運動前のストレッチは効果がないといわれる理由

2018年6月27日

腕を胸の前でクロスさせて、反対の腕で数秒間引っ張る。そして前屈を20秒間。

これは、多くのジムのトレーナーが何年も取り入れてきたストレッチのやり方です。

ストレッチの定番ともいえるこれらの動きは、長い間、運動をするうえで役立つと考えられてきました。

しかし、残念なことに、研究がすすむにつれてこの運動前の数分のストレッチが、怪我の予防やランニングタイムの向上に必ずしも役立つわけではないことが分かってきました。

ここでは、運動前のストレッチは効果ないといわれる理由について、筋肉の仕組みをもとに、「ストレッチで肉離れや筋肉痛は予防できるのか」などをあわせて科学的に分かりやすく紹介します。

幸いにも、体を柔らかくしたいのが目的であるなら、ストレッチは大きな恩恵を与えてくれそうです。

柔軟性とは

柔軟性とは、結局のところ「痛みを伴わずに、関節を動かす能力」であるだけです。

つまり、筋肉や腱などの組織をどれだけの範囲まで伸ばせる能力があるかということです。

一般的に、ひとつの動作でじっと動きを止めて行う「静的なストレッチ」は、正しいタイミングとやり方で行えば柔軟な筋肉や関節の構築につながります

しかし、運動効果を上げる目的で行うのであれば話は別です。

まずは、筋肉の仕組みに基づいたストレッチの運動効果から考えていきます。

筋肉が伸び縮みする仕組み

筋肉は、拡大して見ていくとサルコメア(筋節)と呼ばれる筋収縮の単位でできています。さらに詳しくみると、サルコメアは、アクチンと呼ばれる細いタンパク質(筋原線維)と、ミオシンと呼ばれる太いタンパク質が重なりあった構造をしています。

そして、腕を曲げて力こぶを作るなど、筋肉が収縮するような動きでは、アクチンが太いミオシンの間に深く滑り込むように入り込み、筋肉の束を短くします。

逆に、腕を伸ばすと、(アクチンが外側に向かって滑り出て)筋肉の束は長くなりますが、それは、ある地点までしか伸びません。それ以上伸ばそうとすると、筋肉がパチンと切れてしまう可能性があるからです。

筋肉が伸びすぎるのを防ぐ働き

そのため、私たちの体には、防御のために、筋肉の長さの変化に反応して筋肉を収縮する役割のある「筋紡錘(きんぼうすい)」と呼ばれる受容器があります。

筋紡錘は、筋肉が伸ばされると、伸びを感知して「筋肉を緊張(収縮)させる信号」を送り、筋繊維が裂けるのを防いでくれます

ちなみに、この反応は、筋肉が素早く伸ばされた場合(長さの変化の割合が速い)ほど、強く反応して収縮させようとします。

筋肉が緊張するのを防ぐ働き

しかし、もし筋肉がピンと伸ばされているときに、筋紡錘の働きによって筋収縮が強制的に起こってしまうと、かえって筋繊維を傷つけてしまうおそれもあります。

そういった場合に備えて、私たちの体には、筋肉の緊張(収縮)を感知して、それ以上縮まらせないように働かせるシステムもあるのです。

ストレッチの役割

ストレッチをするときに、しばらくの間伸ばしたまま維持することで柔軟性が上がるのは、このシステムによるものです。

詳しくいうと、ストレッチの動きに受容器を慣れさせて、筋肉の長さの変化への信号の反応レベルを低下させ、筋肉を伸ばせられるように働きかけることで、柔らかい身体をつくっているのです。

つまり、ストレッチは、結合組織の絡み合った束をまっすぐに伸ばす化学反応を起こすためのもので、分かりやすくいうと、絡み合った髪をとかしてツヤを出すブラシの働きのようなものです。

運動に対する筋肉の反応

ここまでの話から、筋肉は、短くしたり(収縮)、長く伸ばしたりできることが分かりました。

しかし、私たちが走ったり、ジャンプしたり、重い物を持ち上げたりするときには、筋肉にさまざまな力が加わっていることを忘れてはいけません。

負荷の高い動きへの反応

たとえば、重いダンベルを下ろすとき、筋肉は緊張していますが、他の力(ダンベルの重さによる負荷)によって引っ張られ続けているので、サルコメア(筋節)はまだ長くなっていきます。

