思春期は脳の大改革期・「幼児期に脳は発達の大部分を終える」わけではなかった

2020年4月19日

子育てをする親にとって、子供の思春期はとても難しい時期だといわれています。

しかし、人間は、この怒りや混乱、不安定な情緒の嵐が押し寄せる時期から逃れることはできません。

興味深いことに、長期にわたる思春期は人間固有のもので、私たちよりもずっと成長が早い他の動物たちにはみられないようです。

さて、思春期といえば、多くの人が子孫を残すために性ホルモンが変化する時期を思い浮かべるかもしれません。

しかし、研究がすすむにつれて、ホルモン変化は十代の体で起こるほんの一部分に過ぎず、実際に行われる変化のほとんどは「脳」で起きていることが分かってきました。

ごく最近まで「幼稚園に通う頃には、脳は発達の大部分を終える」といわれ、早期の育脳教育に注目が集まっていましたが、実のところ、脳が成熟するにはそれよりもずっと長い時間がかかるのです。

そして、とりわけ思春期というものは、脳にとって大改造を始める重要な時期だと考えられるようになってきたのです。

この第二の脳の成長期ともいえる数年間に、脳では、思春期に起こる目覚ましい身体的な成長に相当する変化が引き起こされます。

ここでは、思春期の身体や脳で起こる変化が、結果として、10代特有の感情の起伏や態度に表れやすい理由を中心に分かりやすく紹介します。

10代の経験の結果としては、脳はより強く、より速く、より洗練された劇的な変化を遂げる可能性に満ち溢れているのです。

思春期のホルモン変化の影響

それでは、まずは思春期の悩みの種となりやすい「ホルモン」について考えていきましょう。

ホルモンは、単に思春期の感情の起伏や恋愛などに影響を与える化学物質というだけではありません。

実際のホルモンの働きは、心臓の鼓動や体の水分補給機能をはじめ、骨や筋肉、皮膚、臓器組織の成長など自分の意思とは無関係にありとあらゆる分野に及びます。

なかでも人々が「十代のホルモン」について話すときに実際に意味するのは、「性ホルモン」かもしれません。

たしかに思春期には一連の性ホルモンに嵐が引き起こされます。

最初の嵐は、小学校に行く前に始まります。副腎からアンドロゲン(男性ホルモン)が産生されることで、皮膚の皮脂腺(ひしせん)の活動が活発化して肌が脂っぽくなったり、汗を分泌するアポクリン腺と呼ばれる器官が活発化されたります。

続いて思春期には、生殖腺を活性化するホルモン変化の波が訪れます。

男の子の場合、下垂体からの黄体形成ホルモン(性腺刺激ホルモン)が分泌されて、精巣からテストステロン(男性ホルモン)がつくられます。10代のテストステロンは、思春期前に比べて最大で50倍にも及ぶといわれ、それによって男らしい体つきに変わったり、体毛が濃くなったり、筋肉が増幅されたりします。

女の子の場合、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が盛んになることで、腰まわりに脂肪がつきやすくなったり、乳房が膨らんだりして女性らしい体つきに成長します。

人間が経験する急激なホルモン変化は思春期だけ

幸いにも人間は、このような急激なホルモン変化の嵐を経験するのは人生で一度きり。

他の多くの動物は、繁殖シーズンが訪れるたびに、さかりとも発情期とも呼ばれる激しいホルモン活動を幾度となく経験します。

なかには、テントウムシのオスように繁殖期になると、一切食事を摂らずに交尾に夢中になる種もあるほどです。

思春期に起こりやすい問題の原因

そうはいっても、10代のホルモンによる影響は、私たちが思っているよりもはるかに低く、思春期ならではの問題の多くは他の要因が関係しているようです。

たとえば、思春期ならではの不機嫌さや怒り、落ち込み、または、ゾンビのような怠惰感などは、慢性的な睡眠不足が影響している可能性があります。

睡眠不足になりやすい

睡眠はすべての人に不可欠なものですが、子供や10代にとっては特に重要です。脳下垂体から発達に必要な成長ホルモンが放出されるのが睡眠中だからです。

「寝る子は育つ」といわれるように、身体的な成長や体の修復に欠かせない「睡眠と覚醒のリズム」は、ホルモン分泌機能によって調整されています。

たとえば、体内時計による通常の睡眠サイクルは、昼間に分泌されるコルチゾールと呼ばれるホルモンによって主にコントロールされています。コルチゾールが目覚めを助けるホルモンである一方で、メラトニンと呼ばれるホルモンには、暗くなったら自然と眠くなるように働きかける役割があります。

