適度な運動は体にいいはずです。しかし、やりすぎは禁物です。
驚くかもしれませんが、運動のやりすぎは、体や脳に深刻な影響を与える可能性があることが研究で分かってきました。
運動自体は、健康的な体重を維持し、心肺機能を向上させ、うつ病を予防する効果が期待できるといわれます。
では、具体的にどのような運動が「やりすぎ」なのでしょうか。
それは、年齢や健康状態、運動の種類などの要因によって異なります。
以下に適度な運動とはなにか、または、運動のやりすぎとはなにか、極度な運動の繰り返しが体と脳にどのような影響を与えるのかについて紹介します。
適度な運動とは
一般的に、成人は1週間に約150分から300分の適度な運動か、75分から150分の激しい運動をする必要があります。
または、その2つを組み合わせると効率のよい運動ができます。
たとえば1日30分、週5日の早歩きなどで、適度な有酸素運動を行う場合は、少なくとも10分間は継続して行う必要があります。
さらに、主要な筋肉群(脚、腰、背中、腹部、胸、肩、腕)を鍛える筋力トレーニングを週2日以上行うとよいとされます。
これはCDC(アメリカ疾病予防管理センター)が発表したものです。
運動のやりすぎはかえってよくない
しかし、それ以上の運動をしたからといって、必ずしも健康効果が高まるとは限らないことを示した研究結果があります。
アイオワ州立大学運動学部の助教授、DC(Duck-chul)Lee博士らによる研究では、軽~中程度のランナーは、運動をしない人に比べて死亡リスクが低いという結果とともに予想外な結果が示されています。
意外なことに、週に3回以上速いペースで走っている人の中にも、走っていない人と同じような死亡リスクを持つ人がいたのです。
それは、あまりに激しく走りすぎると、通常のランニングで得られる健康上のメリットが損なわれてしまうというものでした。
極端な持久力運動の繰り返しによる体へのリスク
ウルトラマラソンのような極端な持久力運動は、人によっては心臓障害、心臓のリズム障害、動脈肥大を引き起こす可能性もあります。
専門家は、過度な運動のやりすぎは心血管系に極端な負担をかけると考えています。
ある研究では、過度な持久的運動を繰り返すと、心臓が改造され、心臓の筋肉の壁が厚くなって組織が傷つくこともあることがわかりました。
別の研究では、女性は週に1回以上体を動かすと、心臓発作や脳卒中になる可能性が低くなることが示されました。
しかし、毎日激しい運動をしている女性では、心臓発作や脳卒中のリスクが急上昇したのです。
つまり、極端に過度な運動は適度な運動よりもメリットがなく、むしろリスクが高い可能性があるのです。
女性は特に、「女性アスリートの三主徴」と呼ばれるリスクを抱えています。
これは、月経の喪失、骨粗しょう症、または骨ミネラルの減少、摂食障害などです。
これらの症状は通常、過度の運動と極端な食事制限の組み合わせによって生じます。
男性の場合、激しい運動は性欲を減退させ、肉体的疲労やテストステロンレベルの低下を引き起こすことが分かっています。
男女ともに、過度な運動は腱炎やストレス骨折などの使いすぎによるケガのリスクも高めます。これらの怪我は、反復的な外傷に起因するものです。
また、免疫力も低下します。
適度な運動は免疫力を向上させますが、過度の運動は免疫力を低下させてしまうのです。
激しい運動をした後は、最大で72時間、免疫力が低下していると言われています。つまり、ウイルスや細菌が体内に侵入しやすくなり、感染しやすくなってしまうのです。
また、過度な運動をした人は、上気道感染症にかかりやすくなることもわかっています。
運動のやりすぎは、体、特に心臓、腱、靭帯、免疫系に打撃を与えてしまうのです。
運動のやりすぎは脳にも悪影響を与える
米国では約100万人の人が運動依存症になり、脳に混乱を与えているといいます。
運動依存症には、禁断症状があり、運動を休むと、不安や疲れを感じてしまうのです。
あるいは、気持ちをコントロールできなくなり、自分を傷つけているとわかっていても運動を控えることができなくなります。
運動はしないよりしたほうがいい
これまで、運動のやりすぎは体と脳によくない話をしましたが、大切なのは、運動をあきらめることではありません。
適切な量を守ることです。
米国心臓病学会誌(Journal of the American College of Cardiology)で発表された研究によると、一日5分から10分間だけ、または、ゆっくりとしたスピードで走る人は、走らない人に比べると心疾患のリスクが低下することも分かっています。
さぁ、今日から座っている時間が長い人は、ぜひ数分でもいいので走ってみてください。
ただ、ずっとはダメですよ。