと、快感を感じたり、やる気が高まったりすることがありますが、これは、アルコールを摂取することによって、一時的に、脳からドーパミンが放出されるためだといわれています。

ドーパミンとは、快感や意欲を担う脳内の神経伝達物質で、アルコールを常用すると、脳が刺激を繰り返し受けることに慣れていき、このドーパミンの分泌機能はどんどん低下していきます。

そうなると、脳が快感を覚えるためには、より多くのアルコールが必要になり、必然的に飲酒量や頻度が増えて依存症になるリスクも高まります。

このように、脳内の報酬経路はアルコールに耐性を築くことができますが、海馬は脳の奥深くにあり、記憶を形成するのに重要な役割を果たしているため、長期的なアルコール耐性を築けないのです。

周囲が「記憶が飛ぶほど酔っぱらっている」ことに気づかないこともある理由

興味深いことに、本人は記憶が消えるほど酔っぱらっていたとしても、なぜか周りの友人が酔っぱらっていることに気付かないこともよくあります。

なぜなら、脳のほとんどの部分はアルコールに耐性があるうえ、海馬の働きがマヒする前までの長期記憶は消されることはないので、酔っぱらってもある程度は会話したり、立ち歩いたりなどができるからです。

ただ、その間の記憶を脳が記録することができないのです。

記憶を失うまで飲むことのリスク

繰り返しになりますが、お酒による記憶の喪失は、アルコールの血中濃度が上がって、脳の働きがマヒしたことで、新たな記憶を形成できなくなり、記憶の保存に一時的な障害が起こった状態だと考えられています。

一方でアルコールは、推理や意思決定の機能をつかさどる脳の他の領域にも干渉するおそれもあります。

そのため、酔った人は、交通事故やけんかを引き起こしたり、犯罪の犠牲者になったりすることも多いようですが、記憶の一時的な障害のために、ほとんどそれを覚えていないのです。

飲酒によって記憶が飛ぶのを予防するには

お酒を飲んだからといって、誰もが必ずしも記憶が飛ぶわけではありません。

酔い方に個人差があるのと同じで、飲んで記憶をなくすのも、性別や体重、遺伝子や家系的なものなどさまざまな要因によって引き起こされやすさが異なります。

たとえば、お酒を飲んで大脳皮質がまひすると、理性が働かなくなってしまいお酒の席を台無しにしてしまうほど酒乱になる人もいますが、これは、体内のお酒を分解する酵素の遺伝性と関係があることも分かってきました。

また、飲んだお酒の量や種類、濃度、ペースにもよりますが、特に空腹時に飲んだり、強い酒を短時間で飲んだりして、血中アルコール濃度が急激に上昇することも大きな要因になります。

恐ろしいことに、記憶が消えるほどの飲酒を慢性的に繰り返していると、長い目で脳の記憶力低下につながるリスクが高くなるともいわれています。

いずれにしても、血中のアルコール濃度を急激に上げる飲み方はしない方がよいことだけは確かです。

それでは下記に、お酒(アルコール)が脳や体に複雑に与える影響について、コロンビア大学のSamuel Ball博士によるアドバイスを紹介します。

アルコールのリスク

今日では、研究によって、アルコールを常用すると、脳の感受性や神経回路、体の機能の様々な分野に深刻な影響を与えることが分かってきました。

脳では、記憶力をつかさどる海馬や運動のコントロールに関与する領域の感知力が低下して、認識機能への悪影響が高まる恐れがあります。

そうなると、物忘れや体が自由に動かせない、集中力や注意力の低下、無気力状態などにつながることもあります。

また、アルコールのほとんどは肝臓で代謝されるため、飲酒量が増えるほど肝臓に負担がかかるのはいうまでもなく、肝臓の機能が低下すると、体の酵素レベルや血流にも影響を及ぼすでしょう。

その他、胃や膵臓、食道にもさまざまな影響を与えてしまうことも懸念されています。

参照元:
What Happens To Your Brain When You Get Blackout Drunk
・・How Alcohol Affects Your Brain And Body