しかし、生物学によると、人間は思春期が始まる頃からこの睡眠時計に変化が見られ始めます。

ある研究では、成人のほとんどが午後10時ころからメラトニンを生成し始めるのに対して、10代の若者は午前1時近くまでメラトニンが生成され始めないことが示されています。

このようなメラトニンの失速は、思春期のホルモンの錯乱によるものだと考えられています。これは、10代の若者の多くが夜更かしして、翌朝目を覚ますのに苦労する理由の一部を説明できるでしょう。

もちろん、夜遅くまでテレビを見たり、ゲームをしたりして脳を刺激し続けるのは、メラトニンの放出をさらに遅らせる可能性がありますが、一部の研究者には、思春期の学生がより集中して勉強するのを期待して、朝の高校の開始時間を少し遅らせる対策を提唱する人もいます。

思春期の最も大きな変化は「脳」で起こる

10代は、体を変化させる性ホルモン、そして、睡眠に影響を与えるホルモン変化があることが分かりました。しかし、研究が進むにつれて、それ以上に十代の問題に関わるはるかに大きな要因が示され始めました。

それは、思春期の「脳」です。

研究がすすむにつれて、脳の発達が完了して成熟するまでには、これまで考えられていたよりもずっと時間がかかることがわかってきました。

それは、脳の物理的なサイズを意味するのではありません。

たしかにサイズだけをいうと、6歳になる頃までにはすでに脳は約95%に達しますが、脳内の神経細胞の結合という点では10代の脳はまだまだ未完成です。

ほとんどの場合、大人は、ものごとの結果を予測して選択や決定を行います。それらは、衝動や感情をコントロールして判断力を形成する脳の前頭前皮質と呼ばれる領域によって行われています。

思春期は合理的に考える脳の部位が未成熟

脳内では、ニューロンと呼ばれる神経細胞が、シナプスと呼ばれる接合部を介してつながっており、脳の他の領域のニューロンと情報を伝達しあいながら、記憶や運動学習などを行っています。

問題は、20代半ばになるまで前頭前野の発達は完全ではなく、ニューロン同士のつながりがまだ成長段階にある10代の頭脳では、大人のように神経細胞のつながりが機能しない可能性があることです。

他のニューロンに信号を送信する神経細胞体のしっぽのような最も長い突起は、「軸索突起」といいます。この軸索は「ミエリン鞘」と呼ばれる絶縁性の脂質の層に覆われることで、信号の伝達速度が大幅に向上されます。

神経細胞の伝導効率を高めている軸索は、成人がより迅速な決定を下すのに役立ちますが、10代では完全には形成されません。

これらの細胞の生成、増殖は緩やかな速度で起こり、最も早くに発達するといわれる脳の後ろ側の基本的な部位から始まり、ゆっくりと進んで、より高度で複雑な脳の部位へと進んでいきます。

そして、前頭前野は、最後に接続され、形作られるのです

ちなみに、米ウィスコンシン大学のシレリ博士によると、この信号伝導を高めているミエリン鞘は、睡眠時、特に深いレム睡眠の時に2倍の速度で生成されることが示されています。

そのため、もし10代の我が子が、試験の前日に勉強もせずにテレビを見ていることに腹を立てそうになったら、彼らの脳はまだ衝動をコントロールする部位が構築されている最中であることを思い出してみてください。少しは気が休まるかもしれません。

