これはとてもシンプルな粘土製の水差し(素焼き)です。ここでは、この古代の技術の素晴らしさを紹介します。
古代の人々は、水やアルコールなどの飲み物を冷やしたり、運んだりするためにこれを使用していました。
みなさんは、このただの粘土製の水差しがどのようにして中の液体を冷やすことができるのか不思議に思いませんか?
以下に、実際にガラスジャーと土器で中の飲み物の温度変化を比べて、土器が水を冷やす仕組みについてみていきましょう。
すべてのカギは、蒸発のプロセスにあります。
水の蒸発の仕組み
水を蒸発させるには、熱を供給する必要があります。
たとえば、やかんに入れた水を蒸発させるには、加熱する方法がありますね。
まず、熱い表面に水を注ぐと、水分子が温められます。熱はエネルギーの一種であるため、これによって水分子の運動エネルギーが増加します。
十分な熱が供給されれば、分子の動きが速く活発になるのです。
より活発に動く分子は、他の水分子の引力から逃れ、液体の表面から外へ出ることができます。これを「蒸発」といいます。
水の気化冷却の原理
水は、蒸発するときに、大量のエネルギーを必要とするため、周囲から熱エネルギーを奪います。
このとき、水の周囲から奪われる熱のことを「気化熱」といいます。
実は、素焼きの土器も、この気化熱によって中の水を冷たく保っているのです。
素焼きの土器の気化熱を利用した冷却シテスム
粘土製の水差しの表面をよく見ると、気孔(細かい凹凸)があることがわかります。
多孔性粘土でつくられた土器に水を入れると、その小さな気孔から水が少しずつ外に染み出します。
水分子が、細かい凹凸の表面を通って気孔から蒸発するときに、容器を冷やすのです。
結果的に容器に入れていた水も冷たくなります。
実際に、これをテストしてみましょう。
ガラスジャー vs 素焼きの土器 実験結果
ここに、粘土製の水差しとガラスジャーがあります。どちらも約24時間前に同時に水を入れました。
素焼きの水差しの表面を確認すると、水を入れた後に色が変わっていることがわかります。
これは、水が気孔を通って外側の表面に染み出てきたためです。
しかし、水の流れがとても遅いため、素焼きの表面を触っても濡れている感じはしません。
表面に薄い水の層が形成されるだけなので、水の大幅な損失もないのです。
まず、環境の温度を測りましょう。
外の気温は約27℃です。
次に、ガラスジャーの温度を測ると、22℃でした。
素焼きの水差しの水の温度を測ると、17℃。
ガラス製と多孔質粘度でつくられた水差しの温度差は5℃もあることを考えると、水を冷やすのにとても効果的な方法だといえるでしょう。
この気化熱を利用した冷却方法は、アジアやアフリカ地方での農産物や飲み物の保存などに採用されています。
素焼きの水差しの気化熱を利用した冷却システムについては、以下の動画で見ることが出来ます。