さて、もし水が凍るときに、膨張させないようにしたらどうなると思いますか?
液体から固体になると体積が大きくなるのは、特定の金属や鉱物をのぞいて水だけです。
それだけでも特異な性質なのに、温度や圧力を変えると、異なる分子構造の水や新しい氷の存在ができたりすることもあるのです。
現段階で、水には17種類、もしかしたらそれ以上の固体があると考えられており、氷なのにとても熱い氷非結晶質の氷「超イオン氷」なるものもアメリカのローレンス・リバモア国立研究所によって発見されています。
以下に、科学者をも魅了する極めて特異な水の性質ならではの不思議な現象を紹介します。
特異な水の性質
水は凍ると膨張します。
氷が浮くのも、冷凍庫で缶や瓶が膨らんだり破裂したりするのも、このためです。
一方で、氷を圧縮すると溶けてしまいます。氷点下4℃の氷は、大気圧の約500倍の圧力に耐えられれば溶けます。
では、水を凍らせると膨張し、圧縮すると溶けるとして、圧縮した状態で凍らせようとするとどうなるのでしょうか。
つまり、膨らんだり伸びたりしない超強力な圧力容器の中で水を0℃以下に冷やしたらどうなるのでしょうか?
圧力をかけた状態で冷却すると氷は溶けるのか凍るのか?
液体の水であれば圧力がかかっていない場合、0℃以下では凍るはずです。
しかし、もし凍結して氷になると、膨張して圧力が発生するので溶けるはずです。
たしかに溶けるべきだし、凍るべきでもあります。
問題はそこです。
融解を引き起こす圧力は、凍結を必要とする氷の膨張によって作られています。
どうやらパラドックスに行き着いたようです。
水は通常の大気圧では冷却すると凍る
パラドックスというのは「相図」のこと。
温度と圧力の組み合わせによって、物質が固体(結晶構造)なのか液体なのか気体なのか、つまり物質の相がわかる絵のことですね。
それらは、水分子が異なる温度や圧力のもとでは、最も安定した配列が異なることに影響します。
水の相図を見ると、通常の大気圧では、水を冷やすと液体から固体になることがわかります。
また、マイナス4℃の大気圧では水は固体に凍っていますが、気圧を上げると固体から液体に戻ります。
では、水が凍るときに膨張させなければどうでしょう?
水が凍るときに膨張させなければどうなるか?
水は摂氏0度以下になると凍結しようとしますが、凍結するのは一部だけです。
凍結した水は膨張し、容器が加圧され、ついにはその温度では液体の水は凍結しないほどの圧力がかかってしまいます。
相図では、液体と固体の間の線を、温度が低く圧力が高い方向へたどります。
容器をさらに冷やすと、さらに多くの水が凍結して膨張し、圧力が高まって液体の水が凍結しなくなります。
という具合です。
容器を冷やせば冷やすほど、氷の割合が増え、容器の中の圧力も高くなります。
このグラフは、一定量の水をさまざまな温度に冷やしたときの、氷と水の割合を示しています。また、それぞれの温度で発生する圧力も表示しました。
容器が完全に氷になるかどうかは、もう一度、相図を見てみましょう。
温度が十分に低く、圧力が十分に高くなると、残った液体の水が凍って、氷IIIという別の相の結晶構造になることがあります。
「氷III」と呼ばれる氷
水には、17種類もの結晶構造があると考えられており、氷の発見された順番によってそれぞれ名前にローマ数字がついています。
氷IIIは、普通の氷(氷I)とは分子の集まり方が違う別の性質をもった氷です。
そして、氷IIIは凍ると収縮して密度が高くなり、空間が広くなって容器全体が固まるのですが、一部は通常の氷(氷Ih)、一部は氷IIIになります。
これらは、全て水分子がつくる結晶構造が異なることによって生まれます。
つまり、パラドックスではなく、部分的に秩序化した二種類の水の相を持つ二律背反であることがわかったのです。
私たちのまわりにある水は、本当に奇妙な液体なのです。