ほとんどのスカイダイバーは、地上3.8kmを飛ぶ飛行機から飛び降ります。
では、もしISS(国際宇宙ステーション)のようなもっと高いところから飛び降りるとどうなるのでしょうか?
残念ながらそれはなかなかうまくはいかないでしょう。
まず、地上に向けてまっすぐには落ちません。
実際、地表に到達するまで少なくとも2年半はかかります。
では、一体その間にスカイダイバーには何が起こるのでしょうか?
以下に、国際宇宙ステーションのような高い位置からスカイダイビングするとどうなるのかについてみていきましょう。
落下までに時間がかかる理由
地表までの落下に時間がかかる主な理由は高さではありません。
実際、普通のスカイダイバーと同じように落下できたとしたら、地表まで2時間ほどしかかかりません。
問題は、まっすぐ落下するのではなく、軌道を描いて落下してしまうことにあります。
その理由はスピードです。
落下速度
ISSはステーションと呼ばれるかもしれませんが、宇宙で静止しているわけではありません。
実際にはジェット戦闘機の12倍のスピード(時速28164km)で動いているのです。
ISSから飛び降りるときも、最初は同じ速度で移動し、少なくともしばらくの間は軌道に乗ることになります。
ISSは地上から高い位置にあるにもかかわらず、非常に薄い大気を通過しています。
そうなると大気との摩擦で速度が落ちてしまうため、ISSはエンジンを噴射して速度を維持し、地球に衝突しないようにしているのです。
ISSは宇宙空間に浮かんでいるのではないため、エンジンの噴射なしには地球に向かって落下してしまうのです。
しかし、悲しいことに、あなたのスーパースーツの足にはエンジンが取り付けられていません。
これは2つの結果をもたらすでしょう。
落下中の障害
まず、落下中も操縦ができず、高度350kmを超えたくらいから1万3千個のスペースデブリ(地球の軌道に存在する役目を終えたロケットや人工衛星などの人工物)の塊が自分を攻撃しないことを祈らなければなりません。
第二に、速度を維持するためのロケットのようなものがないため、減速して地球に向かってらせんを描いて進むこと。
しかも、それはかなりゆっくりと。
たとえば、中国の宇宙ステーション「ティオゴン1号」は高度約230kmの高さの軌道から地上に落ちるのに約2年かかりました。
ISSは、より高い位置にあるため、だいたい2年半はかかるでしょう。
しかし、いったん高度100kmの大気圏に突入すれば、長い待ち時間はもう終わりです。
大気圏に突入後のできごと
再突入する際には、1つの目標があります。スピードを落とすことです。
あなたは超音速で旅をしているため、今パラシュートを展開したら、線は切れてしまうでしょう。
問題はそれだけではありません。
猛スピードで大気圏を落下すると、少なくとも8Gの力が発生します。海面で感じる重力の8倍です。
もし足から先に落下する場合、血液が脳から足へと押し流されます。5Gまで耐えられる訓練を受けた戦闘機パイロットでもない限り、おそらく気を失うでしょう。
気絶しなかったとしても、次に上空でのマイナス80度にもなる凍てつくような寒さを心配するかもしれません。
しかしすぐに、スーツが凍るよりも溶ける可能性の方が高いことがわかるでしょう。
摩擦熱の問題
手をこすり合わせると摩擦で温かくなるのをご存知でしょうか?
スーパースーツが音速の少なくとも6倍の大気中の空気分子とこすれ合うのを想像してみてください。
あなたは空気との摩擦で摂氏約1,650度まで熱くなるでしょう。
これは、鉄を溶かすのに十分な熱さです。
高度60km付近まで落ちる頃には、熱は非常に強烈になり、原子から電子を奪い、あなたの周りにピンク色のプラズマを形成し、最終的にあなたのスーツを破壊するでしょう。
ドラッグによって手足が引きちぎられる可能性もあります。
高度41kmで、あなたはスカイダイビングの世界最高記録に到達です。
2014年、アラン・ユースタスは加圧された宇宙服を着て気球に乗り、この高さまで上昇。彼はパラシュートを展開する前に音速の壁を破って下降し、落下から約15分後に着陸に成功したのです。
スピードの問題
しかし、あなたはユースタスよりもはるかに速く落下することになるでしょう。音速の約3倍です。
つまり現実には、安全にパラシュートを展開できるほどスピードは落ちません。
上空1kmまで到達すると、特殊なスーツを必要としない普通のスカイダイバーの領域に達します。
この時点までくると、パラシュートは役割を果たすことができ、いよいよ静かに着地する時がやってきます。