宇宙とは、一体どのようなものなのでしょう。
実は、今日の物理学者や数学者たちが述べている宇宙論は、当初アインシュタインが最大の過ちだと思っていた考え方によって築かれたものなのです。
つまり、アインシュタインがかつて撤回した方程式が、本当は正しいものであり、それによって、新たな宇宙の発見が証明できることが分かったのです。
ここでは、アインシュタインの理論の過ちについて、数理物理学者としてコロンビア大学で教授をしているブライアン・グリーン(Brian Greene)氏がTech Insiderで解説したものを分かりやすく紹介します。
ブライアン・グリーン氏は、ワールド・サイエンス・フェスティバルの共同設立者でもあります。
アインシュタインは物理学の父
アインシュタインは、1915年に発表した物理学の理論「一般相対性理論」によって、天才と呼ばれるほどの偉大な能力を開花させました。
このアインシュタインによる一般相対性理論は、現在の宇宙論における基礎となっており、科学者たちは、この「アインシュタイン方程式」をもとに、宇宙(構造や成長速度)について検証を続けています。それは、物理学の根幹を成す最も重要な理論のひとつだといわれています。
アインシュタイン方程式について
アインシュタイン方程式とは、大きなエネルギー(質量)は、時空(時間や空間)をゆがませることができるという考え「重力場方程式」を中心としています。
例えば、宇宙にある巨大な(質量の大きい)惑星の周辺では、時空がゆがみ、それが重力を生じさせています。
しかし、興味深いことに、アインシュタインは、自らが信じるこの理論を宇宙全体にあてはめて考えたときに、満足するような結果を得られませんでした。
なぜなら、それまで彼は「宇宙を静的で永久的(不変的)なもの」だと考えていたのですが、その方程式ではどうしても、宇宙空間にわずかな付加がかかるだけで、収縮、または、膨張してしまい、静止宇宙にはならなかったのです。
そこで、アインシュタインは、方程式を見直して、左側に「Λ(ラムダ)」の文字を追加して直しました。この「Λ」が有名な「宇宙定数」と呼ばれるものです。
つまり、彼は、自らが信じている「静的な宇宙」を実現するために、重力の内側への引き込む力を安定させる外向きの力(反重力)=「Λ」を付け加えたのです。
これで、アインシュタインはとても満足しました。
アインシュタインの人生最大の過ち
ところが、1929年に、天文学者のハッブルが宇宙が膨張していることを発見。宇宙望遠鏡の名の由来にもなったハッブルは、地球から大きな望遠鏡で宇宙を観察しているうちに、銀河が遠ざかっていることに気づいたのです。
これをうけて、アインシュタインは「Λ」を追加したことをとても後悔し、「もしΛを追加しなかったら、12年前にすでに宇宙が膨張していることを予測できたのに、人生最大の過ちだ」と語ったことはよく知られています。
しかし、驚くべきことは、このアインシュタインが「人生最大の過ち」と思っていたことが、実は過ちではなく、彼が「Λ」を追加した方程式によって、宇宙が膨張していることが説明できることが分かってきたのです。
アインシュタインの理論の重大さ
まず、宇宙が急速に拡大していることが分かったとき、科学者は、なにがそうさせているのかを考えなければなりませんでした。
実は、それがアインシュタインが付け加えた「Λ」だったのです。
科学者は、アインシュタインとは違う数や値を使い、懸命に答えを導き出そうとしました。そして、最終的に「Λ」にたどり着いたのです。
そして、この論理は、そのまま宇宙のビッグバンやブラックホールの存在を考えるうえで重要なカギを握っています。
このように、アインシュタインは、自分の方程式を間違いだと訂正しましたが、現代の宇宙物理学では、それが間違いではなく、重要な発見を証明するための理論の根幹を担っているというわけです。