全身に汗をかいてベタベタして息苦しいとき、汗を拭き取れば涼しくなるのでしょうか?
それとも、そのままにしておいた方がいいのでしょうか?
ここでは、社会常識や医学的なアドバイスなどはすべて無視して、純粋に物理学の観点から「汗をふき取るべきか」について紹介していきます。
物理学では、水だけで何かを冷やす方法は主に2つあります。
水によって周りから熱を奪う方法(液体冷却)、そして、水をかけて蒸発させる蒸発冷却です。
この2つの方法をもとにすると、物理学では、汗を拭き取るよりもそのままにしておく方がいいようです。ただし、例外もあります。
さっそく以下に、物理学的には汗は拭きとらない方がよいといわれる理由をみていきましょう。
周りから熱を奪う「液体冷却」
1つ目の水冷法は、熱い物体の上や中に冷たい水を通し、水が温まるにつれて熱を奪う(物体を冷やす)方法です。
この熱の直接移動は、車のエンジンのラジエーターや、ゲームコンピューターの液冷、発電所の液体冷却などの基本的な考え方になっています。
これをそのまま人間にあてはめて考えると、例えば1時間ごとに氷のように冷たい水を1リットル飲み、その水を体温まで温めることを意味します。そして、排尿や発汗によって水を体外に排出し、汗を拭き取ります。
1リットルの水は、温度が1℃上昇するたびに1キロカロリー(1Cal)の熱を移動させることができます。
そのため、液体冷却に水を使用すると、1時間ごとに最大約37キロカロリーの熱を奪うことができます。
気化熱(蒸発冷却)
2つ目の水冷法は、対象物に水をかけて蒸発させる方法です。
これは、氷水を飲んだり排尿したりすることによって取り除かれる37キロカロリーよりもはるかに多い値です。
しかし、人間の体においては、1時間ごとに1リットルの水を蒸発させられるとは限りません。
なぜなら、室温の条件下では、1平方メートルが1時間に蒸発させられるのは1リットルの3分の1程度であり、人間の表面積は1~2平方メートルしかなからです。
つまり、汗をかいた人が蒸発冷却によって失う熱量は、1時間にせいぜい180~360キロカロリー程度でしょう。
しかし、それでも液体冷却の5倍から10倍の冷却力です。
ただし、暑かったり、風が強かったり、乾燥していれば、蒸発冷却の威力は大幅に増すし、逆に涼しかったり、湿度が高かったりすれば、蒸発冷却の効果は低くなります。
物理学的には「汗は拭きとらない」方がよい?
いずれにせよ、人間の体にとっては、液体冷却よりも蒸発冷却の方がはるかに効果的であることは間違いないようです。
つまり、物理学では汗を拭き取るよりも、汗を蒸発させる方が効果的といえます。
たしかに汗をかくことは進化上、体を冷やすための手段であるため、体に任せることがアイデアとして最適であることはそう驚くべきことではありません。
また、物理学は、汗を拭き取ることを完全に否定しているわけではありません。
汗が文字通り滴り落ちている場合、汗が地面に落ちてしまえば蒸発冷却の役には立たなくなってしまうので、汗を拭き取ってもそれほど問題ではないようです。
それなら、汗がしたたるようなら、汗を完全に拭き取るよりも、汗を体表に塗りつける方が蒸発冷却を目的とするならずっと良さそうですね。
つまり、暑くて汗をかいていても、汗が滴り落ちてこない場合は、物理学的に考えると「そのままにしておく」方がよいといえるでしょう。
さらに、汗が最も効果的に冷却されるように、できるだけ身体の表面積を広くすることもいいかもしれませんね。