ティラノサウルスの腕はなぜ小さいのか?

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平均体重6トン、長さ23cmにもおよぶ歯と巨大な顎を使って500ポンド(2224.11ニュートン)を引きちぎる力を持つ巨大な「ティラノサウルス」が、なぜあのようなちっぽけな腕を持っていたのか。

狩りや交尾をするときに便利な長さだったのでしょうか?

起き上がるときにてこの原理で腕の長さがちょうどよいバランス力を発揮したのでしょうか?

これは、古生物学者にとって長い間ナゾでした。

以下に、ティラノサウルスが体のわりにちっぽけな腕をもつナゾについて、興味深い有力説を中心に紹介します。

ティラノサウルスの腕はなぜ小さく進化したのか

学者の中には、ヤモリのカモフラージュ、人間の母指対向性(物を掴みやすいように親指が他の4本指と向き合った配置)、花に擬態した虫などの進化の特徴と同様に、ティラノサウルスの腕は、小さく進化することでなんらかの利点を与えたと考える人がいます。

一方で、メリットではなく、デメリットによって、腕が小さくなったと考える学者もいます。

それでは、両者の意見の相違について、まずはデメリット説から考えてみましょう。

ティラノサウルスの小さな腕は進化の遺物説

ティラノサウルスの祖先は、大きな体に進化するにつれて、巨大な顎だけで狩りや食事ができるようになっていきました。

顎が発達するにつれて、しだいに腕の「大きさ」が「動かすのに必要なエネルギー量」に見合わなくなっていきます。

しかし、進化は、あまり役に立たない形質をまったく新しい形質に置き換えることはできません

大きな腕が邪魔だからといって、それを鳥の翼やタコのような足に置き替えたりするのは難しいのです。

そこで、学者が考えたのは、何世代にもわたって、ティラノサウルスの腕はどんどん小さくなり、腕を維持するための大きなコストを削っていったというデメリット説です。

これは、私たち人間が、直立して二足歩行をするようになった結果、尻尾がだんだん退化して小さな尾骨になったのと同じようなもの。

ティラノサウルスのちっぽけな腕は、私たちの親知らずや飛べない鳥の翼のように、強力な捕食者が何年もかけて進化した後の遺物にすぎないとするこの説は、これまで多くの学者に支持されてきました。

ただし、ティラノサウルスの腕は、小さく退化して無機能になったのではなく、新たな役割を担うようになったようです。

小さな腕への自然淘汰が、腕に新たな役割を与えた

ティラノサウルスの祖先は、主に長い腕で獲物をつかんでいました。

しかし、頭が肥大化する進化の過程で、腕に代わって大きな顎で獲物を掴むようになると、腕は小さくなっていきます。

そして、腕が最終的な大きさに近づくと、この自然淘汰が機能的に働き、近距離での斬撃に小さな腕が有効に使われるようになったのです。

小さな腕は無機能ではなく、近距離での攻撃に適応


近年、新たな有力説として注目されているのは、ティラノサウルスのちっぽけな腕は、先史時代最強の捕食者の腕として凶暴に働き、潜在的に機能的だったという説。

ハワイ大学マノア校の古生物学者スティーブン・スタンリー氏は、ティラノサウルスの腕は、獲物を近距離で切り裂くのに使われていたと考えています。

これについて、スタンレー氏は、2017年10月に開催されたアメリカ地質学会で次のように説明しています。

長さ約3フィート(91cm)の腕についた、8cmから10cmの鎌状の爪は獲物に致命傷となる深い傷を負わせたでしょう。

また、大きな烏口骨(肩の骨)と短い腕、そのつなぎ目の臼状関節のような仕組みが可動性を大きくし、近距離での斬撃にかなり有利に働いたのです。腕は、180cmの男性の脚よりわずかに長く、同じくらいの胴回りを持っていました。

指の数が3本から2本に減らされたことで、それぞれの爪にかかる圧力も50%高まり、(一点に)集中して鋭い力を生みました。加えて、腕の骨は非常に頑丈で、斬撃の衝撃にも容易に耐えられたと考えられます。

短くて強い前肢と大きな爪は、獲物を抑える時にも、顎で噛む時にも、数秒のうちに長さ1メートル以上、深さ数センチの傷を4つつけることができ、その攻撃を何度も連続して繰り返した可能性があります。

新しい説への反論


ティラノサウルスの腕の形状に新たな光が当てられたとしても、スタンレー氏の結論に反対する懐疑的な意見もあるようです。

ブリストル大学の古生物学者であるJakob Vinther博士は、小さな腕で獲物を斬りつけるのは非論理的で、攻撃よりも交尾のために使われていた可能性が高いといいます。

メリーランド大学カレッジパーク校のティラノサウルス専門家であるトーマス・ホルツ氏も、腕が危険な道具である可能性には同意するが、手足の長さと位置からして、基本的に胸を獲物に押し付けるようにして近づけなければならない不便さから、腕よりも顎を使って攻撃していた可能性が高いといいます。

世代を重ねるごとに偶然ちっぽけな腕の種が生まれた説

もう一つの可能性は、アイルランドに赤毛の人がたくさん生じたのと同じように、進化が偶然にティラノサウルスに小さな腕を与えたという説です。

比較的小さな孤立した集団では、個人の生存や繁殖のチャンスを損なうことも、助けることもない形質が、(あまり意味はなく)たまたま、世代を重ねるごとにその傾向が強くなっていくことがあります。
赤毛と同じように、ティラノサウルスの腕の大きさもそれほど重要ではなく、たまたま生まれたのかもしれません。

しかし、奇妙にも、ティラノサウルスの近縁にあたる他の大型恐竜においても、小さい腕が進化しています。

ティラノサウルスだけでなく、他の種でも同じような形質に進化していることを考えると、どうやらたまたま小さな腕の割合が増えた説は可能性としては低そうです。

恐竜についてまだ解明されていないナゾが残されている

いずれにしても、小さな腕が、ティラノサウルスの新たな武器であった可能性が出てきたことは、恐竜についてまだ解明されていないナゾが残されていることを確信させます。

現在、科学者たちは、ティラノサウルスの腕の骨にある微細な摩耗を研究しています。

この研究は、ティラノサウルスの腕が私たちの親指のように役に立っていたのか、尾骨のように役に立たなかったのか、それともたまたま生まれたのかを解明するのに役立つかもしれません。

参照元:
Why Did T Rex Have Such Tiny Arms?
ARMS OF TYRANNOSAURUS REX