カーブボールのような変化球が打てないのは、ピッチャーの腕というよりも、実はバッターの目の仕組みに理由があることを発見した過去の研究を紹介します。
打者によると、これらの変化球が打ちにくい理由のひとつは、バットに当たる直前に、突然、不規則な動きをするように見えることです。
しかし、なぜそのようなことが起こるのでしょうか?
どうやらカーブを打てるようになるには、まずは目の画像処理方法を理解しておく必要がありそうです。
カーブボールが曲がる理由
確かに、カーブボールは曲がります。
しかし、野球のバッターは、ストレートの豪速球にも、カーブにも、どんな送球がきても対応できる準備をしなければなりません。
カーブボールとは、フォークやスライダーなどの球種と並び、下や横に大きく曲がるいわゆる変化球の一つ。
そして、これらの変化球はなかなか打てません。
英語では、「That last question was a real curveball.(最後の質問は、本当に思いがけないものだった)」のように、予想外のトラブルを比喩する表現にもなるほど。
カーブボールが曲がる秘密は回転の仕方にあり、マグヌス効果 (マグナス効果 )と呼ばれています。
簡単に言うと、ピッチャーがボールにより多くのスピンをかけるほど、ボールの上下の空気に圧力差が生まれ、それによって生じた揚力(進行方向に対する垂直の力)によって、ボールの軌道をより大きく曲げることができるのです。
カーブボールが打ちにくい本当の理由
2021年、メジャーリーグは、松ヤニのような粘着性のある物質を野球ボールにつける投手に対する取り締まりを実施しました。
グリップ力が増すことで、投手がボールにスピンをかけやすくなり、異常なほど大きなカーブを作ることができるからです。
その曲線的な動きに加えて、ピッチャーの打者を欺くような投げ方が合わさると、打者はだまされやすくなり、バットを振るタイミングや場所を間違えてしまう可能性が高まります。
しかし、それでも、ボールはあくまでもボールであり、連続した弧を描いて飛んでいるだけで、急にジャンプしたりはしません。
どうやら打者のいう「バットに当たる直前にボールの動きが変わった」というわけではないようです。
打者の目に理由があった
なぜボールの動きが急に変わったように見えるのかを説明するには、打者の目に注目する必要があります。
例えば、2010年に発表された論文では、目のどの部位がどのように画像を処理するかが調べられました。
実験では、人に動く映像を「中心視野」と「周辺視野」という異なる部分で見てもらいました。
視野の中で最も精度の高いところで見るのが「中心視」、そして、それよりも外側で見る視野を周辺視野といいます。
「中心視野」と「周辺視野」の違い
私たちが直接見ているものは、網膜の中心にあるくぼみ、中心窩(ちゅうしんか)というところで捉えられています。
直径1mmもないほどの小さな中心窩には視細胞が密集し、網膜の中でも特に高精細な感度をもって細かな違いを判別できるため、視野のなかでも最も視力のよい部分だといわれています。
そして、中心視野の周りの解像度が低い領域を周辺視野といいます。
バットに当たる直前にボールの動きが変わったように見える理由
さて、この中心視野で何かを見ているときに、周辺視野に切り替えると、動いているものがジャンプしたように見えることがあります。
野球では、バッターがボールへの(中心視野での)集中力を失うと、このようなことが起こり得ると考えられています。
それを防ぐには、ボールから目を離さないようにしっかりと集中しなければなりません。
しかし、ボールが近づいてきて、中心窩が捉えられる視野を超えてしまうと、残念ながらそれは自然に起こり得る可能性があります。
一瞬の焦点の変化が、ボールが急にジャンプしたように見える現象を引き起こすのです。
これに加えて、突然失われた視覚の正確さを補おうとする脳によって、さらに悪化する可能性があります。
脳は、ボールの位置を過去の情報に基づいて予測しようとしますが、その予測は必ずしも正確ではないためです。
2010年に発表された論文によると、これが、動いているものが遅くなったり、位置がずれたり、曲がったりして見える理由を説明できるであろうと述べています。
野球ボールに限らず、短時間で知覚しなければならないものには、航空機の滑走路のようなものもあります。
カーブボールの教訓から学ぶ
さて、この「カーブボールのナゾ」には、人生への教訓が隠されていると思いませんか。
次に人生でカーブを投げられそうになった時(思いもかけぬ場面に出くわした時)には、本当に物事がおかしくなってしまったのか、それともすべてが幻想だったのか、あるいは、プロ野球のようにプロの現場で活躍することはたやすいことではないことを教えてくれているのかなど、少し立ち止まって考えてみると何か大切なことをつかめるかもしれません。
いずれにせよ、このような視覚システムの機能的な特性を理解することは、スポーツの分野においても重要な視点となるのは確かです。