実は、5歳までの子供は、ほぼ完ぺきな呼吸方法をしているにもかかわらず、10歳になる頃には、ほとんどの子供が肺の上側のみを使った間違ったやり方(垂直呼吸)で呼吸をするようになっています。
これは、米国の臨床心理士であり、呼吸法の創設者といわれるベリサ・ヴラニッチ博士の研究によって分かったこと。
まず、息を深く吸ってみてください。
この時に、少し背が高くなったかのように上半身が上がるようなら、あなたの呼吸方法は、残念ながらよくないと思ってください。
ここでは、間違った呼吸方法の要因となる子供のころからの行動や、適切な呼吸のやり方、さらにはアメリカ国防総省(ペンタゴン)でも取り入れられているアメリカの軍隊で生まれた呼吸法について、ベリサ・ヴラニッチ博士によるアドバイスを紹介します。
アメリカの軍隊は、緊張や疲労、ストレスの多い極限状態でも冷静に、前向きな思考が求められるため、タクティカルブリージング(Tactical Breathing)という呼吸法によって自律神経を安定させているそうです。
間違った呼吸のやり方
深く息を吸った時に、首や肩を使って胸(胸郭)を持ち上げる胸式呼吸は、解剖学上、正常に機能していない呼吸のやり方だといわれています。
実は、10人中9人がこの誤ったやり方で呼吸をしており、本来使うはずのない首と肩の筋肉を一日に何千回も一年で何百万回にもわたって酷使しているのです。
このような非効率な呼吸の結果、首や肩の痛みだけでなく、焦燥感や不安感、攻撃・逃避反応、睡眠トラブル、消化器系の問題などさまざまな悪い影響を引き起こしやすくなります。
適切な呼吸なら平均して300ml程度の空気の入れ替えができるのに対して、私たちはわずかな量の空気を出し入れするだけになっているのです。
それでは、一体わたしたちの呼吸方法はいつごろからどのようにして悪くなっていったのでしょうか?
非効率な呼吸を引き起こす原因
先に述べたように、5歳までの子供のほとんどは、正しい呼吸方法をしています。
しかしながら、10歳になった頃には、いつのまにか大人のように適切な呼吸ができなくなっているのです。
どうやら、この5年間に呼吸のやり方を間違った方向に作用させる何かがあるようです。下記に、その原因として現在考えられているものを紹介します。
座る姿勢が長くなる
小学校に入る頃から、子供は、1日のうちで座って過ごす時間が長くなります。長い人では13時間から16時間もの間、机に向かって座っていることがあります。
もし座った時の姿勢が悪いと、横隔膜を開いて胴周囲全体を膨らませるような呼吸はできません。
さらに、「座りすぎ」は、姿勢や代謝機能、血流にも悪い影響を及ぼします。
怪我をする
年齢が上がると、活動範囲が広がり、スポーツや郊外活動で怪我をする頻度も増えていきます。
体を傷めると、その痛みによって呼吸のやり方が変わることがあり、その多くが、胴体上部(肺の丈夫)のみを使って肩を上げ下げしながら呼吸する垂直的な呼吸法になっていきます。
肺のなかで最も面積が大きく、密度の高い部分は下側であることを考えると、非効率な呼吸法になっていることが分かります。
体を締め付ける
コルセットやウェストバンド、ブラジャーのストラップ、圧迫帯、スキニージーンなど消化器系を締め付けるようなものを着用することで、腹部での呼吸が妨げられている可能性もあります。
正しい呼吸方法とは
解剖学的に考えられた正しい呼吸方法とは、胸腔だけでなく、横隔膜周辺も使った水平な呼吸です。
やり方とポイント
お腹に手を当ててください。
息を吸った時に、肩や首は動かさないで、肋骨の下側を押し出すように胴体を膨らませるイメージで呼吸してください。
それは、ただおなかを前方に突き出すのではなく、お腹に意識を集中させて、胴周り360度、後ろにも横にも広げるイメージです。最善の呼吸法は、胸部から胸郭の下側にかけて行われます。
それらの生き物は、必ず、息を吸う時には横隔膜が水平に広がって、おなか周りが360度全体的にふくらみ、吐いた時に収縮しています。もちろん、肩や首は動いていませんね。
横隔膜は、体の奥深くにある巨大な筋肉で、胸腔と消化器官を隔てています。
まずは、息を全て吐き出すところから意識してみましょう。
もう吐ける息がなくなるまで、全ての空気を搾り出すイメージです。すると、再び新鮮な空気を満たす感覚が分かってきます。
そのうえで、以下のタクティカルブリージングを行ってください。
「タクティカル・ブリージング」
呼吸は、自律神経に深く関係し、精神状態に影響を与えると考えられています。
この呼吸を行うと、緊張や疲労で乱れた心拍数や血圧を落ち着かせ、精神をよいコンディションに整えることができるといわれ、アメリカ国防総省でも取り入れられています。
これで、あなたは横隔膜を使った水平呼吸ができるでしょう。
タクティカルブリージングをサポートする動画を見つけたので、以下に紹介します。中心の青い丸が肺の中の空気の量だと考えてください。
ここで紹介したのは、新しい呼吸方法を学ぶのではなく、以前(5歳までの呼吸法)のやり方を身体に思い出させるものでした。
呼吸によって、あなたの腹筋と体幹の筋肉が強化され、酸素と二酸化炭素のバランスも改善されることを期待しています。