なぜ燃料を捨てながら飛ぶジェット機があるのか?

2020年1月 9日

2018年3月23日、上海からニューヨークへのフライト中、機内で60歳の女性が突然呼吸困難を引き起こしました。

そこでパイロットは、意識を失い始めた乗客を救うために一つの決断を下します。

なんと飛行機から2万ドル(200万円以上)に相当する29,500kg以上の燃料を空に捨てたのです。

その後、飛行機は米・アラスカ州のアンカレッジに緊急着陸し、その乗客は地元の病院で無事回復しました。

このように、航空機のパイロットは、機体の不具合や急病人が出るなどごくまれなケースにおいて、やむおえず空の上でジェット燃料を捨てる選択をすることがあります。

それでは、そもそもなぜ航空機が、決して安いとはいえない燃料を投棄する必要があるのでしょうか。それには良い面も悪い面もありますが、ここでは航空機が燃料を棄てながら飛行しなければならない理由について紹介します。

航空機が飛行中に燃料を棄てる理由

アメリカ・フロリダ州にあるエンブリー・リドル航空大学の准教授、アンソニー・ブリックハウス氏は、次のように言います。

簡単にいうと、燃料投棄は着陸する前に航空機の重量を軽くする意味があります。

重量のある航空機は、着陸時の衝撃によって機体が損傷する可能性が高いため、特定の重量以下で着陸するように設計されているからです(最大着陸重量)。

たとえば、ゾウ3頭分の重量に相当する5000ガロン(約19万リットル)の燃料を搭載した航空機でいうと、燃料が積まれたまま着陸するのはリスクが高いため、燃料タンク内が満タンのまま着陸することはほとんどありません。

目的地によっては、着陸時の衝撃を吸収する降着装置(ランディングギア)の強度を考えてタンクを満タンにしないまま離陸することすらあります。

一般的に航空機は、フライトプランナーによって、目的地まで安全に到着するために必要な燃料の値が計算されているので、飛行に伴う燃料の消費のおかげで機体はどんどん軽くなり、安全に着地ができるようになっているのです。

つまり、機体への負荷を考えると離陸時に比べて着陸時の方が軽量であることが望ましく、総重量がより軽いほど航空機への負荷が少なくてすみます。

パイロットが燃料を棄てるのはどんなときか?

機体の総重量が大きい長距離運行の航空機などで、離陸直後に機体の不具合が発見されたり、乗客の命が危険に晒されたりした場合など、燃料が十分に減らない段階で予定よりも早く緊急着陸しなければならない非常時に限って、パイロットは意図的に燃料を大気中に棄てて機体を軽くする選択ができます。

もし、パイロットに緊急着陸までまだ時間が残されていたり、小型の飛行機で燃料を棄てるほどの余裕がないような場合は、燃料投棄は行わず、翼のフラップを出して燃料消費率を上げたり、低い高度を旋回してタンクに残った余分な燃料を消費したりして機体を軽くできますが、2018年のケースのように残された時間がわずかな非常時には、燃料投棄システムの出番となります。

航空機による燃料投棄の仕組み

燃料投棄システムは、毎秒数百キロから数千キロもの燃料を機外へ排出できるため、ほとんどの航空機は15分以内には機体の重さを最大着陸重量まで減らすことができます。

通常それは、コックピットのスイッチを切り替えるだけで簡単にできます。

航空機の燃料タンクは主翼の内部に格納されており、スイッチが切り替わると、ほとんどのシステムは、ポンプとバルブを制御するシステムの起動によって、燃料が翼の先端に向けて排出されます。すると、機体の後方に向けて、翼のノズルから飛行機雲のように霧状に燃料が流れ出します。これらの燃料投棄システムは全ての航空機に搭載されているわけではなく、長距離を飛行する大型のものが主となります。

このように燃料をいつ、どのように投棄するかを決定するのはパイロットの判断だけではありません。

連邦航空局 (FAA)にはいくつかの規制があります。航空機は、燃料が気化して地上に降り注がないために十分な高度(ルートに沿って最も高い障害物から少なくとも2,000フィート(約610m)上空)にあり、他の航空機から少なくとも5マイル(約8km)、人口の多い地域や水域から可能な限り離れていなければなりません。

しかし、FAAポリシーの規制とは別に、通常、燃料の投棄は地上に降り注ぐほどの影響は少なく、環境保護庁もこの慣行は非常にまれであると見なしているため、環境汚染的な観点から許容しているようです。そもそも燃料投棄は航空会社にとっても無駄な出費となるため、それを促進しないという事実に基づいています。

燃料投棄のメリットとデメリット

もちろん、燃料を投棄する能力を備えた航空機が増え、非常に多くの航空機が燃料を投棄しているのであれば、緊急事態の観点からではなくEPAは検討する必要があるでしょう。

しかし、1999年のブリティッシュ・エアウェイズ(航空会社)の発表によると、大気中に投棄される燃料は、航空業界で毎年使用されている燃料の0.01%に満たないと推定されています。

今日もその値が適応されるなら、2018年に投棄された燃料は、米国の航空会社だけで約200万ガロン(約7571キロリットル)に及びます。

投下されたジェット燃料は、地上に降り注ぐ前に蒸発するはずですが、ボーイング社は「燃料は、たとえ蒸発しても大気中には浮遊し、最終的に地上に到達する可能性がある」といいます。

また、米国ATSDR(有害物質・疾病登録局)は、大気中に排出されたジェット燃料の生分解性に関するリストを作り、研究によってそれは風によって運ばれ、スモッグの成分になる可能性があるといいます。

それでは、燃料投棄の他に選択肢があるのでしょうか?

たしかに、総重量が大きいの航空機を着陸させることは可能ですが、推奨はできません。

航空機の安全運航に関する国際航空組織「飛行安全財団」は、1900年代初頭から現在までの約300におよぶ航空機の安全に関する事故をリスト化しています。

リストによると、燃料投棄をしないまま着陸するとそのたびに、航空機は再び飛行する前に、長時間におよぶ検査のために足止めされたままになります。

実際に燃料投棄をしないまま着陸すると、航空機に過度のストレスを与えるため、地面からの強い衝撃を受けて即座に深刻なダメージを受けるか、長い目でダメージを引き起こす可能性が高いからです。また、航空会社にとって時間と修理費用のロスになるだけでなく、火災の発生といった乗客の安全問題にもつながる可能性もあります。

最後に

このように、パイロットや航空管制の指示のもとで、燃料投棄かそれともそのまま着陸かの選択がされたとしても、各オプションにはそれぞれ良い点と悪い点があります。

しかし、緊急の状況では、パイロットとしての仕事は、可能な限り迅速かつ安全に機体を地上に着陸させることであり、それが最大着陸重量を超過した総重量を意味する場合、燃料投棄を行う必要に迫られるのです。

状況によっては、選択の余地なく着陸しなければならないでしょう。

しかし、それらは全て最終的には、乗客を安全に保つことにつながるのです。

参照元:

Why Planes Dump Jet Fuel