10代の脳はさまざまな分野に挑戦するほどシナプス結合が強化される

脳の構築がピークに達し始めることは、同時に、シナプス結合が除去され始めるときでもあります。

これは、「シナプス刈り込み」と呼ばれるプロセスで、結合の中から必要なものを強めるために、不必要なものを捨て去ることです。

つまり、これは、思春期が脳にとって、特別に重要な時期である可能性を示しています。

スポーツをしたり、詩を書いたり、言語を学んだりなど、さまざまな分野を実行することで、脳がこれらのシナプスの結合を強化し、将来の持続的な形状を作っていくからです。

そのため残念ながら、大切な10代の時期を一日中ゲームに費やすと、不必要なシナプスのつながりが増えていくだけになるかもしれません。

さらに、10代の脳の形成は、10代の態度といった他の方法でも表れます。

10代が感情的になりやすい理由

マサチューセッツ州にあって主に神経・精神科を専門としたマクリーン病院の科学者グループは、かつて成人グループと10代のグループをMRIにかけて、大人の顔写真から感情を特定してもらう研究を行いました。

すると興味深いことに、成人は恐怖を示した顔写真を恐怖として正しく識別しましたが、10代の若者は怒りや驚き、または、ショックを示しているなど意見が分かれ、微妙な表情の違いをうまく認識できなかったのです。

それだけでなく、MRI画像によって、成人と10代の若者の脳では、使っている脳の部位や反応の仕方が異なることも示されました。

研究では、質問に答えるときに、成人はより理論的で自制心のある選択をつかさどる前頭前野を使用しますが、10代は主に扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる感情をつかさどる脳の部位を使用することが示されました。

このような結果は、10代がしばしば感情的に反応し、気分のムラを経験しやすい理由を説明するのに役立ちます。

10代を10代たらしめる2つの理由

1つめは、合理的な前頭皮質ではなく、脳の感情的な部位がよりすばやく反応するためです。

2つ目は、相手の感情や、その背後にある意図を誤って認識しやすい可能性があるためです。

また、前頭皮質は、人々が互いに理解しながら関係し合うのに役立つため、10代では懸念が誤って判断された場合に、怒りや心配、失望を引き起こしやすいのです。

しかし、真実は、親が10代の若者を理解していないのと同じくらい、10代の若者たちも自分自身のことを理解していないことにあります。

脳では合理的な前頭前野に比べて、報酬系の形成が早い

感情的な扁桃体も、合理的な前頭前野もともに完全に接続されていない場合、10代が感情をうまく操って生産的に行動するのが難しい可能性があります。

そして、この種の反動的で衝動的な行動は、より多くのリスクを冒すことにもつながります。

それは思春期が、酒や薬に手を染めやすい時期であることを説明しています。残念ながら、発達中の脳は、持続的な影響に対して弱く最も影響を受けやすい時期でもあるのです。

実際に、研究では、10代の若者は、薬物やアルコールといった依存性の高い物質に対して、成人よりも脳の報酬系が影響を受けやすいために中毒になる可能性が高いことも示されています。

10代の前頭前野がまだ発達中であるにも関わらず、彼らの「側坐核(そくざかく)」と呼ばれる快楽や報酬をつかさどる部位はそれよりも早い段階で形成されるためです。

10代の脳は報酬に反応しやすい

脳の神経画像の研究では、大きな潜在的報酬が提示されると、10代の脳は子供や大人の脳よりもはるかに強く反応を示しますが、報酬が小さい場合、10代の脳はほとんど反応しませんでした。

基本的には、思春期には「ほめる」こと

思春期にホットなデートや勝利のゴールを与えると、彼らの脳内画像はラスベガスのように強く光り輝くような反応を示すでしょう。

もちろん、これは常に素晴らしい判断につながるわけではありません。

スリルを求める衝動、仲間からのプレッシャー、さらに運転免許証や性的な成長といった新しい世界へのアクセスが組み合わさると、思わしくない結果につながってしまうこともあります。

最後に

これから思春期を迎える人、または、今思春期真っ盛りの人やその親はぜひ覚えておいてください。

10代に経験するこの長くて時には退屈な脳の構築プロセス期間は、私たち人間にとってとても重要な時期です。

このような思春期に、脳が成人の世界に適合するために緩やかに時間をかけて発達することが、脳の柔軟性をより長く保つことを可能にしていると指摘する科学者も多くいます。

10代の大胆な衝動的行動や、自立した考え方、そして、不機嫌さは、新たな世界への共感や情熱の源となっていくのです。

つまり10代は、これから大人になるために必要な素晴らしいエネルギーに満ち溢れた準備期だといえるでしょう。

参照元:

The Teenage Brain Explained