体臭は、多くの人の悩みのタネのひとつ。
体臭のなかでも、特に「わきが(ワキの臭い)」に対する悩みは深刻で、その多くが制汗剤やデオドラントスプレーで対策をしているようです。
実際に、アメリカでは去年、デオドラント製品(制汗剤や消臭剤など)市場が、180憶ドルを突破。それは莫大な市場です。
しかし、私たちは、自分の肌に直接つけているにも関わらず、デオドラント製品についてほとんど知らずに使用しているのが現状です。
そこで今回は、体臭を消す目的で使用されるデオドラント製品(制汗剤や消臭剤など)の本当の役割や、使われている化学物質が体にどのような影響を与えるのかについて、現代の科学で解明していることを分かりやすく紹介します。
体臭はその人のせいではない。本当の原因とは?
最初に消臭剤の特許が取得されたのは、1888年のことです。それは、体臭を気にするビクトリア朝時代の人々を助けるためのものでした。
しかし、実のところ体の臭いは、体臭を気にしている人のせいではなく、根本的な問題は、バクテリア(細菌)にあります。
人間の肌には、汗を出す汗腺が平均して200万から500万近くあり、それらには、エクリン腺とアポクリン腺と呼ばれる2つの種類があります。
汗の成分は、ほとんどが水分ですが、全てがそうではありません。
まず、エクリン腺は、全身に分布し、主に水分を排出している汗腺で、汗腺機能が悪くない限り、ほとんど臭いはありません。
一方で、アポクリン腺は、頭皮や股の間、ワキの下など特定の部位にあり、脂肪酸や尿素、および、アンモニア(タンパク質副産物)などを含んだ濃い汗を出す汗腺です。
アポクリン腺から汗がでた場合、これらの汗に含まれるタンパク質をえさにバクテリアが集まり、ムシャムシャ食べて分解し、そこにTMHA(3-メチル-2-ヘキセン酸)のような臭いのある化学物質を出します。
これが、ワキガ独特のにおいを生じさせる化学物質です。
体臭の役割
動物の場合、多くが他の動物に何か(縄張りや求愛、警告など)を伝えるために「臭い」を使います。
人間も例外ではなく、汗の成分から、食べたものやストレスを感じているか、また、幸せ度といった感情的な変化など、多くを知ることができます。
例えば、犬は、人間の臭いの変化をもとに、糖尿病患者の低血糖状態を発見するように訓練できるといわれています。
デオドラント製品の歴史は古い
消臭剤や制汗剤が発明されるまでは、人々は、香水やコロンなど、より強い匂いで体臭を覆い隠そうとしていました。
しかし、19世紀後半、世界で一番最初の消臭剤が誕生したことで体臭対策は大きく変わります。
亜鉛を精錬するときに出る副産物である酸化亜鉛を、細菌の増殖を抑えて臭いを消すために取り入れた「Mum(ママ)」と呼ばれる製品です。
バクテリアが少なければ、もちろん体の臭いも少なくなります。
発汗抑制剤に関しては、1900年代初めに、アルコールと塩化アルミニウムを使用して発明されました。
アルコールは、蒸発すると塩化アルミニウム(AlCl3)を残します。これは、米国化学会(ACS)によると、エクリン腺の汗の産生を抑える効果があります。
その後、多くの企業が発汗抑制剤と消臭剤を組み合わせて、細菌の数をコントロールする製品を開発していきます。
デオドラント製品の役割と健康への影響
そのうちのいくつかには、超強力な細菌(スーパー耐性菌)の発生を抑えるために、抗菌剤としてトリクロサンを、他にも、パラベンと呼ばれる防腐剤を使用している制汗剤もあります。
実のところ、パラベンは、肌の傷から血流に入ると、エストロゲンのような性質を持ちはじめることが危惧されています。
一方で、国立がん研究所が、約1600人を対象に行った研究では、発汗抑制剤、または、消臭剤自体が、乳癌のリスクを高めるものであるという証拠は明確には見つかっていません。
また、制汗剤の代わりに、自然素材のもの(エッセンシャルオイルや塩、ミョウバンなど)を取り入れる方法も効果的だといわれていますが、実際にそれらが機能するかどうかは、個人差もあり、その状況によって結果も異なるようです。
制汗剤や消臭剤は、体の微生物環境を変える
私たちの体は、多種多様な細菌や微生物が、ある一定のバランスを保ちながら共存しています。
しかし、PeerJによる微生物叢(マイクロバイオーム)の研究によると、発汗抑制剤や消臭剤を使用している人のいくらかは、ワキの下の微生物のバランスが変化していたことが分かりました。
これは、私たちが日々行っているウイルス予防策は、ときとして、知らないところで、体の細菌や微生物のバランスを混乱させることを示しています。
しかし、研究者らは、発汗抑制剤や消臭剤が私たちの皮膚や健康にどのような影響を与えるのかに関しては、まだデータがあまりに少なすぎるため、これからより多くの研究が必要だといいます。
実は、デオドラント製品は必要でないかもしれない
いくらかの人は、体臭のもととなるバクテリアが好む化学物質を産生しないことも分かっています。
あなたの耳垢は、乾いていますか?
実は、体臭を発生させる遺伝子をもっていない人の多くが、乾いた耳垢を持っているといわれています(湿った耳垢をもつ人はたったの2パーセント)。
そのため、もし、あなたが、乾いた耳垢であるなら、もしかしたら消臭剤は必要ないのかもしれません。