このような筋肉の状態は、「遠心性収縮」と呼ばれ、本質的に悪いものではなく、運動を調節するためには必要な収縮なのです。

たとえば、私たちは、物を置くときなら上腕、イスに座る時なら太ももの筋肉を遠心性収縮させているなど、これがなければ体をコントロールすることはできないといわれています。

しかし、先ほどの重たいダンベルのようななんらかの力が、運動中に、これらの収縮を圧倒するほどの力であった場合、肉離れが引き起こされる恐れがあります。

ストレッチで肉離れは予防できるのか?

運動前に数分間静的なストレッチをすることが、肉離れのリスクを軽減するのかについて調べられた研究では、下記のことが示されています。

たしかに、筋肉が硬くなっていたり、激しいテニスの試合のように動きの幅が極端に大きい運動をしたりするときには、ストレッチが役立ちます。

しかし一方で、肉離れは、ジョギングのような通常の運動範囲内で発生することに加え、静的なストレッチはそういった運動にはあまり役立ちません。

ストレッチで筋肉痛は予防できるのか?

ハードなトレーニングをした後に、筋肉痛が遅れて発症することがよくあります。

これについて科学者たちは、エネルギーを燃焼する過程で乳酸ができたために、筋肉、または、結合組織の損傷や炎症が引き起こされたと考えていますが、完全にはまだ解明されていません。

今のところ、筋肉痛の痛みを取り除く方法で唯一分かっているのは「時間の経過を待つ」ことで、ストレッチはあまり役には立たないといわれています。

運動前の「静的なストレッチ」がいけない理由

ゆっくりと筋を伸ばしていく「静的なストレッチ」は、より素晴らしいアスリートの体づくりにはつながるかもしれませんが、筋肉の炎症や怪我を防ぐには役立たない可能性があります。

なぜなら、多くの研究によって、運動前に静的ストレッチを行うと、運動の少なくとも一部でパフォーマンスが低下することが分かってきたのです。

筋肉痛のナゾのように、その理由については完全には解明できていませんが、研究者らは下記のようにいくつかの推測をしています。

ある専門家は、筋肉の長さの変化に反応する受容器が、ストレッチの後に、反応が鈍くなることと関係しているといいます。

これは、筋繊維がすぐに働くように補強されないことを意味します。

たとえば、重いダンベルを持ち上げている場合、できるだけ早く多くの筋繊維を活性化させたいのに、反応が低下したことによって、思ったような力が発揮できなくなってしまうのです。

その他にも、筋肉と腱がつながっている部位(筋腱接合部と呼ばれる)の領域が、ストレッチ後に少しゆるむためではないかと考えている研究者もいます。

それは、筋肉から骨格にエネルギーが伝わりにくくなり、速く走れなくなったり、ジャンプ力が低下したりして、運動のパフォーマンスが落ちることを意味します。

結論

運動の前には、血流を促進し、筋肉を温める必要があるので、筋肉の動きを長い時間停止させる静的なストレッチは適しません。

かわりに、筋肉をゆっくりと動かしながら伸ばすダイナミックなウォーミングアップを取り入れて、筋肉の温度を上げた方がよいでしょう。

ある研究では、一般のボランティアからプロサッカー選手までさまざまな人を対象にダイナミックなウォーミングアップと静的なストレッチによる効果を比較したところ、ダイナミックなウォームアップを行った参加者は、静的なストレッチをした参加者よりも高く飛べ、より速く走り、筋力が強化したことが示されました。

ダイナミックなウォーミングアップにおける大きなメリットは、身体の筋肉が温められたことによってもたらされます。

筋肉の温度が上昇すると、神経の信号伝達や酸素の取り込み、筋収縮などが速くなり、多くの筋繊維の反応が活性化されるためです。

基本的に、あなたの目標が、より柔軟になりたいのであれば、静的なストレッチは役立つでしょう。体がやわらかくなれば、それだけ関節の可動域も広がり、アスリートとしての能力アップにもつながるかもしれません。

しかし、運動効果を上げたいのであれば、運動前には、ダイナミックな動きを取り入れたウォーミングアップがよいといえます。

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